装填せよメタル・スター その1
「割れた…?」
破裂した男は跡形もなく消え去った。さっきまで目の前で自分を蹴っていた男が穴の空いた風船みたいに弾け飛んだのだ。
「ワケがわからないぞ!」
「皆同じ気持ちですから」
次々と事が起こりすぎて疑心暗鬼が生じる。
「あの男は確かに私の護衛…だけど今のは護衛の能力じゃあない…」
「僕の母親にもユノにも関わっている、本人ではない偽物…けど誰が…?」
「考えても出ないわよ。能力もなんとなくは理解できたことだし、これからは忙しくなるよ」
「?」
「こっちにも事情はあるの。それとリアス、もうちょっと雇われてみない?」
「で…なんでウチに?」
日がまだ昇っている午後。ユノはペルフ家にいた。
日光が窓から射し込み、逆光がシリアスな雰囲気を醸し出す。リビングにはモダンなテーブルやソファ、壁に掛けられたテレビなどが質素だが飾り気のある雰囲気を感じさせる。
「今日だけよ今日だけ。明日にはどっかいくって」
「どうやって家を見つけるの?」
「そういうことは気にしないで、あんたは私の護衛をしてればいいの」
お嬢様はどうやら強引な性格のようだ。女という者に全く関わりがないせいか、自分も強引になっていっているような気がする。
「でも僕自身は母さんを探すのが優先だからね」
護衛をするという事で雇われたが、今更何故了承してしまったのかと後悔している。あの性格なら断ることはおそらく不可能だろう。
「ちぇっ、しょうがないから私も手伝ってあげるよ」
聞いていないのか、リアスはキッチンに行きコーヒーを入れ始めた。それに対しユノは妬んでいるような顔をする。
サッサッ…
「…!」
ユノだけがリアスのものではない粛然とした足音を聞いた。一定の間隔で足が擦れる音にリアスは気づいていないようだった。
ユノは音源を探しベッドの置かれた部屋を覗く。
「ねぇリアス、この家ってまだ誰か住んでるの?」
リアスの方を向かずに、寝室に顔を入れる。
コーヒーの苦味のある香りが鼻につき、後ろを振り向くと、リアスがいた。そして、その後ろに、見知らぬ人影が見えた。
「え?…僕と母さんだけだけど…」
まだリアスのアンテナは背後の男を感じとってはいないようだがユノは気づき、体だけが見えた。
「…」
真っ黒のベストに一列で付いたトグルのボタン。下に着込んだ灰色半袖のYシャツと白いタートルネックのシャツに長く垂れ下がった赤黒チェックのマフラー。
その服装は暗く異質。
「?」
数十センチ後ろにいるのにリアスは全く気づく様子がない。
すると背後の男がヌッと顔を現した。
額を出した襟足の伸びた髪、非常に彫りの深く厳つい顔。
男は完全に姿を出し、寝室の開いた扉に軽くもたれかかった。
「………俺は…雇われた身だが、「あの人」の研究は…けっこう興味がある。心の中は餌を求めるコイみたいに騒いでるんだぜ…」
落ち着いているその男は、ひとりでに話し出した。
「!」
やっとリアスが後ろを振り向き、距離を置く。
その直後、まるで距離を置くのまで計算していたかの如く、何か棒状の物体が3本ほどリアスの腕に向かって飛んだ。
「リアスッ!避けて!」
時すでに遅し。棒状の物体はリアスの肘辺りに食い込む。
「ヴっ…!!」
血を噴き出し腕を抱えながら寝室の壁にぶつかり、悶えた。
男は顎を上げ無言で自負するように仁王立ちする。
「…自分で言うのもなんだが…俺ァ強いと思うんだ」
男がポケットに右手を突っ込むと、そこから金属製の細長い物体が姿を見せる。それは10センチ程の長めの「釘」。
男はそれを無造作に鷲づかみにし、一気に取り出した。
「名刺交換…といこうか。俺の名前はミュラス・アマロ・ニューステッド。自分で言うのもなんだが、かなりイケてる名前だと思うんだ…」
性格の掴めないその男、ミュラスは、右手に持った釘を寝室の扉のちょうつがいの部分にそっと当てる。
「!」
ちょうつがいに当てられた釘が、粘土に指を差したときのように入り込んだ。金属が柔らかい素材なったみたいに、釘はどんどんねじ込まれていく。
「俺の名前…覚えて帰ってくれよな…って、帰るってことはねェか」
ねじ込まれた釘は跳ね返り、高速で飛んだ。