閑話『どういうことだ?』
後編の細かい設定を考えながら暇潰しで考えた閑話です。時間軸としては、第三章から五章の間の話です。
彼は『イスカリオテのユダ』の役を与えられた褐色肌の少女と共に、此度の『聖爵血戦』の監督役にしてキリストの狂信者『ファール神父』が待つ教会へと赴いた。
彼女が何者なのか、そして今回の儀式の事でもっと詳しく知る必要があると感じたからだ。
「これはこれは、ワタシが用意した力を無事に受け取ったようだね.......ん?」
「? どうかしたのか?」
ファール神父がユダを見るや、突然顎に手を当てて深い溜め息をついた。
「むむ、主よ。この牧師は何故に吾を見て落胆しているのだ?」
「さぁ?」
なんか、がっかりしたような、そんな印象を受ける。
もしや、ユダはハズレ英雄だったりするのか?
いやいや、英雄にハズレなんてあるのか?
もしそうだとしても、がっかりするのは彼であって、監督役のファール神父には関係ないはずだが、
「.......一体どうなっているのだ?」
何がだ?
「あぁいや、失礼した。初めましてイスカリオテのユダ。ワタシが今回の儀式の━━」
「知っとる。吾の主様から汝の事は聞いておるし、此度の戦、及びこの時代の知識は『カレス』を通して吾の頭の中に入っておる!」
「......えぇそうでした。いや、そんな事知っていながら自己紹介なんぞしようとするなんて、ふ、ふふ」
「むぅ、主よ。この牧師、一人で笑って気味が悪いぞ」
「あーいや、この神父は全て知ってる上で質問する悪戯好きな性格なんだ。大目に見てくれ」
やはりユダも自分と同じで、この神父に不快感を抱いたようだ。
その後、ファール神父からユダを含めた13騎の使徒役の英雄の説明と此度の聖爵血戦の細かいルールの説明を受けた後に、
軍資金として10000$を寄付されたのであった。
「.......気前が良いな。こんな大金を俺にくれるなんて」
「何、他の参加者全員にも同じ額を与えている。その資金でまず服を買ったらどうかね? この聖なる戦いにおいて、そんな布切れだけでは他の参加者に示しが付かないだろ?」
確かに、今の彼は浮浪者が着るような肩から腰の辺りまでの布切れだけを身に付けている。
三年間の旅路の果てに、「大事な所さえ隠せれば服なんて興味ない」と思うようになってしまった彼。
しかし、確かに今は痩せ細ったのも合間って亡者みたいな姿だ。確かにこれでは他の参加者に示しが.......いるのか?
これから殺し合うのに、
「じー」
「な、なんだ?」
ユダがこちらを凝視している。てか近い、顔が近い。召還した時もそうだが、何故そんなに顔を近付けるのだろうか?
「確かに、牧師殿の言う通りよ。そんなみすぼらしい格好では吾の主としては示しが付かぬ!」
「と、言われても……」
「それにほれ、少し捲っただけで大事な所が丸見えではないか! 何故下着すら付けぬ!」
「……何ナチュラルに覗いてんの?」
さすがについさっき出会ったばかりの少女に大事な所を見られるのは恥ずかしいのだが、
「いやいや、主のあそこはどうなっておるのかと……むむ、なんと!? ミイラのような体でありながら、なんとまぁ……」
教会で何やってんだこの子。
「オホン! ……神の御前でそんなやり取りは止めてくれぬかね?」
そんなやり取りを見てファール神父は少し不機嫌になったようだ。本当にすまない。
「おお! すまなかった牧師よ!」
そう言われてユダが俺の服(布切れ)を放してくれた。
「すまない」
「……やれやれ、まったく、他のクリスチャンだったら大事であったな」
ごもっともである。
「さて、自分の服を買うついでにユダの服も買ってあげたらどうだね? いつまでも鎧姿で共にニューヨークを歩く訳には行くまい?」
まぁ確かに、戦闘以外でユダを鎧姿のまま街に出るのは気が引ける。ついでに買ってやるか。
それにしても、教会だろうと神の御前だろうと、己の態度と行いを変えないとは、ある意味『裏切りのユダ』に似てると言えば似てる少女かも。
そんなこんなで、ファール神父から貰った軍資金で自分の服とユダの服を買いに行った後に、今後の事をユダと話し合う事としよう。
こうして、彼はユダと共に教会を後にした。
彼等を見送った後、一人残されたファール神父はとても難しい表情を浮かべて悩んでいる。
「……おかしい、彼に与えた『あの欠片』は、かの大英雄を喚ぶ為の触媒だった筈なのだが……何故少女の姿で現界したのだ? 伝承とは大分違うではないか……ぶつぶつ」
彼に与えた筈の過去の英雄の姿が自分の予想と違っていることに疑問を抱きつつも、ファール神父は監督役としての職務に戻るのであった。