第十三話 カラーズイエロー! 見参!
宙を舞う銃の破片。
破片を挟み、純平は侵入者のサングラスの隙間から赤と青のオッドアイを見た。
(コイツがhawk! 一体なにが目的だ!?)
純平は手に残った銃の半身を相手に投げる。侵入者は杖で投げられた銃の半身を払い、一歩後ろへ退いた。
純平は女子トイレから迫る軽い足音を聞き、「来るな!!!!」と声を荒げる。
「にい、さん? なにがおきて――」
「はじめまして。未琴ちゃん」
(琴を知っている……? コイツ、狙いはまさか――)
女子トイレから出て来た未琴。侵入者はニッコリと笑って片膝をついて未琴と視線を合わせる。
「怖くないよ。少しの間眠るだけさ」
「え――――」
パチン。と侵入者は未琴の前で指を鳴らす、すると未琴は膝から崩れ落ちるように気を失った。
「琴ッ!!!」
倒れこむ未琴を侵入者は丁寧な仕草で抱える。
「未琴は起爆剤代わりだよ。――ん?」
未琴の顔を見て侵入者は一瞬、立ち止まった。
「この顔、どこかで……」
侵入者がほんの少し隙を見せた時、白い何かが侵入者の視界を塞いだ。
「――ワイシャツ?」
ガゴンッ!! と純平の右拳が上着越しに侵入者の頬を殴り飛ばす。
「(上着で視界を遮って攻撃……) ――やるね」
(琴――――!)
純平は未琴に向かって手を伸ばす。
思わず未琴を放した侵入者だったが、刀を投げて純平を牽制。
「ぐっ!?」
「白兵戦は望むところではないのでね、退かせてもらうよ」
すぐに立て直し、侵入者は未琴の首根っこを掴んで引き寄せ逃走を開始する。その時、侵入者のつま先の方向で中性的な声が響いた。
「伏せろ純平!」
レイズ率いるCOLORS隊員が銃を構える。
彼らからは未琴が侵入者の影に隠れて見えていない。
「撃つな馬鹿!」
純平の指示で硬直した隊員たちを侵入者は鞘で一薙ぎにする。
レイズのみが躱し、銃口を至近距離で向けるも、侵入者の顔を見て指を止めてしまった。
「クリアートさん……?」
「やぁ、久しぶりだねレイズ。ちょっと痛いけど我慢して」
一蹴。右脚の蹴りがレイズを吹き飛ばした。しかし、
「おっと?」
レイズは蹴られながらも未琴の服を引っ張り、不審者――クリアートから未琴を奪い返す。
「さすがだね」
クリアートはレイズに駆け寄ろうとするが、銃弾が彼の行方を遮った。純平が倒れた兵士の銃を手に取り、構えている。
純平は一切の感情もなしに引き金を引き、クリアートの急所(心臓、頭、喉)を狙うが、クリアートは銃弾を見切り、バックステップでタップダンスするように全てを避けた。
(なんだと!?)
「良いリズムだ」
帽子とサングラスの隙間から赤と青の眼光が輝く。
純平は後を追おうとするが、飛来する音を拾って立ち止まった。――轟音がなり、天井が砕ける。空から舞い降りたLSがマクスウェルの装甲を突き破り、侵入者クリアートを迎えに来ていた。
「レディをエスコートするために呼んだタクシーだったけど……やれやれ、紳士一人、クラシックでも聞きながら帰るかな」
クリアートはLSのコックピットを遠隔で開き、コックピットへ飛び乗り発進させる。
「待ちやがれ!」
「――追いかけて来なよ」
純平はマクスウェルに開いた穴から遠くに消えるLSの背中を見て、すぐさま耳栓を外した。
(あいつ……なにを考えてるかわからないが――)
純平はレイズに抱きかかえられている未琴に視線をやる。
(間違いなく、琴を狙っていた。もし、琴の素性を知っているなら……逃がすわけにはいかないな)
――ここから瞬時に追うには……。
頭に浮かぶは黒いLS2。
純平は瞼を閉じて聴域MAPを展開。格納庫の位置を確認……そして、メンテナンス中のある一品を見つける。
「この音……! よかった、やっぱり持ってきていたか」
純平はレイズを見る。
レイズは純平がなにも言わずとも頷いた。
「琴ちゃんは任せて」
「――頼む」
純平はLSが飛んでいった方向を睨む。
(だが、勝手にLS2を引っ張り出せば色々まずいよな。穏便に済ませたいところだが――)
純平はふと、トイレの側に張られたとある戦隊ヒーローのポスターを見た。
「そうか。俺が乗ってるってわからなければ……」
純平は一案を思いつく。
思いついて、戸惑う。
「やるのか、俺。やるかぁ……やるしかないよな」
渋々と、心底イヤそうに、純平はバカげた一案を実行に移す。
――マクスウェル、第三格納庫。
そこで作業する厚着の少女、純平と同じ日董出身の〈日比谷 影乃〉は外の喧騒をお構いなしにLSをいじっていた。
「ふぅ、これでみんなピカピカになりましたね……ん?」
ガシャン。とコックピットが開く音を影乃は聞き、背後を振り返る。そこにある黒のLS2黒蠅。その肩に人影が一つ。
「あ、あの! すすす、すみません! それ、まだメンテナンス中なので、触らないでくれます――か?」
影乃は人影の顔を見て、ポカーンと口を開けた。
黒いシャツ、長ズボン。そして顔には――黄色の覆面。
「あ、あなたは一体?」
影乃から漏れた問い、覆面の男は羞恥を含めた声色で胸を張って名乗る。
「か、カラーズイエローだ。これ、借りる」
未琴から貰った戦隊ヒーロー〈カラーズイエロー〉の覆面を被り、純平と黒蠅は格納庫から発進した。
カラーズイエローをボケーと見送り、影乃は笑う。
「そ、そっかぁ。カラーズイエローさんなら仕方ないですね! ――って、いや……いやいや! 不審者ーーーーーーー! 親方、不審者ですぅううううう!!!!」