最後の砦 その1
長く気落ちしそうな廊下を抜けると、再び部屋が現れる。
待合室のようなものなのだろう、広いのに変わりはないが、玄関よりは飾り気がない。
「ではここからは、リアス様一人で進まれるように。とのエクトス様からのお申し付けでございます」
執事のその言葉を聞いた瞬間、三人は睨み合うように目を合わせる。
目的は何か、果たして本当にアーリーはいるのか。そんな情報不足の中、無能力のリアスを一人で向かわせるということは、かなり命の危険がある。
しかし、ここで止まれば道は拓けない。
バカバカしくも思える決意めいたアイコンタクトを通し、リアスは深く息をする。
「…分かりました」
「では、ここからは私共のご同行も許されておりませんので、こちらの扉から真っ直ぐお進みください」
笑顔の執事の横にある扉を、ゆっくりとリアスは開けた。
先程の長い廊下とは打って変わって、短く狭い通路を挟み、すぐ奥に扉が見える。
やっと会える。やっとユノを救いだせる。ただの上っ面だけのヒーロー気取りではない、リアスの中に静かに醒める純粋な善の精神が、ドアノブに手を掛けた。
軋むような音を立て、扉が開かれる。
暖炉が炊かれ、適温に保たれた室内には、西欧のログハウスのような雰囲気を感じさせる物品がいくつか置かれていた。
そして中心のリアスに背を向けるソファには一人の男が座り、悠々と本を読んでいる。
「……」
息を飲む。
こいつがアーリー・エクトス、本人だ。
扉が開かれたことに気づいていないのか、アーリーは本を眺める。
後頭部を貫けば殺せるか?…いや、確か不死の能力とルクセルが言っていたはずだ。とりあえず今は、リル達のもとに逃げつつ攻撃しなければならない。
パタン―――急に本が閉じられた。
アーリーは木製のテーブルの上に本を置き、本の近くにあったコーヒーを少しすする。
「………常に人間は確実な手段を選ぼうとする…だかな、この世に100%や完璧というものは存在しない。どんなものにも万が一ということがあるように、全てが全て思い通りにいくことは決してない…。ならこの世ににある100%は何をもって100%だと思う?……リアス・ペルフ」
姿勢も視線も変えないまま、アーリーが口を開く。
「…?」
「それは「共感」だ。共感が類を呼び、この世界の常識となり秩序となる。「それでいい」とか「そう思う」とか、そういう言葉が99%を100%させる力となる。知能の低い学生が行動の原動力にしたり、ガンが気分を共有したりするように、確実は共感によって出される。…お前の安直な考えのように、だ」
「…何が言いたいんだ」
「完璧な真実は君には出せない。私が事を完了させるまでは…ね。ただそれまで黙って指をくわえて見ていて欲しい、それだけさ」
アーリーがリアスと向かい合うように振り向いた。と同時にリアスが腕を伸ばし、拳を前に構えた。
手には、三つの指輪、手首には一つの腕輪が装着されている。
「そうか、能力は消えども道具はある。だけとリアス。それを私に向けるのはオススメできない。お前の相手は私ではないからね」
「!」
「死の忘却へお前達を送るのは、私の忠実な僕達だ」
リアスの入ってきた扉を塞ぐようにして立つ二人の男がいた。
一人はチャラそうな若い顔立ちの男。
もう一人は長髪の老けたダンディーな男。
「ビクター・サージとエリック・クヌーゼンだ。快く接してくれ」
アーリーが去ろうとする。
だかそれを止めたくても止められない。
「…全ては貴方様のために」
老けた男、エリック・クヌーゼンが沈着に言った。
「まずは一人っすね。死体は残さないといけないから、安心していいよ」
続けて若い男、ビクター・サージが言う。
かなり絶望的な状況。答えなんて分かりきっている。
「最後の最後で砦が立ちはだかるなんて…だけど覚悟はできてる。全てが尽きても僕は戦い続けるッ!」




