第三章『競争』
一時間前。
「ユダ。敵が現れたら君は敵の『使徒役の英雄』と交戦してくれ。その間に俺は敵の参加者を探して、殺す」
「ほほぉう。汝が手を下すのか? うむ! 任せよ! 別に汝が直接手を下さずとも、敵の使徒を倒すだけでもよいのであろう?」
「......あぁ、その通りだ」
今回の儀式、ファール神父は『聖爵血戦』と名付けたこの殺し合いの細かいルールとしては、
・使徒役と参加者は、最大500mまでしか離れられない
・参加者は無事でも、参加者が使役している使徒役が倒された場合。その時点で参加者は失格となる。
・一般人に危害を加えない。一般人を巻き込まない。例え隠蔽していたとしても、それが監督役(ファール神父)によって発覚した場合も失格となる。
・ニューヨークから出てはならない。他の都市や国外への逃亡も禁止されている。
・失格者はその時点でこの儀式の呪いにより、強制的にその血がカレスに捧げられて死亡する。
正直に言うと、彼は不安であった。
ユダがどんな英雄かは知らないが、こんな少女が歴戦の英雄と戦えるのか?
どう考えても、彼女の細腕ではまともに戦えそうにない気がする。
だからだ。だからこそ、ユダが他の英雄に負ける前に、自分が参加者を殺す。
そうすれば、彼女が傷付く事はない、彼女は巻き込まれただけだ、自分の身勝手な願いに、
昨日会ったばかりの少女だが、彼女を傷付けさせたくない。
「つまりあれだな。これは早い者勝負であるな!」
「なんでそうなる」
こちらの心配も他所に、ユダが頓珍漢な事を口走った。
「だってそうであろう? 吾が先に使徒を倒すか、汝が敵の主君の首を討ち取るか、競争といこうではないか!!」
競争ときたか、本当に彼女と居ると全然緊張できない。それはそれで凄い才能であろう。生前はさぞや仲間からも慕われる理想の英雄だったのであろう。
.......もしかして、彼女に対する心配そのものが、彼女に対する侮辱ではなかろうか?
率直に言って、まだ信用できない。ユダの人柄がではない、実力がだ.......ここでハッキリさせよう。
「あ、そうだ。ユダ、何故俺には真名を教えてくれないんだ?」
「え!? あーその.......しいから」
「ん?」
え? 聞き取りずらかった。
「は、恥ずかしいからである!! なんかこの時代だと吾の事を『リアルチート』とか『ザ・人外』などと恥ずかしい称号が付いちゃってるではないか!? 誰ぞ! 過去の英雄をリアル不正行為者などと呼ぶアホはッ!!」
「........それ何処情報?」
「秘密じゃ!」
リアルチートの英雄ってなんだよ? それ言っちゃうとほぼ全ての英雄、偉人がリアルチートじゃないか。
こんなので恥ずかしいがるなんて、変な所に羞恥心を持ってるな。この英雄少女は、
今はなんとも言えない、今は英雄としてのユダを信じよう。
しかし、先程彼女が言った競争が気になるな.......
「ユダ、君が言った競争でどちらかが先に勝ったらなんかあるのか?」
「ん、そうだな。........では吾が勝ったら━━━━━」
そして時は戻り、いよいよ最初の聖爵血戦の幕が上がろうとしていた。
これから彼の命尽きる六日間の間に及ぶ血塗られた聖戦。
欲深き12人の血を捧げて願いを叶える事が出来るのは.........果たして、
「華々しい初戦を吾の勝利で飾ってやろう! なんせ吾は『勝利の王様』である!」
彼女の服が光出すと、昨晩召還した時の白銀のドレスと甲冑鎧と赤いマント姿になって、臨戦態勢となる。
「笑止! 王が前線に立つものか! なんとも不謹慎極まりない! やはりここで貴様は倒さねばならぬ! 『イスカリオテのユダ』!!」
「来るがよい! 『マトフェイのマタイ』!!」
━━聖爵血戦。ここに開戦!!