リトル・ミックス その1
月明かりがまだ射し込まない、巨大な照明に照らされた一面ガラス張りの室内。計算され尽くして設置された観葉植物やベンチが意識の高さを表している…ような気もする。
プレスリーという男との戦闘後、2人は数分でアーリー・エクトス証券会社の本社に着いていた。
退社する者もまばらにいる中、受付嬢にリルが話し掛けている。
「あんたらの社長さんにちょっとばかし会わせてほしいんだけど」
リルの初めて来たとは思えない大きな態度はさすがと言うべきだろうか。遠目で見るリアスにはとやかく言う気もおきない。
リルは何か警察手帳のような黒い物を見せると、リアスに向かって手招きした。
「許可貰ったの?」
「ああ、今すぐ会え―――
「あっ、お客様。只今エクトス社長は退社したと連絡が入りました。申し訳ございませんが面会のご予定は明日に延期という風になってしまいますが…」
話を遮り、耳を疑う言葉を発した受付嬢。
リルとリアスは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしながら見つめ合う。
「お客様…明日でよろしいでしょうか…?」
「いや…面会は中止だ」
リルは額を押さえ、渋い表情をする。
なんとなくだが、何をするかは予想がついた。
「追うぞ!リアスッ!」
突拍子に声を上げ、風を切り床を蹴る。
夜の社内に響くその場違いな声は颯爽と木霊し、声の主は既に社内にはいなかった。
外に出たリルとリアスは、周りを見渡す。
「どこだ…アーリー・エクトスは!」
「姉ちゃん…あれ!」
リアスが上空高くに指先を掲げるように上げた。
リルはふいにその先を目を細め、睨む。
指の先には、夜空に赤いライトをチカチカと光らせ、飛び立っていく飛行物体が見えた。
「あいらもヘリか…!…行くぞリアス!」
「うん!」
快い返事をしたものの、どう行くのか不思議に思えた。
星空を天高く飛行するヘリコプターはどんどん遠ざかり、今にもビルに隠れ見失いそうになる。
リルは近場に停車してあった真っ赤な車に近寄ると、窓をノックした。中にいた男はゆっくりと窓を開ける。
「なんでぇ、今金がねぇから後にしてくれ」
「売春じゃあねぇよ、ちょいとこの車貰ってくぜ」
するとリルは強引に小さな小切手のような物を車の男の顔に乱暴に叩きつけて、何か男と口論している。
ふとリアスはリルのもとに進もうとする。
「うおッ!」
何かに足を止められ、思わず足下に顔を向けた。
すると都会だというのに足にツルのようなものが引っかかっていた。ただのツタだが、どこか不気味で、ほんの一瞬だが恐怖が芽生えた。
「なんだ…これ」
隙間もないようなアスファルトの道路から生えている一本の緑のツタ。偶然だと特に気にする様子もなく、リアスはそのツルから足を抜く。
「おい!こっちだ!」
リルの声にビックリしながら、リアスは飛び込むように車に乗り込んだ。車内はタバコ臭かったが、この際気にしている余裕はない、全てがあのアーリーにかかっているのだから。
「へへっ…こりゃあまあ頑張ってくだせぇ」
外に放り出されたような姿でいる車は持ち主の男は、まんざらでもなさそうな顔で立ち去っていく。
「ぶっ飛ばすぞ!」
鬼の形相で、リルはアクセルを全力で踏んだ。
それより少し前。
メリーランド州北東部 上空
「でさ、今月のヴォーグでいい感じのコートが紹介されててさ」
「………」
コリオは淡々と一人で話を進める。それを対してアレクは外の星空を眺める。
「首都に答えが詰まってるってリルさん言ってたけど、よく分かんないわ」
「リアスの母親も、あのアーリーとかいう男の家も、D,C,にあるんだろ」
「ウッソー」
「現地に行けば全て分かるはずだ」
月光が黒光りする機体をさらに輝かせる夜の空にて、通路を挟み一列ずつ並ぶ座席でコリオ・バトラーとアレクサンダー・コールマンとフェリックス・ジョーンズは気楽に寛いでいる。リルの所有するジェットで、既に3人はワシントンD,C,に向かっていた。
「グガァー…ガー……ガフッ…!」
ジョーンズは景色にも2人にも目もくれず、熟睡している。
「現地に行けるかは…分からないがな」
「え?」
機体の後方の座席で、独りポツンとヘッドホンで音楽を聴く黒髪の男。足を組んでアレク達と同じようにくつろいでいる。
ロングコートを身にまとい、かっこつけているのか、暗い雰囲気を醸し出す。
「はぁ…」
黒髪の男はヘッドホンを外し、耳の穴を穿りながら立ち上がる。それとほぼ同時に、アレクも立ち上がる。
視線の先にいたのは、やはりあの男。
「かなりヤバい状況なのは…間違いねぇな」
「え?誰?」
コリオも異変を感じ、注意深く立ち上がる。
「そうだな、自己紹介をしよう。俺ぁスラック・スコット。契約期間が延期されちまった悲しい男さ」




