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カレス~ニューヨーク聖爵血戦~  作者: 心之助
一日目「群雄割拠」
7/25

第ニ章『初陣』

 ニューヨーク・セントラルパーク。


 午後11時。


 まだちらほらと一般人が見える時間。これではまだ相手は出てこないだろう。


「ユダ、何故こんな開けた所を選んだ?」


「む? あー、別に、ここの方が目立つであろう?」


「........」


 いやいや、もしも相手が弓とか銃とか使う相手だったらどうするんだよ?


 セントラルパークの、しかも遮蔽物の少ないスポーツ目的の芝生エリア。目の前に湖が見える。


「案ずるでない! こう見えても吾は慎重派。もしも敵が来たら近くの森に逃げ込めばよいよい!」


 森って、セントラルパークの自然保護区の事か、確かに、都市部なのに森の中に居るような錯覚になる人工的な自然保護区。確かに、あっちの方が遮蔽物が多いな。


「ところで主よ。一つ疑問に思ったのだが」


「なんだ?」


「御主、『恐怖』を感じておらぬな? 確かに今の御主は死なぬ。いわば無敵の存在。だが、『人を殺す事に対する恐怖』が無さすぎる気がする」


「........確かにな。実は過去に俺は、18人、18人だけ中東で殺した経験がある。だが、それ以上に、俺は人の死を見すぎた。それだけだ」


 その結果、彼の中の理性と言うブレーキが緩くなってしまったのかもしれない。それでも彼はまだ真っ当だ。『覚悟がある奴』しか殺せないのだから。


 これで無差別に殺せるのであれば、それはもう、彼に救いはないであろう。


「.........ほほう、ま、吾の方が汝よりメッチャ人殺してるし、メッチャ多くの死を見てきたわ! 故に吾の方が上ー! はい、吾の勝利ー! ぬっはははは!」


「........」


 勝負してない。もしかして、ただの自慢か?


 昔なら誉められた事だろうが、今の時代だと、過去の英雄は大量殺人を犯した大罪人だろうな。


「........しかし世知辛いのー、吾の時代では誉められた事であるにー、ここでは誉められた事ではないのだな。もぐもぐ」


「.......よくこんな時にお菓子食べれるね」


「ぬかせ! 戦の前は腹拵えが大事なのはどの時代でも自明の理であろう?」


 はぁ、こう言うの慣れてるからだろうなぁ。ある意味頼もしい、だが、ここである疑問が生じてしまった。


「ユダ、一つ気になったのだが、何故君は俺に手を貸す? これも魔術的な契約か何かなのか?」


「いんや、汝の顔が吾の好みであっただけだが?」


「へ」


「うむ、今は骨と皮だけだが、もっと肉を付ければ吾の好みになるに違いない! 時間は少ないが、吾は絶対に汝の美顔を目に納めてみせるぞ!」


 顔が好みだったって、そんな理由で過去の英雄が力を貸してくれるのか? じゃあ、彼の顔が好みじゃなかったら、召還したあの時点でどうなっていたのだろうか?


 .......深く考えるのは止めよう。


「不謹慎。不謹慎である!!」


「!?」


 唐突に、威厳に溢れた重々しい男の声が響く。


 そこには、1700年代程のフランス軍人が着ていたような軍服、左胸に沢山の勲章、そして極めつけは、鬼気迫る厳格な表情を浮かべる中年の男性がそこに立っていた。


 更によく周囲を見渡すと、ユダとのやり取りをしてる間に、セントラルパークに残っていた人々が、一人も居なくなってしまっていた。


「公衆の面前で男女が不埒は計らいをするなぞ言語道断! 風紀を守れ! 規律を守れ! 法を守れ! それが出来ない者には罰を与えねばならぬ!!」


 なんとも生真面目過ぎる男だ。後五月蝿い、ユダも大概五月蝿いが、この男もかなり五月蝿い。


 恐らく、この男もユダと同じ過去の英雄だろう。見た目からして、完全にフランス軍人だろうな。


「ほぉ、異な事を申す、吾は我が主君に一目惚れしたのだ。部外者が口を出すでないわ」


「ちょ」


 明らかに自分達の敵が目の前に居るのに、ユダはまるで見せ付けるかのように彼の首に腕を回して頬擦りをし始めた。


 自分達の仲良しっぷり見せつけたいのだろうが、確かに公衆の面前でこんなことをするのは不謹慎ではあるが、今はセントラルパークには自分達と目の前の男しか居ないから、気にする必要もないか。


 しかし、そんなユダと彼を見て、男は顔面をタコのように真っ赤にして顔から湯気を出しながら物凄い激昂した。


「ふっきんしぃぃぃぃぃぃぃん!! ききききき貴様! それでも名だたる英雄か! この娼婦めが!」


「はっ、己の名前すら名乗らぬ汝に言われたくないわ。汝はさぞ気高く誇り高き騎士道をお持ちと見た。そんな汝が先に名乗らぬ方が不謹慎ではなかろうか?」


「ぬ、ぐぅ........!!」


 一見取っ付きにく相手だが、ユダは相手の人間性を瞬時に見抜いた様子。確かに、あれほど規律に五月蝿そうな男のことだ。きっと律儀に名前を全て語ってくれるやもしれん。


 相手がどんな英雄なのか分かれば、こちらも色々と対策が立てられる。


「小娘に言われたのであれば忍びなし! 我こそは━━━━」


「スキアリじゃ!!」


「えー」


「なんとぉ!?」


 名乗らせておきながらまさかの不意討ち、これは酷い。と言うか、ユダの手には何もない、素手で男の腹部を殴ったのだ。


 あれ? 武器は?


「小癪な真似を!!」


「よっと」


 男は何処から取り出したか知らないが、男の右腕には一振りの槍斧『ハルバード』が握られていた。


 そのハルバードの斧の部分でユダの脳天を狙うも、ユダはかわして、そのままこちらまで間合いをとって戻ってきた。


「き、ききききき、きしゃ、貴様!!」


「ぬはははは!  眼前の敵将を前にして名乗るとか、どんだけ汝は真面目バカなのだ! くはははは、笑いが止まらん!」


「ぐぬぬぬぬぬぬ!! なんと言う恥知らず! 我が怨敵『ベルナドット』に匹敵しかねない恥知らず! 許すべからず!!」


「くはははは! おい主よ。あやつ面白いぞ!」


「........」


 強敵を前にしてもこの余裕っぷり、どんだけ図太い神経をしてるんだ。


 そもそも、今の不意討ちも本気ではないんだろう。だって、あんな強そうな奴に武器ではなく素手で不意討ちをしたのだ。完全に小馬鹿にしてる。


「おのれぇぇぇぇぇぇぇ!! 不謹慎! 不謹慎である! これはキリストになぞらえた聖なる決闘ではないのか!? 誰だ! こんな場違いな娘を喚んだ輩は!」


「我が主様じゃ!」


「貴様かぁぁぁぁぁぁ!!」


 こちらに矛先を向けるな。もう収集がつかない。


「主よ。なんかこの男殺すには惜しいくらい面白いぞ!」


「........いい加減にしろユダ」


「むきゅぅ」


 さすがにこれでは話が進まない為、彼はユダの脳天に手刀を軽く当てた。ユダも遊びすぎた思い、少ししょんぼりしてしまう。


 ....... 本当に今から殺し合いをするのか?


「ユダ? あの『イスカリオテのユダ』の役に任命されたのか? ははははは! 最後の晩餐でイエスを裏切った不埒者か! 貴様にはお似合いだな!」


「であろう?」


 おい、自慢するな。


「ふっ、では我が役職だけでも名乗らせておこう.........もう不意討ちは通用せんぞ?」


「わかったからさっさと名乗れ、吾は早く寝たいのでな」


「よかろう! 我が役は━━━━」


「あんたら長いのよ」


 と、唐突に女性の声が響いた。しかし、女性の姿は全然見えない。


「ぬっがぁ!! 我が主まで私の邪魔をするかっ!!」


「うるさいのよ貴方は、あ、こいつは『マトフェイのマタイ』の役で、真名は教えない」


「えぇぇぇ!? 不謹慎であるぞ主! 私の晴々しい名乗りを邪魔するな!」


「お黙り、不謹慎不謹慎うるさいのよ。そんな性格だから生前ボッチだったのよ」


「ボッチではないわ!!」


「いいから、早くその小娘とゾンビみたいな奴を殺して頂戴」


 なるほど、生前はボッチだったのか。それに、なんかもう、この男『マタイ』の真名も分かってきた気がする。


 フランス軍人に、規律を重んじる性格、生前ボッチ、ベルナドットを怨敵と呼んでいた。


 ベルナドットとは、スウェーデン=ノルウェー連合王国国王『カール14世ヨハン』の事だろう。


 当時のカール14世を忌み嫌っていたフランスの将軍として有名なのは、やはりあの英雄か。


 もし、彼の予想が当たっているとしたら、このマタイと言う英雄はかなりの強敵であろう。


 まともに戦って勝てる相手ではない。ならば.......


「ユダ。さっきの段取り通りに行くぞ」


「承知!」


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