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カレス~ニューヨーク聖爵血戦~  作者: 心之助
二日目「王道会談」
22/25

第5章『会談準備』

 現地時間、午後20時。


 クリフ・デズモンドに指定された時間まで、後二時間。


 日中にやるべき事を終えた彼とユダは、拠点となるタイムズスクエアの格安ホテルに戻っていた。


「ふむ、折角の異国の王との対談。それなりの正装で参らねば、我が祖国の恥じよ」


 と、ユダが会談に向けてどの服で行こうか迷ってる。


「あ、念のため言っておくが、主もちゃんと着替えよ。今から向かう場所は、かなり贅を凝らした食堂と聞く」


「あぁ、さすがにこの格好じゃ恥ずかしいしな」


 そう、クリフが指定した高級レストラン『ステラ』。


 そこは高層ホテルの中にあり、地上50mからニューヨークの夜景を一望出来る人気レストラン。


 ただ、ここの料金が舌を巻くほどの高額な為、一般人はマトモに立ち入ることすら困難な場所。


 要は、富裕層専用レストランだ。


 つまり、他の客は全員、かなりの富豪か大富豪、資産家しか集まらない。そんな所だ。


 ……なんで、こんな所を選んだんだ? 多分、監督役のファール神父から貰った10000$を使って席を予約出来たんだと思うけど。


 それに、彼はそんな所に足を踏み入れた経験がないせいで、正直どんな服で行くべきなのか迷っていた。


 そもそも、クリフはここまでして、彼に何を伝えたいと言うのだろうか?


「……ふむ、我が国の正装で行こうと思ったが……今この地では、吾の国の『教徒』が敵視されておるしの……」


「教徒?」


「……いや、気にするな。やはりこの地に合った正装で参るか。よし! これに決めた!」


 と、ユダが決めた服は、胸元が開き、スリットが入った黒いドレスだ。


 ユダの小麦色の褐色肌にとても似合う動き易そうなドレスだ。


「どうだどうだ? 似合うか? 似合うであろう?」


「あぁ、とっても可愛いよ」


「ほにゃ!? か、可愛いなどと軽々しく言うでない! 心臓発作起こす所であったわ!!」


 率直な感想を述べただけなのに……。そもそも心臓発作って、どうしても危険なノートを連想してしまう。


 ……このネタ、古いかな?















 現地時間、午後9時50分。


 そんなこんなで、予定より10分早目に、彼とユダは、目的の高層レストラン『ステラ』へ向かうエレベーターに乗り込んでいた。


「ふむ、やはりこの乗り物は実に画期的よな。一体どういう仕組みなのか、一度見てみたいものだ」


「ユダ、エレベーターに興味あるの?」


「そりゃ勿論! 吾の時代にこのような乗り物無かったしな! 吾はこう見えても常に知識欲に飢えておる! 気になる事は納得が行くまで調べてみたいのだ!」


「勉強熱心だね」


 と、割りとどうでもいい雑談を挟みながら、等々目的の場所に到着した。


「いらっしゃいませ。お二人様ですか? それとも御予約はお済みのお客様ですか?」


 エレベーターが開くと、そこにはレストランのウェイターが立っていた。


 やはり、富豪揃いのレストランなだけはある。


 従業員の対応も、他のレストランよりも丁寧に行き届いている。


「はい、『クリス・ウォーレス』で予約した者です」


「かしこまりました」


 『クリス・ウォーレス』、クリフ・デズモンドがこの店に予約を入れた()()である。


 偽名まで使うなんて、そんなにファール神父に知られたくないのか?











 現地時間、午後10時。


「では、こちらへ」


「……え?」


 意外な事に、彼とユダは別々の個室へと案内されてしまった。


 てっきり、彼とユダ、クリフとユディシュティラの四人でテーブルを囲むと思ってたけど、違うのか?


 これではユダと離れ離れになってしまう。


 恐らく、彼はクリフと、ユダはユディシュティラと、参加者と参加者。王と王の、それぞれの席でそれぞれの事を話し合うのであろう。


 そして、彼が最も重要視してるのは、やはりクリフだ。


 クリフが何を彼に話すのかが肝心だ。


「……じゃあユダ」


「……うむ、こちらは安心しろ」


 と、ユダは決意に満ちた瞳で答え、ユダと一時的に別れた。


 けど、やはり不安だ。不滅の呪いがあったとしても、相手はクリフ。謎の技で彼の首を治した程の腕前だ。


 考えにくい事だが、もしかしたらクリフには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 もし、ここで呪いを解呪されてしまうと、残り四日の寿命を待たずして、彼はこの場で消滅してしまう。


 それだけの無茶を散々してきたんだ。彼の体はとっくの昔に常人の限界を越えているのだから。


 やはり危険だ。危険だが、やはりクリフからは情報が欲しい。


 そうやって色んな思考を巡らせていると、遂にクリフが待ち構える部屋の扉が開かれた。


 そこで彼が見たものは――。




「イ、テテテテテテ、あ、あのバカ王! アイツのせいで、あ、足が、足がぁぁぁ!!」


「……………………」


 ――この人、何してんの?


「筋肉痛よ。緩和せよ……『マジカル☆ストレッチ』ッ!!」


 うわぁ、すっげぇ芋虫みたいな奇妙な動きでストレッチしてる。何があったんだ? てか、見てるだけで気持ち悪い動きだ。


「ぐ、おおおおおおお……ハッ!?」


「……ど、どうも」


 やっとこちらの存在に気付いてくれた。


「……よく来たな少年。待ち焦がれたぞ」


「あ、はい」


 この人、何事も無かったかのようにカッコイイポーズを決めながら着席したよ。


「……どうした? 何故そこに立っている?」


「え、と、今のストレッチは――」


「ストレッチ? 何の事だ。オレはずっとここに座って君を待っていたが?」


 うわーい。この人ストレッチしてた事実そのものを抹消しようとしてる。


 なんつーごり押しだ。


「……」


 て、こんな茶番やってる場合じゃない。


 そう思って彼は早々に席に着いた。


「……クリフ・デズモンド。俺をこんな所に呼んでまで何の用だ? 後、先程の奇妙なストレッチはなんだ?」


「……君をここに呼んだのは他でもない。だが、その前にオレの正体を君に明かすとしよう」


 なんてこった。この人、ごり押しの化身だ。


 今度からこの人の事を『()()フ・()()モンド』って、呼ぼう。


「……では言おう。オレはイギリスに拠点を置く魔術組織『メルキオール』の一員でな。実は中東に君が居た頃から、君の存在を認知していた」


「!?」


 魔術組織『メルキオール』………………聞いたことがない。


 それに、彼が中東に居た時から知ってた? どういう事だ。


「……メルキオール。目的は魔術の研究、及び現代社会への貢献を目的とした基本無害な組織だ」


「社会貢献? 魔術師は、確か神秘の隠匿の為に、その魔術を一般人に見せる事はないと聞くが?」


「ま、なんだ。魔術を認知しているイギリス政府関係者と合同で秘密裏に道路の補強、金銭の円滑、家電製品、医療技術への応用など。皆が知らない所で魔術を行使し、人々は知らず知らずの内に魔術の恩恵を受けて、平和で豊かな日々を満喫()()()()()()()。そんな感じの組織だ。だから一般人にはバレていないのさ」


「……」


 あの『マジカル☆メディカル術』も、その組織内での研究成果だと言うのか?


 だとしても、名前、どうにかならなかったの?


「……と、言うのが表向きだ」


「表向き?」


「そう、裏では『魔術犯罪者』を取り締まる『魔術警察』。それがオレ達だ」


「!?」


 魔術犯罪者。それは聞いた事がある、魔術を悪用して、私利私欲の為に犯罪に手を染める者、或いはテロを起こす者の総称だ。


 言わば、魔術師のブラックリスト。


 それを取り締まる魔術師専門の警察組織。


 それが魔術組織『メルキオール』だと言うのか。



 と、ここで、彼は気付いてしまった。


 クリフ・デズモンドの正体は魔術師専門の警察組織の一員。だとしたら、彼がこの殺し合いに参加してるってことは――


「……そうか、『ファール神父』。彼が魔術犯罪者なんだな?」


「頭の回転が早くて助かる。その通りだ、だから奴にはオレの正体を知られるわけにはいかなかったのだ」


 ――オレ達の活動範囲は基本、()()()だ。自分達が知っている限りの魔術師の行動を監視し、そいつが悪事を働いたら止める。言わば抑止力だ。


 ――そして、一年前からオレ達がマークしていた魔術師の一人であるファール神父が不穏な動きを見せてな。


 ――彼は、あらゆる人脈、あらゆるルートを使って、英雄召喚に必要な触媒を世界中から大量にかき集め始めると言う謎の行為に及んだのだ。


 ――中には当然、違法なルートも存在する。


 ――ま、今となって見れば、この触媒集めは、今回の聖爵血戦の為の駒集めに過ぎなかったのだろうな。


「……その触媒集めを止めたりはしなかったのか?」


「そうだなぁ。目的も分からない以上、下手に手を出して取り逃がしてしまうと、それこそ永久にあの男を捕まえる事は困難になってしまうだろう。だから()()()()


「……」


 まぁ、こんな血生臭い大掛かりな儀式をやってる時点で、クリフのような連中に目を付けられるのは当然の事か。


「故に、本題はここからだ。ここで改めて聖爵血戦のおさらいをしよう」


「? 何故だ?」


「……まぁ聞け」


 ――聖爵血戦。13人の欲深き参加者にそれぞれ過去の英雄を与え、最後の一人になるまで殺し合う魔術儀式。


 ――この儀式の目的は、12人の血を聖なる杯『カレス』に注ぎ、それによって再現された『キリストの血』を飲み干す事によって、キリストと同じ奇跡を起こし、願いを叶えると言うもの。


「――が、間違ってる」


「間違ってる?」


「冷静に考えてみろ。キリストの血とはなんだ? 『最後の晩餐』にカレスに注がれた()()()()()の事だろ?」


「……いや、それは知ってる。でも、今回作るのはワインではなく、本物の血、正確に言うと12人の血を生け贄にして、キリスト本人の血を生み出す。そう言うものではないのか?」


「違う。キリスト本人が、カレスに注がれたワインを『自分の血』だと言い張った以上。それがどう足掻いてもキリストの血に代わり映えはない。それだけ当時のワインは血に匹敵するぐらい貴重だったんだよ」


「?」


 何が言いたいのか分からず、彼は首を傾げてしまった。


 すると、クリフは衝撃的な告白を彼にしてしまう。


 今後の聖爵血戦そのものが危ぶまれるような真実を――


「ファール神父が所持しているあのカレスが本物なら、そこに()()()()()()()()を入れるだけで『キリストの血』は完成する」


「……………………………………………………え?」


 今、なんて言った?


「そして、その完成された血を飲めば()()()()()()()()()()()()()使()()()()筈だ」


「……ま、待ってくれ、何を言っているんだ?」


 何故、そんなことが言える? いや、そもそも、それが本当だとしたら――


「俺達が戦う必要が、そもそもないじゃないか……」


「その通りだ。では、何故あの男はオレ達に殺し合いをさせる? 簡単な話さ。ファール神父が所持しているあのカレスは――」



 ――カレスではない。全くの別物だからだ。




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