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完全無欠の革命歌  作者: ウエハル
共感の子供
52/88

復讐の彼方




デペッシュ・カード病院内にて。

ごく普通の清潔な病室。あれから2日経過し、遂に日常に安心が戻ってきた。

ハリーは重傷のためベッドから起き上がることすらできないが、世間はセオドア逮捕で即死刑判決の話題とヘイガーズタウンの半分以上が消失した話題で持ちきりだ。それにしてもヘイガーズタウン消失の話題はハリーには耳が痛い。


「オイオイえげつねぇ怪我だなハリー。さすがはあのセオドアを捕らえたタマだ」


彼は同僚であるジミー・スミス。ほとんど同じ時期にFBIに入り、かなり長い付き合い。ビバリーヒルズコップに憧れているだけでFBIに入ったという変わり者だ。


「腹の穴は治してもらったが、無いもんは無いもんだ。腕は治せないから三ヶ月後にイギリスに行って治してくるよ。だから三ヶ月はまともに仕事はできねぇかな」

 

自分の無い右腕を見つめるとなんだか笑いがこみ上げてくる。

イギリスに行く理由はというと、そこにいる男が人体を創れる能力を持っているからだ。FBIという職権を乱用して通常三年以上はかかる予約を三ヶ月に短縮してもらった。


「でも表彰とかボーナスとか…いろいろあんじゃないか?さすがに功労者のお前をクビにするとは考えられねぇけどよ、正直辞めちまってもテレビに出れば暮らせる気はするけどなぁ」


「そんなんでテレビに出たかねーよ。金にがめつい男と思われたら本当に良い女は離れちまう」


「お前もう手遅れだろ。40過ぎてンだからよ」


「「HAHAHAHAHAHA」」


アクセルの葬儀までには退院できるといいな。まあ実際には数千の兵隊達が犠牲になっているわけだが…。





アメリカ北東部。AFI連邦刑務所。

6年前に出来たばかりのこの刑務所は、最新の技術を導入した徹底的な囚人達の監視や懲罰、細部まで妥協しない設計によって脱獄囚は未だいない。

そして、昨日入ったばかりで何も規律を犯してはいないというが、強制的に独居房に入らされたこの男。小窓すらなく、鉄格子の奥の廊下のさらに奥にある小さなガラス戸からのちっぽけな光だけで、部屋の中もトイレと硬いベッドしかない。

すぐ近くで看守が24時間体制で見張りについており、満足に行動できない。


「おい見ろよ、アイツがあのセオドアだぜ!俺ぁ昨日アイツの飯にクソぶち込んどいたら感づきやがってよォ~、犬が最悪最強の殺人鬼かっての!ギャハハハハハハハハ!!」


「…………」


セオドアは壁にもたれ壁をじっと睨む。

特異能力を利用した特殊な手錠により、能力の発動が出来ないと言っていたが、どこか穴があるはず。能力を根源から見直さなければ……。

それよりもなによりも、爪が恋しい今日この頃。看守の下痢便以下の汚らわしいものでは心の穴が一欠片も埋まらない。明日辺りには体力も回復するから、鉄格子をへし折って出れるだろう。



長く質素な廊下を革靴が叩く音がする。看守達が急に黙り込むが、セオドアは見向きもしない。


ガチャガチャ――突如、鍵の開く音がした。

 

「!」


死刑になるまでは食事と稀にあるシャワー以外には看守は鉄格子にすら触れないと思っていたが、何かあったのだろうか。

とりあえず今のところは無力に変わりないため、反抗はできない。死刑が早まったとあれば、今すぐにでも逃げ出すが……。


開けたのは女看守だった。帽子で顔が少し隠れているが、かなり若く、桃色の長髪がとても印象的だ。

看守は鍵を開けると、セオドアの顔をじっと見つめた。


「………女……看守じゃあないな、誰の手先だ」


「……あれ?バレちゃった?ってそりゃあ不自然すきるか。僕はエレナ・キングセッシング。セオドア・ヴァン・ヴァリエート、愚かなあんたをイトス様の命によりここから出しに来た。喜んでもいいよっ」



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