第四章『開戦』
「ふー、ようやく役者が揃ったか」
教会の懺悔室。そこにファール神父が居た。
「やっとですか。待ちくたびれましたよ」
懺悔室の向かいの部屋。そこに居る顔が見えない人物とファール神父は会話をしていた。
「あぁ、嬉しい、かのアーサー王伝説に登場する聖杯を奪い合う『別の儀式』を模範にしてワタシが設計したこの大儀式がついに始まるなんて......嬉しくてたまらない」
「私も夢のようですね。しかも、キリストの弟子12人とキリスト、合わせて13人の『基板』に過去の英霊の霊基を『上書き』して当てはめるなんて、中々に『罰当たり』ではなくて?」
「......そうかね? 彼等はキリストとは関係ない過去の亡霊だ。それにキリストの霊基を与えて仮の肉体を附与させて上げたのだ。むしろ感謝されたいね」
ファール神父は椅子に背を深くもたれてご満悦な表情を浮かべながら、美酒に酔しれたかのような甘い溜め息を吐いた。
「そもそも、キリストの弟子達もただの亡霊。そして未だに世界中の信徒の願いに応えもせず、復活を拒み、煉獄で彷徨うキリストもまた、今は只の亡霊であろう」
キリスト教徒にあるまじき発言だ。復活しないキリストなんぞキリストではないとは、他の信徒が聞いたら大事になりそうな発言だ。
「くすくす、貴方のそう言う所、好きよ」
「そうかね。ワタシは『生きているキリスト』以外興味ないがね。それより役者は揃ったのだ。死体はワタシが回収するから、君もそろそろ行きたまえ」
「えぇ、そうします」
壁の向こうに居る人物が立ち上がり、懺悔室を後にした。
ファール神父は懺悔室から出て見送る事もなく、そのまま懺悔室に残って涙を流し始めた。
「嗚呼、これは導きだ。我等が主が復活出来ないのであれば、ワタシが復活の手引きをする他ないではないか。しばしお待ちを主よ。貴方様の為に『穢れた血』を捧げますとも」