幽霊屋敷へお宅訪問 その3
「こりゃヘビーだ」
アレクは頭を抱える。
奥にはコウモリの群れが待ち構えている様子が見える。まだこれは序の口、更に進めば今度は音での直接攻撃に移ってくるだろう。
今ここで、決定打を打つしかない。送信され体に触れる前の超音波に影響を与えか、音を一切無視していくか、考えても策があまり浮かばない。
「コリオ、お前は残った鏃を適当に振り回してろ」
返事が無い。
「ああ……聞こえないんだったか」
階段を駆け上がる気配が二つ。
一つはアレク。もう一つは女のシルエットだ。
コウモリの群れを強引に薙ぎ払い、二階に到達してきた。
なら段階を上げるのみ。
突如衝撃波が突風の如く襲いかかり、爆発音のような音が屋敷中に響き渡る。
「キャァッ!!!」
コリオは壁に体をぶつけ、脆い壁が割れる。
なんて威力。これでも本気じゃないというから驚きだ。耐えたには耐えたが、これから何度も繰り返された場合は退却せざるを得ない。
「屋根裏を目指す……そこに鍵が………宿命を終わらせるために行かないといけないの………」
両親のため、自分の運命に決着をつけるため。14年以上も逃亡しているセオドアという殺人鬼を、絶対に生かしてはおけない。
細かな木片が所々を切り刻むが、それにもめげずに前に進む。
ヴンッ!――
再び、部屋中の家具をまき散らし、音の衝撃波がやってくる。
「もっと速く……!動け…!私!」
音の衝撃波は弾かれた。衝撃波に立ちはだかったアレクが体を張って弾き返したのだ。
しかしはみ出した微量の衝撃波がコリオに撒き散らした家具の破片を命中させる。
「うぐッ……!」
アリスは、アレクは音を完全に反射させるという望みを叶えたと考えた。あとは心なしかもしれないが、アレクの動きがぎこちなく、機械的な気がした。
壁に隙間無く掛けられた様々な時計を眺め、時間が経つのを実感する。自分はあの悲劇から遠ざかっている。もうあの男の魔の手は永遠に来ないということを唯一実感できるからだ。
「鬱陶しい女……」
爪の手入れをしながら超音波を読み取り、衝撃波を浴びせる。
自分には危害が及ばず、常に安全な位置から攻撃できる能力『ソニック・ハイウェイ』。命からがらセオドアから逃げられたのもこの能力のおかげ。
奴は利口で、まだ幼いアリスには戦慄的でしかなかった。アリスは無意識の内に体が震えてくる。
「…来ないで……やめてよ………ママ…パパ……お兄ちゃん…助けてよ………!」
「アアアァッ……!!」
体中が痛い。特に脇腹辺りに大きな木片が突き刺さっている感覚がする。服を着ているはずの体が寒い、小便も何も漏らしていない服が赤黒く濡れている。
いつこの苦痛はとかれるだろうか。いつ、アリスは、この鏃でつくり出した人型の残像物体に気づくだろうか。
再び戻ってアリスのいる屋根裏部屋にて。
震えが収まらない。アレクとコリオが来たせいなのか、恐怖が蘇った。
突然、顔をうずくめるアリスの肩に、優しく手が触れた。
「それじゃあ成長か衰退か分からないじゃあねぇか。過去の教訓を生かして人は成長していくもんだぜ、アリス。俺達がいる、安心しろ」
「……!………なんで……お兄ちゃん…」
「先に攻撃を止めろ。そしてコリオに伝えといてくれ、作戦終了だってな」
二階にいるコリオへの衝撃波は止み、コリオはその場に大の字に倒れた。それと同時に、人型を形成していた『セヴンズ・スター』の鏃は引っ込んだ。
アリスの震えは治まり、涙目を浮かべる。
「アハハッ、馬鹿みたい。骨がまた元に戻ってないよ」
アリスは可愛らしく笑う。いつの間にかエコー検査のようにして覗き見していたようだ。
アレクの望みを解除しても、まだ完全には体が戻っていなかったみたいだ。
アレクの望みは「軟体動物になる」という望み。これにより、ウネウネと気味の悪い鈍い動きで動くアレクを人間ではないとアリスが判断してしまったのだ。
「ちなみにコリオの願いは「鏃を高速で動かす」。反射の能力も相まって丁度良かった。それと、コウモリのせいで超音波が読み取りづらい一瞬を狙って、囮の鏃と交代をした。完璧だろ」
「なにそれ、ホント酷い能力」
「でも勝ったんだ、こっちの話は無理にでも聞かせてやる」
もう少し味方側の能力は万能にすべきでした。倒し方が全く思いつきません。




