デジアナ過渡期
「ねー、いつまで肉体なんてまとってるの?
懐古主義?早くこっちにおいでよ!」
スマホの中の彼女から声をかけられる。
「いいんだよ、これで。」
本当の彼女だが、ついこの前その肉体は仮想化され、電脳世界の住人となった。
「えーよくないよ!
こっちに来てくれないとぎゅーってできないもん」
「感覚共有人形があるだろ?」
「あっくん、持ってないでしょ!
もー適当なこと言わないでよー」
「あれ高いんだよ…」
「もー」
「はいはい、また今度考えるよ」
また急かされたが、今日も冗談でお茶を濁す。
***
「いらっしゃいませー」
コンビニの店員ロボットがお決まりの文句を発する。
音声合成も進んだものだ。今では人間と区別がつかない。
最も、自動決済の導入で店員の必要性は失われている。恐らくオーナーの趣味だろう。
「ありがとうございましたー」
レジ袋をぶら下げ、疎らな街灯に照らされながら、帰路につく。
角を曲がったところで、怪しげな人影が目に入る。全身黒尽くめだ。あれでは疑ってくださいと言っているようなものだ。
絡まれない内に、足早に横を通り過ぎる。
グサッ
腹部にヒンヤリとした感覚。追って、激痛が走る。黒みがかった血液がコンビニのレジ袋を汚す。
力が入らない。意識が遠のいて行く…
***
「はっ!」
「おはよ、あっくん」
「はぁはぁ、はぁ」
喘ぐように息を吸い込む。
「うなされたけどどうしたの?」
聞き慣れた彼女の声が今は耳に優しい。
「お腹は?!無事だ… よかったぁ。
いや、夢で通り魔に襲われてさ。やけにリアルだったんだよね…
そういや、おれのスマホ知らない?」