GO!GO!MAX! その2
ハエ(蠅)とは花の密や果物、動植物の死骸から養分を摂取する、人間に嫌われている小型の昆虫。人間に感染する危険なウイルスを媒介することでも知られており、人の周辺を飛び回る羽音が五月蠅い虫である。また、聖書に出てくる悪霊の君主ベルゼブブはヘブライ語で蠅の王を意味する。
ハエというものは数ミリ程度の小さな昆虫。
「だがこのハエはデカくねぇかッ!?」
まさに蠅の王。マックスが身長3センチメートルだから大きく見えるというわけではない。通常の人間が見る大型犬並の大きさ。
黄色の毛に覆われ、少しハチのようにも見える。
「いやしかし……ハエってのは人間に直接は害を与えないと聞いたことがある……………」
ハエとマックスは睨み合う。
大丈夫。堂々と突き進めば奴は逃げるはず。
ピトッ……ピトッ―――ハエは前進ッ!
「何ィッ!」
いや待て。このハエどこかで見たことあるぞ。
たまに忘れるが俺は今3センチメートルだ。つまり奴からは餌や虫に見える可能性は十分にある。
「はッ!」
ヒトヒフバエ それは主に中央アフリカや南アメリカなどの熱帯に住む種のハエ。
他の昆虫に卵を産みつけ、最終的には人間に卵をつけたりもするハエ。非常にグロテスクな奴。しかし北アメリカ、ましてやペンシルベニアなどにいるなど聞いたこともない。
いや、時代は進んだ。赤道直下の砂漠にホッキョクグマがいてもおかしくない時代。
「フツーは人の血を吸う虫にしか卵を産まないとか聞くが………俺はかなり細長い虫に見えているというならば……そのデカさに自信を持っているというなら………こいつは…………臆さないッ!!」
ハエは進む。どんどん進む。
「ウギァァァァァァァァァア!!!!!」
マックスは大回りして走った。
何も考えずに、一心不乱に時計の裏を目指して疾風の如く。
「はぁっ……はぁはぁはぁ………ふぅ……」
いつの間にか時計の裏にへばりついていた。
奴はいない。時計の裏は少し窮屈だが、這っていけば登れない急斜面というわけでもない。
マックスは所々にある凹凸を利用して、クライマーの気持ちになって登る。
絶え間なく続く時計のおかげで、予想外に楽に登れる。視界が暗く、稀に隙間から見える光が唯一の救いだ。
「むっ、ここが頂上か。………お!下に丁度あの女が二人いるぞ!ラッキーーッ!!」
口角を最大までつり上げた奇怪な笑顔を浮かべて、懐から毒薬を取り出す。
屋根裏部屋。例えるなら三角形の頂角に位置する場所。マックスから見ればかなり高い位置からはアリスとコリオが見えた。
「よし……チャンスを待て………強欲はピンチに直結する…」
何時間でも、何日でも待とう。ヴァリエート様のためならば、命は惜しまない。
「…………あ!」
ヴゥーーーーン
不快な羽音を奏で、奴が再び顕現する。
そう、ハエ。どうやらマックスを追っているというわけでもなさそうだ。
しかしそのいつみてもキモい見た目が逆にマックスにチャンスを与えた。
「あ、なんか虫いる。ハチかな?ちょっと気持ち悪いからあんた退治してよ」
「何、他力本願ってワケ?ああ、私の方が格上って認めたワケね」
アリスとコリオがハエを見つけて上を見上げたのだ。
このとき一瞬ナイスハエ、と人生で初めて思った。
ブーーーン
ハエはゆったりと自由気ままに飛行している。そして二人の目線はハエに集中したまま、口喧嘩を続けている。
「チャーンスッ……!このマックスが息の根を止めてやるぜェーッ…!」
毒薬は2つ用意してある。これを二人の口に入れれば、二人は完全なる死の忘却を迎え入れるだろう。
鼓動が高鳴る。タイミングを見計らって、その小さな手から一つ、まずはコリオに向かって毒薬を離した。
「なんなの意地悪い!いいよもう私がやるわ。あんたなんかとか違って虫退治ぐらいは朝飯前よ!」
「いい度胸してるじゃない。まあ、私のほうが速いんですけどね」
コリオは『セヴンズ・スター』を放った。一直線でハエに向かっていく。
能力まで使うのは予想外だったが、関係はない。口にさえ入れば勝利は確定する。
順調に毒薬は降下し、コリオの小ぶりな口のすぐ真上に到達する。
「よしッ!!やった!!入るぞッ!俺の勝ちだァアーーッ!!」




