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カレス~ニューヨーク聖爵血戦~  作者: 心之助
二日目「王道会談」
21/25

第4章『冷酷必中の射手』

「…………」


「…………(ちゅー)」


 ニューヨークのとあるビルの屋上。そこに二人の人物が居た。


 一人はメキシコ風の派手な格好をした陽気そうな黒人青年。


 もう一人は、防寒具のような服を着た、特に特徴がない地味な男。


 その防寒具の男が、うつ伏せの状態からニューヨークの風景を眺める中、その後ろで、黒人の青年は、仰向けになって、マッ◯のダブ○チー○バーガーのセットのジュースを飲みながら、


 ニューヨークの曇り空を眺めていた。


「…………(ちゅー)」


「…………」


「…………(もぐもぐ)」


「…………」


「…………(ポリポリ)」


「…………」


「…………(ちゅー)」


「…………来た」


「ヨッシャァ!!」


 防寒具の男の合図に跳ね起きた青年は、男の隣でうつ伏せになり、双眼鏡を取り出して遠くの景色を確認する。


「オッホォア! 昨日セントラルパークに居た『ガリガリボーイ』と『褐色ガール』じゃねぇかYO!!」


 双眼鏡の先には、二人が居る場所から3km離れた先のビルとビルの間から見える空き地に『イスカリオテのユダ』と彼がベンチに座っているのが見える。


「……どうするマスター? この距離からでも、あの二人を()()できるが?」


「ノンノン、昨日のガリガリボーイのタフネスを見て分かった。ありゃ『ゼロータイ』の兄貴でも無理無理なStubborn(頑強)さYO」


「……では、女の方を消すか?」


「うーん……お! ちょい待ち!」


 と、今度は、黒髪の女の子が現れ、巨大な黒い化け物を出して、ユダと彼に襲い掛かっている。


 そして、その化け物が、こちらからでも聞こえる程の咆哮を上げた後に、その化け物とユダが交戦し始めた。


「おーいおい! なんだあのデカブツ!? あんなのまで出てきてんのか!?」


「……僕も想定外だ。先程の咆哮もアイツの仕業だろう」


「HUHAHAHA!! あんなのゲームでしか見たことねーYO! お! 見ろよ兄貴、アイツ炎を吐いたぞ!」


「……マスター。イスカリオテのユダよりも先にあの怪物を仕止めよう。今後の脅威になりかねん」


「だな。んじゃ、兄貴頼むわ!」


「……………………………………………」


「……ヘイヘーイ。どうした?」


「……マスター。いい加減僕を『兄貴』と呼ぶのは止めろ。僕達英雄は、所詮唯の『兵器』だ。君の言う兄貴とは、相手を敬う言葉だろ? だったら――」


「……いーの。me()がそう言いたいだけなんだ。それにmeは、アンタの事、兵器としてではなく、『一人の人間』として見てんだぜ? HAHA!」


「…………必要ない」


「……くく、本当に頑固な人だな~。じゃあ、主として命令してやんよ。『ゼロータイのシモン』、あの化け物の頭を撃ち抜け!」


「……了解。マスターの命令を承認した」


 














『ギャ……ガ……!?』


 な、何が起きた? 


 遠くから小さな何かが飛んできて、それが数発。バルトロマイの頭部を寸分の狂いもなく撃ち抜いている。


「っ!! 隠れろ主! 狙撃手じゃ!!」


「!?」


 ユダの呼び掛けに応じて、彼とユダは急いでビルの影に隠れる。


 飛んで来た物。それが、バルトロマイの頭部を貫通して、地面に転がっているのを見て、彼はすぐに理解する。


 ――銃弾。


 しかも、狙撃銃(スナイパーライフル)の弾。貫通性の高い7.62x51mmNATO弾が転がっている。



 彼は、ビルの影から狙撃してきた方向を覗き、狙撃手を目視で捜索するが……


 ――居ない?


 有り得ない。狙撃銃には、遠くを見る為のスコープが装備されている筈、陽光、あるいはビルのガラスからの反射光に反射してスコープレンズが光る筈。


 それが狙撃手の探し方なのだが……見当たらない。


 いや、そもそも、狙撃銃の狙撃範囲は800mの筈、その範囲からこちらを監視できるような高台には、誰も居ない。


 ……一体、何処から狙撃を……!?


「うっ――――!?」


「主!?」


 目、目を狙撃された。ビルの壁から僅かにしか出していなかった右目を、正確に撃ち抜かれた!?


「だ、大丈夫だ……」


 不滅の呪いのお陰で右目を失うことはなかったが、暫く右目を開けることは出来ない程の衝撃。


 やはり敵だ。自分達を助けたんじゃない。これは、他の参加者からの攻撃だ。


 銃を使う英雄か? だとしても、ここまで完璧に姿を隠して狙撃できるなんて、かなりの強敵だ。


 しかも、銃声が全く聞こえない。消音器具(サプレッサー)でも付けているのか?


「バ、バルト、大丈夫?」


『……ダイ……ジョウブ……ダ……』


 あれだけ頭を撃たれたのに、まだ平気でいられるのか!?


 だが、やはりダメージはあるようだ。バルトロマイは、女の子を守るようにしながら、ダメージから回復しようと息を整えてる。


 目の前のバルトロマイも厄介だが、正体不明の狙撃手も厄介だ。


 銃でも死なない怪物と姿が見えない狙撃手。


 絶体絶命だ。ビルの影から出たら、確実に狙撃される。自分は平気でも、ユダが狙撃される危険性がある。


「……主よ。好機だ、ここは一旦引くぞ」


「ひ、引くってどうやって? ここから動いたら、ユダが……」


「このまま隠れてても、あのバルトロマイが復活して再び襲ってくるのが目に見えておる。それに、こんな狭い場所では、吾の全力は出せん。ここはなんとしても逃げるぞ!」


 逃げる。彼女らしからぬ言葉に思えたが、だがそれは、惨めで情けなく逃げるのではない。


 今回得られたこの経験、この情報を次に活かして、確実に勝利する為に逃げるんだ。


 ――だから俺は、今回の逃走を悲観したりはしないッ!!


「……ユダ。俺が盾になって君を狙撃手から守る……行くぞッ!!」


「任せたぞ!!」


 そして、彼はユダを庇いながら、急いでその場から離脱するのであった。


「あ、バルト! お兄ちゃんとお姉ちゃんが逃げちゃう……わっ!?」


『……シュジン……コノママデハ……キデンガ……アブナイ…… ワレラモ……ヒクゾ……!』


 バルトロマイは、その大きな口で女の子を優しくくわえてから、急いでその場から逃げるように立ち去るのであった。














「……ダメだったかー」


「……すまないマスター。やはり僕は人間しか殺せないようだ」


「いや、いーよ。それよりここから逃げるべ。もし近くに他の参加者が居たら超ヤベーからさ」


「……同感だ。ここは撤退するとしよう」


 黒人の青年と防寒具の男は、身を隠すように匍匐前進(ほふくぜんしん)しながら、ビルの屋上の入り口を目指していると、その屋上の入り口のドアが内側から何者かに開けられてしまった。


「ッ!?」


「おや、ここに居ましたか。我が千里眼を持ってしても捜索に手間が掛かってしまうとは、恐れ入りましたね」


 そこに現れたのは、インドの僧侶が着るような服、あちこち散らばめた派手な装飾品の褐色肌の青年であった。


「……マスター」


「OH! meも分かってる。この兄ちゃん……ヤベーーーーーー!!」


 二人は見ただけで判ってしまった。目の前のインド風の男は、自分達よりも遥かに強いと、


「えぇ、貴方のような狙撃手をこんなに早く見付けられて良かったです。貴方は大変厄介な御方とお見受けしました……お覚悟を」















「はぁ……はぁ……」


「……」


「も、もう大丈夫か?」


 彼は走った。ユダを庇いながら、出来るだけ遠くまで逃げた後に、近くの路地裏に隠れるのであった。


「はぁ……はぁ……ここまで来れば……大丈夫か?」


「……なぁ、主よ」


「え?」


「……お、降ろしてくれ、さすがの吾でも恥ずかしい……」


「あ」


 彼は逃げる事に必死になっていたせいで気付かなかったが、いつの間にかユダの胴に両腕を回して、猫のように抱き抱える形で必死に逃走していたのだ。


「ご、ごめん」


「ん、……わ、吾を抱いても、か、構わぬが……出来れば人目の付かない所で……頼む……」


 あれ? 意外な事にユダの顔が赤くなってる。


「……えい」


「ふにゃ!?」


 気になってしまったので、ユダの柔らかそうな頬に触れてみた。やはり触り心地がいいほっぺだ、


「な、なななななな……ッ!?」


 また顔が赤くなってる。


「…………………ユダって、こっちから触られるのが苦手だったりする?」


「そ、そんな事ははははは、な、ないぞよよ!!」


 ぞよよ?


「て、こんな時に何やっとるか汝はー! ……ひゃぁ!?」


 あ、今の声は可愛かったかも。


「や、やめーい! お、御主、そんなに積極的だったか!?」


「あ、ごめん。触っただけでこの反応だと、つい面白くて」


「吾は玩具ではなーい!」


 ……このほのぼのとした空気。さっきまでのピンチが嘘のようだ。


「くぅーん」


 ん?


「……………………す、すまない。君の事忘れてた」


「わふん!?」


 自分達の緊張が(ほぐ)れた頃、あのクリフの使い魔である白い犬が姿を現した。


 そう言えば、あの時、バルトロマイに襲撃された時は、何処に居たんだ?


 戦闘中は姿が見えなかったから、すっかり忘れてしまってた。


「ま、まぁでも、君も無事でよか――」


「がぶり!」


 手を噛まれてしまった。やっぱり忘れてた事を根に持ってるのか? 


「……か、帰りにジャーキー買ってあげるから」


「わんわん!」


 単純で良かった。あっさり許してくれた。


「ま、まったく、わ、吾への戯れは置いといて、昨日の()()の続きをしに行くぞ」


  ユダが鎧姿から、私服姿に戻ってから歩み始めた。


 ……またアレか。何故、自分達が夜までホテルに待機せず、態々危険を省みず外に出たのか。


 その理由は、昨日の()()をする為である。


 冷静に考えてほしい。一日で5000$を食費と服だけで無くなると思うだろうか?


 まず有り得ない。彼とユダは、富裕層のお金持ちではないので、いくらお金があっても、富裕層のような使い方は出来ないし、その思考はない。


 それだけの資金を費やしてまで、やらなければならない続きとは、なんの続きか、それは後で分かる事らしいが、ユダが言うには、()()()()()()()()()()()()だと言っているが……。


 それでも、俺から見た見解を述べると、



 ――これが何の役に立つのか全然理解できない。



 と、今の彼は思っているが、このユダの行動が後に、自分達の戦況を大いに揺るがす事となるのであった。


 それに気付いた時、彼はようやく『イスカリオテのユダ』の真名を知ることとなる。




 ――王道会談まで、


 後、七時間。

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