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カレス~ニューヨーク聖爵血戦~  作者: 心之助
一日目「群雄割拠」
12/25

第五章『勝利の導き』

「ごぉああああああああああ!!!」


 本気となったマトフェイのマタイこと『ルイ=ニコラ・ダヴー』が、猛獣のような雄叫びを上げながら、鬼のごとき形相で炎のように揺らめく巨大な闘気を発しながら真の『不敗の英雄』となった。


「やはりあの男『狂戦士』であったか! 主よ! ここが正念場だ! 気を引き締めろ!!」


「あぁ、ユダ、俺はもう君しか見えない。君が視界に映り続ける限り、決して負ける気がしない!!」


「んな!? こ、こんな時に、な、何をこっぱずかしことを……ゴニョゴニョ」


「?」


 『地ではなく吾だけを見よ! 吾こそが汝の勝利の輝きぞ!』て、言ってたからその通りの返答をした筈なのに、なんでユダは顔を赤くしているのか、


 彼は理解出来なかった。


 だが、今理解出来ることは、この戦い、負ける気がしない事であった!


「がぁおおおおおおおおお!!」


 猛将ダヴーが理性を捨てて本気でユダに斬りかかる。


 それは正に『一国の軍隊』に匹敵する程の圧力。 山のように巨大な圧力がこちらに向かってくる。


 正直怖い。これがライプツィヒの戦いを一年以上戦って生き延びた猛将の圧力。


 今なら納得できる。個人とはとても思えない巨人のような威圧感を持った将軍が、生涯無敗という華々しい戦歴を飾れたことを、


「来たれ、我が相棒! 『早伝たる名馬(ポロ・バリード)』ッッ!!」


 ユダが何かの名を叫ぶと、突拍子もなく、彼の背後から、草原のように毛並みが美しい一頭の馬が現れた。


「これは……うわっ!?」


「乗れ! 主よ!」


 彼はユダに抱き抱えられる形で、そのまま現れた馬に股がり、ユダは彼を後ろに乗せ、その速足でダヴーの狂刃から逃れる。


「ぐるぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 馬に乗った彼とユダは、そのまま一度ダヴーから間合いを取ろうとするが、ダヴーの足も信じがたい程に早く、あっと言う間にユダの馬を追い越そうとしていた。


「ユダ! このままじゃ……」


「案ずるな! 我がマムルークが誇る最高の伝達馬はこの程度ではない! まだまだ速くなれるわッッ!!」


 ユダが馬に鞭を振るうと、その痛みで馬の速度が更に増し、ダヴーとの距離を引き離していく。


「す、すごい、けどユダ。この後どうする気だ?」


「どうするのは汝の方であろう! 気付いたのだろう? マタイの主の居場所が!」


「!」


 どうやら、ユダには見抜かれていたようだ。ダヴーの主の居場所に気付いたことを、


「ああ、実はダヴーはさっきから『背後の湖』を気にしてるように見えるんだ。普通なら考えにくいが、もし相手が魔術師ならあり得る」


「湖? なるほどな。こんな開けた場所で姿を隠せるとしたら、最早あそこしか思い浮かばぬか!」


 そう、最初に現れた時も、ユダと交戦している時も、ダヴーはずっと湖の方を気に掛けているように見えた。


 現にさっきまで、こちらを追いかけていたダヴーが追跡を止めて、湖の方に戻ってこちらを睨み付けている。


「確定だな。しかしどうする? あの猛将が護りに徹したら、奴の主君の首を取ることは吾でも難しくなるぞ?」


「言っただろ? 大将首は俺が取ると、ユダ、君の武器は弓だと言ったな?」


「うむ、言った。我が馬と弓が揃った時、吾は味方に勝利への道を築くことができる」


「なら頼む! 君の馬と弓で、俺を奴の所まで導いてくれ!」


「……」


 ユダは黙った。少し複雑に思っていたのだ。まだこちらの弓を見せていない。それどころか、先程のダヴーとの一合目で左肩を負傷したと言うのに、


 主を不安にさせるような醜態を曝したと言うのに、


 その上、敵の正体が判った途端に、一度心を曇らせた主が、


 まだ見たこともない自分の弓を、力を、心の底から信じている。


 一瞬滑稽に思えた。だが、彼女は生前、そんな『勇者』達と共に、砂塵舞う大地を駆け巡った懐かしき日々を思い浮かべていたのであった。


「く、くくく、ハーハッハッハッハ!! まさか、かつての仲間と汝を重ねてしまうとは、吾もつくづく変わり者よな!」


「ユダ?」


 ユダの心境を察する事が出来ない彼。


 それでもお構い無しに、ユダは手綱を引いて、馬の足を止めてから反転させ、


 ちょうど500m程離れた場所に居るダヴーと対峙する。


「遠くから見ても、なんという巨大さよ。奴の気は、下手したら36万の軍勢に留まらず、単騎で敵国すらも呑み込みかねない程の大きさよ!」


 確かに凄い、こんなに離れているのに、なんて圧力、どこまで逃げようと、どれだけ離れようと、気迫だけで遠距離から押し潰されてしまいそうなものだ。


「くははは! あれほどの獲物を狩るのは久々よ! さて、今から虎退治と行こうかのぉ!」


 そして、ついにユダが弓を出した。それは『複合弓』であった。


 複合弓ふくごうきゅうとは複数の材料を張り合わせる事で射程と破壊力を向上させた弓のことである。特に木製、竹製の弓にそれ以外の材料、動物の骨や腱、角、鉄や銅の金属板を張り合わせた弓のことを合成弓コンポジット・ボウとも言う。

 

 ユダが持つ複合弓は、木製の材料を基盤にして、複数の動物の骨と角、鉄の金属板を張り合わせたもので、馬上でも扱いやすくするために、通常よりもサイズが小さく設計されている。


 現代においても複合弓の製法は謎に包まれているが、それでも分かる。この弓の威力は、通常よりも遥かに高い、数十倍のもの。


 複合弓の製法が未だに謎なのは、当時の弓職人達が、あまりにも強力すぎるこの弓の製法が外部に漏れることに対し危機感を覚えた為、自分達の間だけの秘密にしたそうだ。


 かの東ローマ帝国ですら、この弓を大量輸入し、軍事利用した程の代物。



 馬上からこの最強の弓で矢を射れば、確実にダヴーの鋼鉄の腹筋をも貫き、貫通するであろう。

 


「かか! では行くぞ主よ! しかと見届けよ! この勝利王の勇姿をッッ!!」


 ユダが鞭を振るって馬を走らせる。速い、さっきよりも更に速い、まるで新幹線、いや、それよりも速い! この速さだと、わずか一秒でダヴーと衝突する!


「ごああああああああ■■■■■■■■■■■ッッ!!!!!!」


「『この矢は我等マムルーク(軍人奴隷)の栄光の輝き、あらゆる敗北を退ける星の導き――』」 


 後、0.5秒。ユダは左で弓を構え、右手で矢を構え、細く強靭な弦は耳の後ろまで引かれる。


 それに呼応して、ダヴーは必殺の構えをとって待ち構える。射程距離に入ったら、馬ごと自分達を両断するつもりだ!


「我等に勝利の道を指し示せ! 『刺し示す勝利王の輝き(マリク・アッザーヒル)』ッッ!!」


 放たれた。ほぼ間合いがない状態から、ミサイルのような速さで突撃する馬上から放たれた一矢の輝き。


 その輝きはダヴーのハルバードの長柄の中間に直撃。そして、ハルバードが中間で折れ、その輝きは不敗の英雄の腹部へと吸い込まれ、その威力は衰えることを知らず、不敗の英雄の中を突き進んだ後に、


 ダヴーの背中から飛び出し、そのまま一直線に湖の中に吸い込まれ、湖の半分が蒸発してしまった。


 なんて威力だ。人体を貫通しても、まだ威力と速度が落ちないなんて、


「■■■■■■■■■■■■ッ!!」


 それでもダヴーは諦めない、破損した武器を捨てて、素手で突撃する馬を受け止めたのだ。


「っ!? ヒヒィィィィィン!!?」


「■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!」


 ミサイルのように突撃する馬の胸部の高さでダヴーは両手を前に突き出し、ユダの馬がその腕に直撃すると、胸部が歪な形へと変形したのだ。


 まさに鉄骨、槍のように突き出た鉄骨の如き腕にユダの馬は自ら直撃し、胸部が歪に凹んでしまうのであった。


 しかも、馬を正面から止めたのに、この不敗の英雄は一歩も下がらなかった。普通なら受けた衝撃を逃がす為に体が自然と後退するか、その衝撃に負けて吹き飛ばされる筈だが、まったく微動だにしない。


 なんて怪物だ。人体を貫かれているのに、それでも落ちることのない怪力。これが不敗の英雄。マトモに戦えばどんな英雄でも勝てる見込みは薄いかもしれない。


「ぐわぁ!?」


 急激に止められた衝撃で、彼の体は馬上から前方へと射出され、空中へと放り投げられてしまった。


 しかし、放り投げられる彼を見守るや否や、ユダは何故か不敵な笑みをダヴーに向けてきた。


「わ、るいが、ダヴー、吾らの勝ち、ぞ!!」


「!?」


 そう、これが狙いであった。どんな手を使っても、不敗のダヴーはユダの馬を止めてしまうだろう。


 その止めた衝撃で、彼は自ら『勝利の矢』となって自らの体を馬上から射出させ、ダヴーの背後の湖に潜んでいるであろう、ダヴーの主を討つ為に、こんな危険な賭けに出たのである。


「■■■■■、ぐ、おおおおおおおお!!」


「ぬわぁ!?」


 ダヴーはユダと死亡した馬を地面に叩き付けた後に、さっき自分が手放した折れたハルバードの一部を拾って、ダヴーも彼を追う形で飛び上がる。


「ッ!? マタイ! 何やってるのよ!? 早く私を守りなさいッ!!」


 ユダの一矢で蒸発した湖の底から、一人の成人女性が見える。黒髪に眼帯をしたキツそうな顔のスーツ姿の長身の女性。


 その女性の周囲には半透明な球状のバリアのようなものが張られていた。


 それを見て彼は瞬時に理解した。あれは『魔術障壁』、魔力でもって作られた防護壁。


 魔術師なら基本的には誰でも作れるらしい防御魔術。


 それを球状に展開して、ずっと湖の底にいたのだ。


 つまり、この女は彼の予想通り『魔術師』であった。




「がぁおおおおおおおッッ!!」




「あぁあああああああッッ!!」







「おのれぇえええええッッ!!」



 彼の下には敵の参加者、上には折れて手斧サイズとなったハルバードを持った鬼将ダヴー。


 だが間に合う、ダヴーより先に相手の首を取れる!!
































 ――君には不滅の次に『これ』も与えよう。もしかしたら君の旅路において魔術師と関わる事があるかもしれない。何、これは餞別だよ。君の旅と願いに祝福あれ。



































「あああああああああッッ!!」


 彼の伸ばした指が敵の魔術障壁に当たる。


「無駄だ! 魔術師でもない貴様が、これを破れるはず――!?」


 破った。彼はあっさり破った。魔術で出来た防御壁を、触れただけで、


「そ、んな……がふっ!?」


「ごぉああああああああああ■■■■■■■■■■ッッ!!」


 ダヴーの刃が彼の首筋に直撃すると、その衝撃でセントラルパークの湖が完全に蒸発するのであった。


「主? おい主よ! 無事か!? 返事ぐらいせぬかぁ!!」


 馬の下敷きになっていたユダは急いで起き上がり周囲を確認するが、蒸発した水で視界が遮られてしまい、ユダは事の決着がどうなったのか判断できなかった。


 急いで湖の底を覗き込むと――。

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