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 二人は共に、怪物へ向かって駆けた。何をしてくるか分からないが、だからこそ様子見をするのも安全とは言えない。勇気を持って踏み出し、先制攻撃を狙う。

 そこに、幾多の怪物の脚が伸び、二人を捕らえようとした。二人は横に飛んで躱すが、怪物の脚は進路を変え、その先まで追ってくる。さらに別の方向から、新たな脚がその身を捕らえようと迫る。

 二人は、今度は後方へ飛んで躱し、空振りした脚へ攻撃を加えた。エステルの剣は、怪物の脚をも容易く切り裂く。一方で、ベンジャミンはその処理に苦戦していた。

 襲い来る脚に必死に斧を振るうベンジャミンへ、エステルが助太刀に入る。数本の脚を切り払い、怪物の攻撃を防いだ。埒が明かないと思ってか、怪物が一度、脚での攻撃を止める。

 その隙に、エステルは怪物の体めがけて飛び、斬りかかる。すると怪物はそこへ向けて、口から凝縮された瘴気を噴き出した。このままでは直撃を食らってしまう。だが、空中では身動きが取れない。ならば……。

 エステルは光を纏い、暴風を巻き起こす。狙うのは怪物ではなく、自分の身体だ。全身で風を受け、横方向に吹っ飛ぶ。そのエステルの一メートルほど横を、瘴気が飛んでいった。なんとか回避に成功したらしい。落下したエステルは素早く受け身を取って体勢を立て直し、再び怪物へと向き直る。

 躱された瘴気は、そのまま飛んで地面へ当たった。その瞬間、地面に生えていた草は急速に枯れ、ボロボロと崩れ落ちてゆく。緑に満ちた森の中、その部分だけ、剥き出しの地面を見せた。直撃を食らえば、自分もああなっていたかと思うと、エステルは恐怖する。

 怪物は、エステルへ再び脚を伸ばして攻撃し、同時にベンジャミンに向けて瘴気を吹き付けた。ベンジャミンは走って瘴気から逃れるが、その先へ、しつこく怪物が追い回して瘴気を吐きかけようとする。

 必死に逃げ回るベンジャミンに、進行方向から怪物の脚が数本、迫った。逃げ道がない。ベンジャミンは咄嗟に、盾を構えて瘴気を受け止めた。

 吹き付けた直後の瘴気を、盾は弾いた。だが、それから間もなく、盾はひび割れ、ボロボロと崩れてゆく。エステルの助けを期待しようにも、迫り来る怪物の脚へ対処するだけで手一杯のようだった。このままでは、確実にやられる。

 ベンジャミンは、最後の手段を取った。斧を振りかぶり、怪物の体めがけて、思いっきり投げつける。咄嗟のことなので狙いを定める暇もなかったが、勢いよく飛んだ斧は、綺麗に怪物の胸元へと突き刺さった。

「グオオオオオオッ!!」

 怪物は苦痛に身をよじる。吹き付けられる瘴気と、二人を狙う脚の動きが止まる。ベンジャミンは素早く、瘴気の余波から身を躱す。エステルは素早く、ベンジャミンへと駆け寄った。

 その間に、怪物は胸に突き刺さった斧を引き抜き、その腕で砕いて投げ捨てた。怪物の胸から、血と思われる真っ黒な液体が、ドロリと流れ落ちる。

 一応、ある程度のダメージは与えたらしいが、さほど深い傷とも言えそうにない。そしてベンジャミンは、斧も盾も失ってしまった。もはや正真正銘の足手纏いである。

「おじさん、これ」

 エステルが小さな声で言い、ベンジャミンに剣を手渡した。女神の祭壇で手に入れた、あの剣だ。

「バカ言え。俺がそれ持ったら、てめえはどうする」

「私は、こっちの剣があるから。それに、いざとなったら魔法だけでも戦えるよ」

 エステルは、以前から持っていた自分の剣を引き抜いた。

「けど、俺は……!」

「あいつは、多分……私一人じゃ勝てないから。お願い!」

 二人が話す間に、怪物が再び攻撃を始めようとしていた。エステルは素早くベンジャミンに剣を押し付け、怪物へと向かってゆく。ベンジャミンは、まだ納得がいかない様子だったが、文句を言っている場合ではないと、覚悟を決めた。

「チッ、せめて斧なら、俺でも扱いやすいってのによ」

 怪物へ向かって走りながら、ぼやく。すると、その言葉を聞いてか、剣は瞬く間に姿を変え、両刃の大斧となった。ベンジャミンは仰天する。ただの剣ではないと思っていたが、まさか。しかし、自分にとって好都合なのは違いなかった。

 そこに襲い来る怪物の脚。待っていたと言わんばかりに、ベンジャミンは斧を振るう。すると、細い木の枝を払うかのように容易く、怪物の脚を切り払った。

 恐ろしいほどの切れ味だ。それに、本来ならば両手で扱うにも苦労しそうなほどの大斧なのに、片手で振り回せるほどに軽い。

 一方、祭壇の剣を失ったエステルは、やはり苦戦を強いられていた。襲い来る怪物の脚を何とか切り払うものの、前よりもペースが明らかに遅い。これを好機と見てか、怪物が一気に脚を束ね、エステルへ叩きつけようとする。

 エステルは剣を向けて、対抗した。だが、その瞬間、バキリと音がして、エステルの剣は根元から折れてしまった。そのまま脚を叩きつけられ、エステルは弾き飛ばされる。

「エステル!」

 ベンジャミンは叫び、エステルへと駆け寄る。エステルは体勢を立て直し、「平気!」と叫ぶと、後方へ飛び退いた。その手に、光が収束する。

 エステルは、両手から無数の光の矢を撃ち出した。放たれた矢は怪物の胸を狙って飛ぶ。怪物は腕を体の前でめちゃくちゃに振るい、その矢を全て弾き飛ばす。それでも、エステルは矢を放ち続ける。

 怪物は矢を防ぐことに集中し、攻撃の手が止んでいた。その隙にベンジャミンが距離を詰める。矢の跳弾を幾度か喰らいつつも、気合だけで耐える。そして斧の射程に入ると、怪物の脚の付け根をめがけて思いっきり斬りつけた。

「グギャアアアァッ!!」

 深い傷を負い、怪物は悲鳴を上げる。致命傷と呼べるほどのダメージではないが、さきほど斧を投げた傷と合わせ、かなりの体力を奪っているだろう。

 長い戦いのうち、無数に生えていた怪物の脚も、既に半分も残っていないほどになっていた。あとはトドメの一撃を、叩き込むだけだ。

「おじさん!」

 勝ち筋が見えたと、ベンジャミンは一瞬、油断していた。その間に、怪物は悲鳴をあげながらも、腕に黒い光を集めていた。あの動きには、見覚えがある。だが、回避する暇など、どう考えても無かった。

 怪物が無数の腕を、足元のベンジャミンめがけて一斉に突き出す。その瞬間、強烈な黒い波動が、ベンジャミンに叩きつけられた。斧を盾代わりに構えて身を守ろうとするが、焼け石に水でしかない。衝撃波に跳ね飛ばされ、ベンジャミンは周囲の木よりも高く打ち上げられる。

 意識を失いそうになるほどの衝撃の中、地面の方を見やる。このまま叩きつけられれば即死か、良くても戦闘は続けられないだろう。どちらにせよ終わりだ。絶望し、落下するベンジャミン。その体を、エステルが力強く受け止めた。

 抱きとめられたベンジャミンの顔に、エステルの力強い笑顔が映る。こういうのは男女、逆でやる事じゃないのか。場違いにもそんなことを思ったが、冗談を言っている場合ではなかった。二人をめがけて、再び怪物が瘴気を吹きかける。

 ベンジャミンは走って瘴気を躱し、再び怪物へ向かって走る。その後方から、エステルが再び光の矢を放つ。怪物はその腕で、矢を弾いた。

 どうする?このまま接近し一撃を叩き込むことは、やめた方が良いだろう。先程と全く同じパターンだ。読まれるに決まっている。だが現状、有効打を喰らわせる方法は……。

 迷いに足を鈍らせたベンジャミンへ、怪物が矢を防ぎつつも、瘴気を吹きかけてきた。ベンジャミンは、それを避ける。直後、今度は黒い衝撃波が襲い来る。ベンジャミンは斧を盾代わりにしながら、後方へと飛んで衝撃をできるだけ殺す。前回ほど至近距離で喰らわなかっただけあって、今度はほとんどダメージを受けなかった。

 しかし、このままではいつまで経っても、相手に致命傷となる一撃は叩きこめないだろう。近付く度に衝撃波を撃たれては、頭や胴体どころか、足元への攻撃すらままならない。怪物も相当なダメージを負っているはずだが、こちらも満身創痍だ。戦いを長引かせるのが得策とも思えない。


 その時、怪物が無数の腕を突き出したまま、今までとは比較にならないほど莫大な量の黒い光を集め始めた。それに合わせて、まだ残っていた脚や体の表皮がボロボロと崩れ落ちてゆく。

 どうやら、敵の方が先に痺れを切らしたらしい。自分の身体が負荷に耐えられないほどの力を集めてでも、次の攻撃で終わらせに来る、そんな様子だ。

 怪物はエステルを捉え、その攻撃を繰り出そうとする。もはや躱すことも防ぐこともできないと、エステルも覚悟を決めた様子で、全身に溢れんばかりの光を纏う。ベンジャミンが割って入る間は無い。

「オオオオォォッ!!」

 叫びと共に、怪物がその力を放つ。瘴気を纏い、莫大な量の邪念に包まれた漆黒の波動が、エステルを飲み込もうとする。それに合わせ、エステルは全身から、全ての力を込めた光の波動を放つ。

 二つの波動が激突し、周囲に爆風を巻き起こす。ベンジャミンは地面に斧を突き立て、もう一方の手で草を掴み、吹き飛ばされるのをなんとか堪えていた。

 ベンジャミンの眼前で、二つの力の奔流がぶつかり合う。怪物の体は、波動を放ちながらもどんどんと崩れ落ちてゆき、限界を迎えていることを感じさせる。だが、それ以上にエステルも苦悶の表情を浮かべていた。歯を食いしばり、必死に力を放つも、身に纏う光が、徐々に弱まってゆく。

 このまま続けば、先に力尽きるのはエステルの方だ。黙って見ている場合ではない、何かしなければ。だが、何をすればいい?どうすれば勝てる?ベンジャミンは必死に思考を巡らせる。

 今から怪物に駆け寄って、攻撃を加えるのはリスクが高すぎる。斧を投げつけ、上手く当たれば勝てるかもしれないが、これも回避されれば終わりだ。

 悩む間にも、時間は経過する。エステルは既に限界を超えている様子で、その身にはわずかな光が明滅するのみとなっていた。

 その瞬間、ベンジャミンは手にしている斧が、淡く光を放つのが見えた。もう、これしかない。

「おおおおああぁぁッッ!!」

 雄叫びと共に、全霊の力で、その斧をエステルに向けて投げる。回転しながら飛んだ斧は、まるで意思を持つかのように、空中でその姿を、再び剣へと戻す。そして、波動を放ち続けるエステルの手の中に、収まった。

 瞬間、エステルの纏う光が、再び力を取り戻す。眩い光が溢れ、周囲を明るく照らし出す。エステルの放つ光の波動が力を増し、鍔迫り合いをしていた黒い波動を、一気に押し返した。そのまま、光の波動が、悲鳴を上げる間すら与えず、怪物を呑み込んだ。


 ボロボロの体になった怪物が、だらりと腕を垂らす。しかし、まだ完全に力尽きてはいなかった。ベンジャミンが叫ぶ。

「行けええええぇッ!!」

 エステルが剣を手に、怪物へ駆ける。そして、怪物の手前で大きく跳び、そのまま、怪物の肩口から脇腹までを、深々と切り裂いた。

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