オーディナリー・ワールド その1
「これは、スイッチを押すと毒針が射出されて…」
フィオリが二つ手にした指輪の片方に指を差す。
リアスはフィオリにスパイ道具と思われる武具の説明を熱心に聞いていた。心の中に今すぐにでも使用したいという欲求が僅かに芽生える。
「こっちが高圧電流が流れて……」
ピー…ピー…――というつい反応してしまう音によって話が途切れる。
するとフィオリは携帯電話を取り出すことはなく、何の変哲もない風に見える耳に手をあてる。
「…はい……はい、分かりました」
これもまたピンマイクのような道具を使っているのだろうか。通話らしきものが数秒で終わると、フィオリは顔をリルに向ける。
「……別動の少年達がつい先程エルク川上空でアーリーと接触しました。そして、ルクセルさんは既にあの生物を処理して先に少年達の方へと向かったそうです」
リルが体を上げる。
「…そうか、操縦士に高度を上げて近づくように、あとついでに急かしとけ」
「これで二人目、ならいいんですが」
「…だな」
一方そのころ
「…無事地上に到着…か」
アレクはパラシュートに繋がっているリュックサックのような物を脱ぎ捨て、コリオとジョーンズの降りたと思われる方角に向かう。
アーリーとの接触後、高度がかなり下がっていたため、3人は地上に降り立っていた。
スラックから離れるために相当後方に下がりながら降下したので、スラックらしき姿は全く見えない。
「アレク!大丈夫!?」
物陰からコリオが走り寄ってくる。
「コリオか…俺は大丈夫だ…そうだ、さっき空にいたとき連絡があってな、「援軍」とかいうのが来るらしい」
「そりゃ頼もしいね。あ、流れ星」
コリオは夜空を見上げる。それにつられてアレクも夜空を見上げると、そこには無数の星の狭間を通り抜ける一筋の光が見えた。
視線をとられたアレクはその流れ星に眉をひそめる。
「?…なんだあれは…色が…おかしくないか?光も大きすぎな気が…」
2人は更にまじまじとその橙色っぽく光る流れ星を見つめる。
ジョーンズと合流することやアーリーを追うことと、仕事はまだまだあるが、その不思議な光に2人は引きつけられる。
「あれ、流れ星じゃあなくない?」
「ああ…あれは隕石だ…!」
さらに3人の降下位置の近くの森林地帯にて
「……あがッ…!…テメー…あいつらの仲間か…クソカスが…!」
スラックは左の二の腕から血を滝のように吹き出させ、痛みに悶える。
スラックの前方には、距離を置いて目尻の整った銀髪の男が自信たっぷりに仁王立ちしている。左右非対称の髪型の男、右手が金属製の義手となっており、視線はスラックの背後に回る。
「外したか…だけど次は外さねぇぜ、名は確か…スラック・スコットとか言ったな」
視線の先には白煙を立ち上らせ、抉られたような穴の中心に、黒光りする石が地面に埋まっていた。
「へっ…知ってんのか…」
「組織の生き残りだからな…。「人の影を踏むことで生物の存在しない『もう一つの世界』と「この世界」を自由に行き来できる能力」…ったくこえーなぁ。だがオメーにゃあ用はねぇ、オメーの依頼主に用がある」
「どうぞご案内します…とでも言うと思ったのか?何者か知らねぇが…あんたもあの男を狙うんなら…あんたも殺してOKってことだ」
「そうか……自己紹介がまだだったな…我が名はオーギュスト=フランソワ・ルクセル。「子供達」をこの世から抹消するため…邪魔者に慈悲は与えない……猶予も何もかも…」
ルクセルと無情な言葉と共にスラックの背後から、烈しく燃え盛る光が迫る。
「は?…………何い゛っ…!!!」
轟音と共に眩い猛火を纏った小石が、スラックの後頭部から眉間を寸分の狂いなく高速で貫いた。
小石は瞬く間に地面に衝突し、衝撃音と少しのけ反るぐらいの強風を起こし、地面に小さなクレーターを作り出した。
「……はぁうッ…うッ……このッ…俺が……この俺がこんな情けない死に方するなんて………はぁ…はぁっ…こんなちんけなクソ野郎に…」
脳天を貫かれたのにも関わらずスラックは膝をつかず、ルクセルから視線を外さない。
「恐ろしい殺し屋だ、思い出したくもねぇもん思い出しちまったぜ」
「そんなッ…うォォ…!思い出したぜ…テメーは組織を壊滅させた奴らの中にいた………がはァッ!!」
血を口から吐き出し、遂に膝をつく。
今まで何人も「組織」の暗殺専門として人を殺してきたが、ここまで易々と殺されるのは初めてだった。「組織」の壊滅後も殺し屋として数え切れない人数を殺してきた。絶対無敵の能力に負けなどありえないはずだった。
背後から迫る三発目の光りに気づいてはいたが、振り向く力もなく、スラックの意識は朦朧としてくる。
「……テメーなんか…が…テメー如きが………図に乗るなよゴミ虫がァァァアーーッッ!!!!」
「…終いだ死に損ない」
三発目の「隕石」がスラックの後頭部から頭に再びめり込み、今度は首から上を無慈悲に吹っ飛ばした。
ルクセルの特異能力は「隕石」を好きな大きさで、好きな速度で好きな位置に落下させる能力『リザンクシア』。使い方次第では地球を滅亡させる力をも持つ能力。
司令塔の消えた体は血溜まりを作りながら地面に伏せる。
その頭のない死体にもクレーターにもルクセルは目もくれず、夜空を見上げる。
「さてと…どこらへんに墜落したかな」
アーリーの乗っていたヘリにぶち当てた隕石の、衝突音のあった方向へと足早に歩き出す。




