パーシスタンス・オブ・タイム その2
夜空、日付が変わりそうなくらいの時刻に二人は月明かりに照らし出される。
アレクは2人を先に落として単独で待機していた。コリオの『セヴンズ・スター』なら、七つの鏃をフル活用すれば人一人ぐらいは「反射」させることができる。ある程度の角度と微調整が必要なため技術が求められるが。
「ホントに道連れにする気かよ。俺ドライアイだから風には弱いんだよねェー」
スラックは「持ってきた二つ目の扉」も破壊され、アレクによって宙に放り出されていた。
「随分と…呑気してるじゃあないか。能力がバレそうだってのに…少しは死体が発見されることでも願ったらどうだ」
「生憎天涯孤独の身なもんでな」
「そりゃあ気の毒に」
アレクに死ぬ気はさらさら無い。スラックの能力は空中では使用不可能のはず、パラシュートを開けばもうこっちのもんだ、と思っていた。
しかしスラックもそう甘くはない。わさわざジェット機の扉を持ってきた用意周到な奴だからこそ、宙に放り出されることぐらいは分かっていた。
高度が恐るべきスピードで下がっていく中、速くパラシュートを開けばいいものを、両者は無言の探り合いを続ける。
最初に仕掛けたのはアレク。
『ファイネスト・アワー』によって増強され、人体の限界を超えた力がスラックに近づく。
「!」
拳が当たる直前、アレクの視界を鮮やかな赤い煙が覆った。それに動揺し、思わずアレクの拳は空を切る。
機内でチラッと見ていたため煙の正体は一瞬で分かった。
「発煙筒か…!」
そして視界不良の中に捉えたのは細長い発煙筒めあろう物と、大きく無防備な人影。
「オラァッ!!」
一心不乱にその人影に力一杯の腕を伸ばす。
ドゴッ!――当たった。完璧に、人の肌に拳はめり込んだ。
しかしどこかおかしかった。感覚でも狂っているのか、その肌は製氷皿から出したばかりの氷のように冷たかった。
煙が徐々に晴れていく。
「そろそろ…かな」
アレクの背後から聞き慣れた声が聞こえる。
目の前にあり、アレクが先程殴り抜いたのはスラックが持ってきた飛行機にあったはずの見知らぬ若者の死体だが、もうそんなことはどうでもいい。
そろそろ、という言葉を推理することも、スラックのいる方向を振り向こうと試みることもかなわず、頭上にそれは見えた。
「グッバイ、アレクサンダー!記憶の隅っこに置いててやるから安心して脳髄ぶちまけな!」
アレクの真上に、雲を貫き月光を遮る巨大すぎる影。
それはアレクの落ちるスピードよりも速く、何よりも大きい、ジェット機だった。
「オイオイオイ…!ジェット機まで持ってきたのか!」
アレク達が乗り捨てたジェット機がアレクの頭上にあるはずがない、つまりスラック自身が例の「あっち」の世界から持ってきたジェット機。
そして今、避けられない程の距離で、ジェット機は縦向きの状態でアレクに猪突猛進している。スラックは既に遠くに逃げており、完全に策にはまってしまった…わけではない。
アレクは少し笑みをこぼし、深く息を吸う
「喰らわせろォッ!!『ハイヴス』ッ!!!」
「それ私の台詞-ーッ!」
ジェット機と一緒にやって来た男。不衛生なこの男。ジェット機にしがみつき、心底恐怖するその男。
フェリックス・ジョーンズが、決死の思いで空から降ってきた。
既にアレクがジョーンズに対し「棒状の物だと思い込む」という望みを叶えている。なのでもうジョーンズから見ればジェット機は棒状の物体。『ハイヴス』の発動条件は満たした。
しかし人一人の力で空中のジェット機を横に倒せるはずはないため、もう一人ほど助けが必要なわけだ。
「解き放てッ!『セヴンズ・スター』!!」
二人目の助っ人、コリオ・バトラーが意気揚々と現れる。
人一人を反射させるのが精一杯の能力だが、反射させる必要はない。少し揺らせば、あとは勝手に倒れてくれる。
カンッ!――とコリオの鏃とジェット機がぶつかり、軽はずみな金属音を奏でる。
それは作戦の合図。
「うぉぉぉぉぉおおっ!!!」
ジョーンズはタコのように口を震わせる。
コリオの『セヴンズ・スター』によって揺さぶられたジェット機はジョーンズの『ハイヴス』によって「幸運の方向」へ倒れる。「幸運の方向」はそれぞれであり、一方向に倒れるわけではないが…
「これは賭けだ!そして今ッ!勝者は決定した!」
ジェット機は縦から横に向きを変えつつ、しなる鞭の如くスラックの体めがけて接近する。
ここは空中、そしてもう遅い。
「このッ…!ゴミがァッ!!ゴミ共がァァァアーーーッ!!!!」
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