第十五話 見えてるぜ
敵の手札を確認した後、自らの手札と地形を確認する。
純平は状況・条件を把握し、作戦を構築。指示を出す。
「――よし、川に追い込むぞ。俺が光弾を散らしながら誘導する。そしたら」
COLORS隊士のエルザはうっすらと笑い、純平が言葉を言い切る前に納得する。
『なーるほど。じゃ、私はそのタイミングでアイツを川のすぐ上に叩き落せばいいのね?』
「(理解が早いな、コイツは使える。黄色の奴は……多分、難しい事言ってもわからないだろうから――) 黄色のLS。お前は相手に隙ができたら突っ込め。それだけでいい」
『む? どういうことだ?』
『いつも通りやれってことだよ、アルフレッド君!』
『――いつも通りか。得意分野だ!』
黒蠅が前に出る。
純平は特飛形態のまま最後のミサイルを射出、同時に人型へ変形しライフルから巨大で遅い光の弾丸をばら撒いた。
(黒蠅の光弾は弾速と射程と威力を自由に操作できる。今回は威力重視の弾速・射程下げだ)
弾幕を嫌がり、逃げるように後退する白のLS。そこへアルフレッドとエルザの交差射撃が襲う。だが――
『見えているさ』
白のLSは鞘に剣を納めたまま振るい、黒蠅以外から放たれた弾丸を全て叩き落とした。
『馬鹿な!?』
『うっそ。弾丸を叩くとかありえないんですけど!』
『――ぼくの〈紫視覚〉は狙撃銃の弾丸すら見切り、視野の広さも320度を超える優れもの。サングラスが無いと眼が疲れてしまうのが難点だけどね……』
ガチンッ!!!
突然飛来した鉄の塊をクリアートは鞘で受け止めた。
『槍斧?』
エルザのLSの手元から投げられた紐付き槍。ピンクのLSの背中には矢筒のような物にさらに三つ、槍が入っている。
『ガードの後はまたガードしたくなるよね~。わかるわかる』
ピンクのLSは槍のピンを抜く。
『エルザちゃんからのプレゼント、しかと受け取ってね』
クリアートは槍に括り付けられている6ツの筒を見て、武器の性能を理解した。
『爆槍――』
天が光り、炸裂と共に空気が唸る。
白のLSは爆風によって降下する。爆槍は使い捨てであり、起爆と共に爆散。破片となってクリアートの機体にダメージを与えた。
『対共鳴人形想定の武器か。やれやれ、激しいアプローチだね』
だが破片が装甲を傷つけただけで、性能を損なうダメージはゼロ。白のLSはなんてことない調子で落下から立て直そうとする。
『そのタイミングじゃ、槍を弾いて距離を取るには十分すぎるよ。構造が悪いかな』
微笑むクリアート。その余裕の笑みは白い霧によって切り裂かれた。
『――なに?』
正面を覆う白い霧――その正体は水蒸気。
白きLSは今、川のすぐ上まで落下していた。LSを包むように川から湧いて出た水蒸気の理由をクリアートはすぐに直感する。
(さっき黒蠅が無駄撃ちした光弾――)
黒蠅が撃つ光弾は調節によって大きさを変化させる。先ほど黒蠅が適当に見えるほど大雑把に撃った弾丸はどれもタメのいる大きく弾速の遅い弾だった。なぜ純平はそんな意味のない弾丸を使ったのか……LSを貫くなら最低威力の光弾で十分だと言うのに。
理由は簡単。目標は敵に非ず、その背後にあった川。
(光弾の熱で、川の水を蒸発させたのか……!)
視界を支配する白一色。
例え水蒸気を抜けても水滴がメインカメラを潤してしまう。
LSは地空対応。水には弱い。雨天時専用の機能に切り替えるには十秒以上のタメがいる。
戦場では致命的なロスだ。
『しまった。視界が――』
そこでクリアートはミサイル発射からの一連の流れ、その全てが純平の思い通りの展開だったことを知る。
『(ミサイルの軌道で川に誘導、光弾で川を蒸発させぼくの視界を奪うのが目的) ――お見事。そして、この霧の中でも君にはぼくの位置が――』
「――見えてるぜ」
放たれた弾丸。
クリアートは笑い、コックピットに重ねるように鞘を被せる。――消去法。コックピットと姿勢制御の根幹である〈ポーズニュークリア〉さえ守れれば立て直せるという計算だ。
弾丸は鞘に激突する。クリアートは幸運に喜ぶが、すぐに手応えの無さから表情を無にした。
『光弾じゃない。――ペイント弾!』
「その態勢じゃ、追撃は躱せないだろ?」
――クリアート機の位置がCOLORSのLSに共有された。
『今度こそ……隙ありだ!』
アルフレッドの黄色のLSが剣をもって白きLSの脇腹を貫き、そのまま水の中へ叩き落した。
『ぐっ!? ここまでとはねぇ!!!』
「とどめは刺さない主義なんだ。自分では」
LS2は雨天時に使える。モードの切り替えが必要ないうえに、LSは雨天時だと多少視界が狭くなるのに対しLS2は雨を弾くカメラを使い尚且つ水のような物質を透過させることもできる(多少リスクはあるが)。
水圧に耐えるために必然的に装甲も堅い。水に対応するって結構大変( ´艸`)