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目立つとロクなことない……本当に。  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
episode2 球型戦艦〈マクスウェル〉
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第十二話 宿敵との邂逅

 古谷薫。純平の養父の名を聞き、フォックス司令官とゴートン大佐は同時に「薫……!?」と目を見開いた。


 フォックスは慌てた形相で純平の両肩を掴む。


「あいつは……あいつは今どこにいる!?」


「いや……三年前に突然いなくなって、それっきり俺も連絡は取れてないんです。一応探してはいるのですが……面倒なことに逃げ足とかくれんぼだけは一流でして」


「そ、そうか……すまない。取り乱した」


 フォックスは襟を直し、純平から離れる。

 ゴートンは「すまないね」と純平に言葉をかけた。


「私とフォックス司令、そして君の養父は20年前に戦場を共に駆けまわった仲なんだ」


「古谷薫……名前だけは聞いたことあります。確か、COLORSの設立に一躍買ったとか。へぇ、純平くんのお父さん、すごいじゃないか」


(あいつ、元COLORSだったのか? 初耳なんだが……)


 純平が養父と出会った時にはすでに彼は一介の傭兵に過ぎなかった。むしろ、純平から見てだらしない彼は軍人とは程遠い存在だった。


「十年前から消息を絶っていてね。私達は総出で探したが、結局あいつは見つからなかった」


「よく見れば薫のやつに似ているな……その死んだような目が特に」


「ははっ。確かに、無愛想な感じが的を射てるな」


 親戚に囲まれた子供のような居心地が純平を襲う。

 純平は慣れない空気に困惑していた。


(やっぱ話したのは失敗だったか……それにしても十年前か。俺がアイツと会う一年前だな)


 九年前、焼けた研究所。白衣の死体が並んでいる中、純平は古谷薫と出会った。



――『一緒に来るか?』



 実験動物(モルモット)同然だった自分に、彼は一言だけそう聞いた。純平の中で、色濃く残る思い出の一つだ。


「…………。」


「――にいさん」


 妹の声で純平は我に帰る。


「どうした?」


「あの……その……」


 もじもじと内股を擦り合わせる未琴。純平はその動作から未琴がなにを言いたいか察する。


「トイレか」


「む? もうこんな時間か。引き留めて悪かったね純平君」


「いえ、こっちも色々初耳なことがありましたから。――レイズ。近くのトイレの場所、わかるか?」


「トイレはここを出て突き当りを右に曲がった先にあるよ。悪いけど純平くん、僕はマクスウェルの調整をしなくちゃいけないからここでお別れだ」


「りょーかい。ここまで案内してくれて助かったよ」


 純平は未琴を抱きかかえ、扉へ足を向ける。

 純平が外へ出ようとしたその時、「忘れてた」とレイズは純平に駆け寄り、純平の右手を掴んだ。


「なんだ?」


「――答え合わせ♡」


 レイズはそのまま純平の右手を引っ張り、自分の右胸を掴ませる。

 むにゃ。という効果音がなりそうなほど柔らかい胸を触り、純平はレイズの性を理解する。


「ぼくは女だよ。男装(これ)は趣味。――ちなみにぼく、男も女もどっちもイケルから、()()()があるならまた声を掛けてね」


「どの気だよ……」


 一つの大きな謎が解けたところで純平はレイズと別れた。


 純平と未琴はレイズに教えてもらった通りに道順を行き、トイレへ向かう。


「琴、ここからはひとりでいけるな?」


「もちろんです!」


「じゃ、俺は外で待ってるから終わったら呼んでくれ」


「らじゃ!」


 駆け足でトイレへ行く未琴。

 純平はトイレの正面の壁に背を預け、瞼を閉じた



 待つこと数秒、純平はピクッと耳を揺らした。



「そっちは女子トイレだぜ、おっさん」



 純平は瞼を開けないまま忠告する。

 杖をつき、サングラスをかけた鼻の高い男は足を止める。


「――失敬。段々と視力が劣化してきてね……よく間違えるんだ」


 長い帽子を深く被り、紳士風のコートを着た男は笑う。

 純平は瞼を開き、冷や汗を垂らしながら目の前の男を凝視した。


(なんだ……コイツ、明らかに軍人じゃない。いや、それよりも――)


 人間から聞こえるはずの音、それが目の前の男からは聞こえなかった。


(まさか、ありえるのか? コイツからは心音が聞こえない……!)


 純平は組んでいた腕を解き、背中を壁から離して臨戦態勢に入る。


 異常な威圧感。

 純平の不安を煽るようにサイレンが艦内に鳴り響く。


『Emergency! Emergency! 未確認人物が艦内に侵入! 隊員四名が負傷、いずれも刃物によるものです! 目撃情報から不審者は最上階に――』


 アナウンスの声が鳴り響く。

 純平は瞬時に目の前の男が不審者だと断定する。不審者の男は純平に背を向けたまま杖から仕込み刀の刃の光を反射させる。


「……別にCOLORSを襲うのは構わないが、そっちは勘弁してくれないか? 妹が居るんだ」


(とい)1、この仮面に見覚えあるかな?」


 男は左手を杖に添えつつ、右手で懐から銀色に輝く鷹の仮面を取り出した。

 純平は傭兵団を壊滅に追い込んだ依頼者A――〈hawk〉の特徴を思い出していた。



――『銀色の仮面を付けた男、身長は俺と同じぐらい、つまりは170後半』



 目の前の男と純平の視線の高さはちょうど同じだった。


「……まさか」


 純平は左内ポケットにそっと右手を添える。

 仮面が地面に落ち、割れた。


(とい)2、ぼくが用があるのは誰でしょう?」


 男は右手で杖に仕込まれた刀を引き抜いていく。

 その刀身の半分が姿を見せようとした時、純平は瞳を氷のように冷たくした。


(奴から俺は見えていない。背後からぶち抜いてやる)


 純平の静かな殺意が純平自身の右手に伝わった瞬間、男は依然背を向けたまま見透かしたように笑った。




「――(とい)3。君の早撃ちとぼくの居合い、速いのはどちらだろう――――か?」




「――――ッ!!!?」


 次の瞬間、純平が左内ポケットから取り出した拳銃は撃鉄を起こすことなく切り裂かれた。

ちなみにレイズには女装趣味の弟(14)が居て、めちゃくちゃ可愛いと噂になっているとか。弟も男と女どちらもいけるらしい。

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