prologue “パイロット不足”
「パイロット不足だ」
朝一番、まだ太陽も寝起きの刻、ブルー=ロータスは上官にそう言われた。
パイロット不足。その言葉をブルーは脳内で“優秀な”パイロット不足だと変換させた。現在、ブルーが所属するウルス共和国直属軍〈COLORS〉には多くのパイロット志望者が居る。が、実力が伴わない者ばかり。ブルー自身、積極的にスカウト活動をしているものの、目ぼしい人物は見つけられずにいた。
「ブルー。近々、ゴートン大佐を中心に遊撃隊を編成する話は知っているな?」
フォックス司令官の問いに「はい」とブルーは返す。
「あの方ならば曲者たちをまとめ上げられるでしょう。しかし、帝国に攻め入るにはリストのメンバーだけでは難しいです」
ブルーは青い眼光を煌めかせながら淡々と言い放つ。可憐な女性ながら豪胆で一切の隙を見せぬ立ち振る舞いに、フォックスは少し気圧された。
「私が前に出れば守備は脆くなり、私が下がれば攻撃力は激減する。せめて、私が前に出ている間に艦の防衛を任せられる人材が居なければ、遊撃隊としての機能は損なわれるでしょう」
「アルフレッド中尉はどうだ? 君に負けず劣らずの心構えを持っていると思うが……」
「心構えで技術が伸びるのなら、全ての訓練は滝行にでもすればいい」
「…………。」
不遜なブルーの態度。
フォックスは手に持った書類を机に置き、顔の表情筋を緩めた。
「――ねぇ、ブルーちゃん。お父さん相手だからってなんか言葉きつくない? 明らかに上官に対する態度じゃないよね?」
「お言葉ですが、私に父など居ません。母は生涯独身ですので」
「それ、人の仕組み自体否定してるけど……たった一度の浮気で母子共に手厳しいったら――」
実の娘のはずの人物から汚物を見るような視線を浴びせられ、フォックスは咳ばらいを挟み上官としての態度へ戻った。
「……君と同等のパイロットとなると、本隊のグレン少佐か、後は暴れん坊のホアン大尉……どちらも動かせる駒ではないな」
「ならば、クリード中将はどうですか? いつも暇そうに中庭で眠っています」
「将官クラスをパイロットとして前に出せるわけが無かろう。――仕方ない。また編成案を練り直そうか。話は変わるがブルー大尉、君に任せたい仕事がある」
最高司令官直接の特命。だとするならば、ブルーが表情を引き締めるのも無理もない。
フォックスは「大したことではない」と前振りし、指令を伝える。
「東の湿地帯にとある傭兵団が居てな、これを殲滅して欲しいのだ」
「傭兵団? 盗賊ではなく、傭兵ならばわざわざ出向くほどの――」
「いや、これが厄介な傭兵たちでな。〈crow〉と名乗るだけあって雑食、善悪問わず依頼を受け、軍にも少なからず被害を与えている。君の手で、手早く討伐してくれ」
「…………。」
――傭兵団、か。
「了解しました。隊を一つ借ります」
タイトルは手堅く『月影の狙撃手』にするか迷いましたが、こっちにしました。どうぞよろしくお願いいたします。