アヴェンジド・セヴンフォールド その3
「ウオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
アレクは『ファイネスト・アワー』を使い、力の増強を行う。そして目の前に落ちてきた橋の瓦礫の上に乗り、跳び上がった。
人を失うってことは恐ろしい。それがあまり話したことのない人でも、良い印象を抱いていたのであれば、誰にも伝わらない悲しみの感情が溢れてくる。
燃え上がるボートに向かい、空中を進む。
「セオドアァッ!!!思う存分テメーを叩きのめしてやるッ!!死に腐れがァッ!!!!」
炎に飛び込むその寸前、巨大な水飛沫が上がる。水中で爆発が起こったときのように、水柱が数十メートル上がる。
セオドアはまだ生きている。
その水柱は、ボートの残骸ごとアレクを打ち飛ばした。
そして不安定な状態の中、猛々しい憤慨の顔をアレクは見つけた。セオドアはやはり生きている、ここは空中、奴も不安定のはずだ。しかし油断大敵、手加減なく殺す。
「順序が狂ってしまったじゃあないか……過程が狂うと結果が狂う…良い結果になるように尽くさなければなァアーーッ!!!」
セオドアはボートの残骸に触れ、速度をゼロにする。進化した『アペタイト・フォー・ディストラクション』は遠隔操作や永続的な速度変更も行える。それにより、残骸の操作を永続的にゼロにすることで、空中の足場を作り出した。
だが足場は小さく、不安定なのは否めないので、高速で動かず、素早く着実にアレクに近づいた。
「懺悔しろォオッ!!!放っておけばよかったものをなァァッ!!!」
一切迷いの無い高速の手刀。
殺人鬼としてのセオドアは、他の追随を許さない頂点。一部界隈では崇められるほどの男。その男が遂に今、目の前にいるのだ。
「!」
セオドアの手刀はアレクの腹を貫いていなかった。
服は貫いたが、強靱な筋肉が守っていた。これもおそらく『ファイネスト・アワー』の能力を使ったのだろう。しかし限度はある、もう何度か手刀を喰らわせてやる。
「ずぶ濡れならよォー!電気をよく通すぜェエーーッ!!!」
「もう一発欲しいかァァァアーーッッ!!!!」
アレクはかなり前にフィオリから受け取っていた対特異能力武具の一つである電撃の指輪をセオドアの前腕部に接触させた。
これほど便利な物は無い。海水でズブ濡れになっている今なら、電気を通しやすいはず。
それと同時に、眼に捉えられない速さの手刀がアレクの腹を貫いた。
「なッ!!?」
「筋肉を硬くしたんじゃあねェーぜッ!「柔らかく」したッ!!柔らかきゃあ絶対に奥の景色は拝めないッ!!地獄に落ちやがれッ!この死に腐れがァァァァア!!!!」
「お前なんぞにこの俺が敗北するかァァァァアアーーーーッッ!!!!」
アレクの筋肉は餅のように柔らかく、セオドアの拳を包み込むようにして止めていた。そしてすぐに電撃が放出され、セオドアの体を電気が伝達した。
一進一退、心技一体。一瞬すぎる出来事だった。ドラマにするにはかさ増ししないと苦情がくるレベルの戦い。でも彼らには悠久にも思えたであろう。
「……………」
セオドアは1ミリも動かず、落下していく。哀しさに満ちたその姿に情は抱かず、ただただ喜びを感じるのみだった。
数秒間での熾烈な攻防はアレクの勝利に終わった。そう思い込んでいた。
「げほッ!!……げほッ!…ア…アレクッッ!!!…後ろだァァァアーーーッッ!!!!」
少し掠れ気味の聞き慣れた声が聞こえたと思ったその瞬間、背中に何かが衝突した。
理解出来なかった。川に沈むセオドアは見届けた。そして自分も川に落ちていた短い間だった。ジョー・モンタナのタッチダウンパスみたいに、的を射る弓のように完璧な一発がアレクを攻撃した。
そしてその一発を入れた者は、水面に浮かぶボートの残骸の上に悠々と着地する。
異様だった。なぜ奴が、まだいる。思考が上手く回らない。奴の死体は瓦礫に混じって見えづらいが、どう見てもそこに浮かんでいる。しかしボートの残骸の上に立っているのも、また奴だった。
「なんでセオドアが二人もいやがるんだァアーッ!!?」
「ダメだダメだダメダメだ。0点…いや、10点をプレゼントしようか。でも負けたらダメじゃあないか、セオドア。複製を取引しておいて、大正解だった。最終確認の実験にもなったし、君は実にいい駒だったよ。さようなら、セオドア」
ボートの残骸の上に立つ、その男は、確かにセオドアだった。アレクが電撃を当てて倒し、川に落ちたはずのセオドアだった。
早すぎる気もしますが、早めに終わらせたいので急ぎます。




