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カレス~ニューヨーク聖爵血戦~  作者: 心之助
一日目「群雄割拠」
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第一章『束の間の安らぎ』

 翌日、彼は昨晩出会った少女『イステリオスのユダ』と共に、ニューヨークの街のレストランに居た。


「ほーれー、食べぬかー」


「.......要らない」


 あの後、一度教会に戻ってファール神父にユダを見せて開戦の合図を他の参加者に魔術的なよく判らない信号を送るのを見届けた後に、軍資金として10000$も貰ってしまった。


 こんな大金、貰ってしまっていいのだろうか?


「ほーれー、主よー、口を開けろー」


「........」


 そのお金でユダの私服を買ってあげ、更にユダの要望で布切れのような服を着ていた彼にも清楚な私服を買わされてしまった。


『吾の主になるのであれば、もう少し吾好みになれ!』


 と、半ば強引に、


「食う必要はない。俺の体は死なないから、食事は必要ない」


「ぬぅ、昨晩言ってた『不滅の呪い』だな? なんともまぁ、そんな体になってまで叶えたい願いとはなんだ?」


「.......」


「むぅ、だんまりか」


 『不滅の呪い』改めて説明すると、彼が平穏な生活を手放す際に偶然出会った魔術師から貰った呪い。不死とは異なり、再生能力はなく、文字通り何があっても死ぬことはない、いや、傷が付くことはない不滅の体。


 例え餓えても、喉が渇いても、血が干からびても、骨と皮だけの肉体になったとしても、


 その体から魂が抜け落ちることは絶対にない、まさに不死よりもタチが悪い呪い、言わば不死の出来損ないである。


「愚かよな。せめて不死になっておれば良かったもの」


「それを可能にしてる魔術師は少ないらしい、それに、この呪いには当然デメリットがある」


「それは?」


「.......この呪いを受けてから三年後に死ぬ。後六日で俺の体は塵となって崩れ去るだろう」


「.......か」


「?」


「かーははははははははは!!」


 唐突にユダが笑い出した。周りの人々など気にせず、高らかと笑った。


「なんともまぁ、そうまで叶えたい願いがあるとは、吾の主は中々に強欲バカであるな!」


「なんだよ。強欲バカって」


「確かに、汝の行いは愚か極まりない、唯し! 一つの願いの為に頑張った汝を吾は惨めだと思わん! むしろ凄い、凄すぎて頭を撫でてやりたいのー、ほれほれー」


「ちょ、やめろ」


 人目を気にせず、ユダは彼の頭を撫で回し、彼の髪をクシャクシャにしてしまう。なんか、子供扱いされてるみたいだ。見た目的にこの少女より歳上のはずなのに、


「うんうん! 少しは元気になったな! 吾は嬉しいぞ!」


 なんか、強引だが、明るい少女だ。自己中心的な印象を受けるが、彼女と居ると、なんだかこちらも自然と笑みが溢れてしまう。


 凄い子だ。この子はキリストの弟子の一人『ユダ』ではない。ユダの基板に上書きされた過去の英雄。こんな少女が過去に戦場で戦っていたなんて、とても想像出来ない。


 これから、彼女と共に殺し合いをするのか、こんな明るい子が、人殺しの武器を手に12人を殺す所を見るのか?


 『たかが12人殺せればいい』。世界の地獄を見てしまい、12人の死は彼にとっては、とても小さな死に見えてしまっていた。


 無論、殺しは嫌いだ。しかし、12人を自分の手で殺すのなら、己の心を殺す覚悟を持っていた。


 しかし、自分ではなく赤の他人に指示を出して人殺しをさせるなんて、自分の手を汚さずに、それにはさすがの彼も罪悪感を覚えてしまう。


「...........むがぁぁ!!」


「な、わ!」


 今度は両手で頭を揉みくちゃにし始めた。もう彼の髪型はおかしなこととなってしまった。


「あーもー! また暗くなりおって! 吾をどう使おうが汝の勝手じゃ!! 吾は汝の剣! 遠慮なく指示を出しておればよい!」


「わ、わかった、わかったから止めろ!」


 それから時間は過ぎ、夕方となっていた。日中はユダに振り回されて、二人っきりでニューヨークの街を歩いただけであった。


 彼女は現代の街並みに興奮しながら観光を楽しんでいたな。


 そもそも、こうして誰かと一緒に歩くなんて、三年ぶりでもある。


「むはははは! 未来は中々に楽しいのー、ついつい爆買いをしてもうたわー!」


 なんかこー、大量の食糧やらお菓子やら服やらアクセサリーやらを大量に買わされ、ファール神父から貰った軍資金10000$があっと言う間に半分になってしまった。


 まずい、この子、かなりの浪費家だ!


 さすがの彼も危機感を覚え始めた。半日で5000$使うって、恐ろしい。


 彼には宿は必要ないが、ユダの為にも宿は必要なのかもしれない。


「........ホテルに行くか」


「なんと!? ホテルとな! 吾は知っている。ホテルとは現代における男女の隠れ蓑であるな! ハッ!? さては汝、吾の体を......」


「興味ない、俺には他に好きな人が居るから.......」


「おぉ! 御主が三年もアホみたいに彷徨っていたのも、その愛人の願いを叶える為であった! えぇい、ここまで勿体ぶりおって、いい加減にその願いがなんなのか......っ!」


「ユダ?」


 さっきまでデカイ声で語っていたユダの表情が、とても険しくなる。


 しかも、彼女からは『殺気』を感じる。


「........ほほぅ、早速掛かったか、喜べ主よ。最初の獲物だ」


「........」


 実は、ただ街を歩いていたわけではない。他の12人の参加者を探していたのだ。


 さすがに人目がある日中で襲われる事はないであろうし、こちらから探すよりは、目立つユダが街を練り歩いていれば、必ずこちらを尾行して襲うチャンス伺うことであろうと思ったのだ。


 そして、ユダをエサに釣れた。最初の獲物が、


「かーはははは!! 早速の初陣よ! 主よ! 今宵の獲物の血と魂を汝に捧げたら、早急にホテルに吾を案内せい! 吾はフカフカのベッドで寝たいぞ!」


「.............了解した」


 今から人を殺すか殺されるかの緊迫した状態なのに、ユダは全然高笑いを止めない。やはり慣れているのだろう。殺すのも、殺されるのも。


 これが過去の英雄。華奢な少女だが、明らかに現代人のそれとは違う。本物の『戦場の殺人鬼』。


「あー腕が鳴る。文字通りなぁ!!」

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