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カレス~ニューヨーク聖爵血戦~  作者: 心之助
一日目「群雄割拠」
10/25

第四章『聖戦』


「行くぞ『イスカリオテのユダ』!」


「来い! 『マトフェイのマタイ』!」


 ついに始まった。13人が殺し合って、最後の一人になるまで戦う儀式『聖爵血戦』。


 場所はニューヨーク・セントラルパークの湖がある芝生エリア。


 そこでキリストの弟子の役を与えられた二騎の英雄が、現代に蘇って闘おうとしていた。


 白銀のドレスに甲冑に赤いマント、金髪と赤毛の頭髪に碧眼、褐色肌の少女『イスカリオテのユダ』。


 対するは、1700年代のフランス軍人が着ていたような軍服、左胸に大量の勲章、その手には槍斧『ハルバード』を握る中年男性『マトフェイのマタイ』。


 彼は目にする。現代人のそれとは違う、歴戦の英雄が戦う場面を、


「……」


「……」


 両者、睨み合って微動だにしない、かなり緊縛している。昔見たサムライ映画のワンシーンのようだ。


 本当に動かない。恐らく、どちらかが先に動くか探っているのだろう。


 先手を取るため、場の流れを確保するために、


「……」


「……おい」


「む?」


 両雄が対峙する中、マタイがユダに呼び掛ける。


「何故『武器』を持たぬ? まさか、素手でこの私に勝てるとでも?」


「いいや、汝はかなりの名だたる鬼将。そんな相手に素手で挑む程、吾は愚かではない」


「ではどうしたと?」


「なに、吾の武具が『弓矢』なものでな、接近戦は不得手なのじゃ」


 ユダの武器は弓矢なのか。つまり弓兵、だとしたら接近戦に持ち込まれると返って危険であろう。


「……そうであったか。だとしても、何故弓を出さない?」


「出す暇がないからじゃ」


 暇がない。つまり、弓を出して構えてる間にマタイに間合いを詰められて首を跳ねられると、ユダは判断したのだろう。


「……く、そうかそうか。貴様の性格は愚者ではあるが、武人としては優れているようだ。腐っても英雄ということか」


「お褒めに預かり光栄……にも思うとらぬが、これでは何も始まらぬ。故に、しばしこれで許されよ」


 ユダが取り出した武器は、一本の『長剣』であった。マタイもそうだが、二人とも何処から武器を出してるんだ?


「弓兵だからと言って接近戦が出来ないわけではない。弓を出せるタイミングが訪れるまで、これで相手をしよう。なに、汝より剣の腕は劣るが、大目に見よ!」


 無理だ。彼はユダよりも先にマタイの正体に気付いている。と言っても確固たる確証が未だにない為、まだ予想の範囲ではあるが、だからこそ言える。


 ユダは自分の事をリアルチートと言ったが、マタイもかなりのリアルチート。そもそも、あれに勝てる軍隊が、国が、いや、人類がいるのかすら怪しい程の怪物。


 

 ……だが、そこで彼は変に考える事は止めた。予想の段階で相手の実力を計ってはいけない。



 まずは様子見だ。あれが彼の予想通りの英雄でないことを願いながら。


「……赦す。その愚行を赦す。ただし小娘、自慢の弓が出せる好機は永遠に訪れぬッッ!!」


「ぬんッッ!!」


 始まった。最初の一合目が。仕掛けたのはマタイが先であった。それに遅れてユダが出る。


 マタイの斬撃をユダは長剣で受け━━━━


「っ!?」


 折れた、そんな、いきなり武器が壊れた!?


 愚直な長剣ではあったが、だがそれなりに実戦用に作り込まれた一振りであった。にも関わらず一撃で折れた。なんて膂力なんだ!


「せぁ!!」


 が、ユダは止まらない。折れた剣を捨てて更に深く飛び込んで斬撃を免れるが、ハルバードの長柄の部分がユダの左肩に直撃してしまう。


「ぎっ」


 ユダがよろける。刃の部分ではないにしろ、剣を一撃で破壊する程の怪力だ。そんなもので振り回された棒が肩に当たったのだ。下手したら脱臼してしまったのでは、


「がぁ!!」


 それでも、よろめきながらユダはマタイの喉に短剣を投げた。


 なんて根性だ。肩が外れたかもしれないのに、


「ぬん!」


「なっ!?」


 ユダが投げた短剣をマタイは歯で挟んで止めた!?


「まだじゃっ!!」


 そのまま追撃として二本目の短剣を出して懐に突っ込むが、


「っ!?」


「……まさか、そんな短剣で我が鋼鉄の腹筋を貫けるとでも?」


 ユダの短剣は確実にマタイの腹部に刺さった。しかし、貫けていない!? あれは彼と同じ不滅の呪いではない、明らかに唯の鍛え抜かれた腹筋だけで止めたのだ。

 

 しかも、口に加えていた短剣をユダの左肩に向け投げた。それがユダの肩に命中し、深々と根本まで突き刺さる。


「ぐぁ!?」


 明らかに先程負傷した部分を攻めている。


「我が『鋼鉄の元帥』の名は伊達ではないわッ!」


 そのままマタイはユダを蹴り飛ばし、それで距離が開いた所で再び重たい斬撃をユダに目掛けて振り下ろした。


 ユダは鎧を着込んでいるが、それでもあの斬撃を受けたら鎧ごと体を両断されてしまう。


「ぜぁ!!」


 それでも、ユダは右手を地面に付け、空中で体を捻って、逆立ちの状態でその斬撃を間一髪で避けた。


 マタイの強さだけでなく、ユダの身体能力も並外れている。


「ごぉ!?」


 が、かわした筈なのに、マタイは体を反転させて、ハルバードの刃とは反対のバット(石突)の部分を横薙ぎに、逆立ち状態のユダの腹部に叩き付け、ユダを彼が居る場所まで吹き飛ばしてしまった。


「ユダッ! うっ!?」


 そして、吹き飛んで来たユダを受け止める形で彼はユダと共に数メートルも吹き飛ばされてしまった。


「す、すまぬ主よ」


「いや、俺は大丈夫だが、君が……」


「なぁに、左肩が負傷しただけ……うっ! ごほ、がは!?」


 吐血、ユダが吐血した。やはりあの腹部への一撃が重すぎたようだ。


「ぬぅぅぅぅん! どうしたのだイスカリオテのユダ! 貴様の力はその程度かッ!!」


 強い、やはりあのマタイ。強すぎる……ん?


「……ユダ、その手に持ってる物はなんだ?」


 ユダの左手には、何やら黒い毛の塊のような物が握られていた。


「……く、くくく、カーハッハッハッハ!!」


「ぬ?」


 突如高笑いを上げるユダ。今明らかに劣勢のはずなのに、


 それが理解できず、首を傾げるマタイ。


「マトフェイのマタイ! これで貴様の正体見破ったりー!!」


 ユダは立ち上がると、左手に持っている黒い物体を高々と上げた。左肩に短剣が刺さったままで負傷してるのに、よく腕を上げれるものだ。


「……ハッ!? そ、それは!?」


 マタイがそれを見るや否や、直ぐ様自身の頭を撫で回し始めて、何かを確認している。


 ……無い。え? マタイの髪がない!?


「まさか……『ヅラ』?」


「ハーハッハッハッハ!!」


 まさか、今の攻防でマタイの頭上にあるヅラを取ったのか!?


 肩を負傷していながら相手のヅラを奪うなんて、なんて精神力だ。


「あーあ、これでアナタの真名丸バレじゃないのよー。国は護れても自分の頭は護れなかったようねー」


「ぐ、ぬぬぬ、きぇぇぇぇぇぇ!!」


  また姿が見えないマタイの主の声が聞こえ、それを聞いたマタイが怒りの余り奇声を発する。


 ハゲ頭にあの強烈な強さに『鋼鉄の元帥』。もうここまで来るとマタイの真名は判明したも同然だ。









 ――ルイ=ニコラ・ダヴー。


 一呼んで『不敗のダヴー』。その名が示す通り、彼の生涯において一度の敗北がないフランス軍最強の鬼将にして、かの皇帝『ナポレオン・ボナパルド』の側近の一人。


 とても有名なのはナポレオン率いるフランス軍19万と、プロイセン・ロシア帝国・オーストリア帝国・スウェーデンの連合軍36万の間で戦いが行われた『ライプツィヒの戦い』である。


 この戦いでフランス軍の主力が敗北し、撤退する中、ダヴー率いる軍団が敵地の真ん中で孤立してしまうが、


 なんと彼は頑強にも、連合軍36万の敵地で、残った数少ない軍団を駆使して 徹底抗戦を一年以上続けた程の粘り強さと統率力を発揮し、無事に国に帰還した猛将。


 それ以外の戦でも彼が敗北した戦歴は一度もなく、ナポレオンですら、その実力に嫉妬する程で、その最後は肺結核だったそうだ。


 まさに生涯不敗の英雄。本物の無敵の英雄『不敗のダヴー』。


 それが『マトフェイのマタイ』の真名。


 彼の予想通りだ。だからこそ言える「あれには絶対に勝てない」。まだユダが何の英雄か分からないが、それでもダヴー相手には勝てる気がしない。


 あんなの初戦の相手じゃない。こんな英雄が後11騎も居るのか?


 彼は後悔し始めていた。甘く見すぎていたのではなかろうか?


 『たかが12人殺せればいい』。とは言ったが、肝心のダヴーの主の姿が見えない。


 探しに行きたくても、あの猛将の目を掻い潜って捜索できる気がしない。


 彼は、再び昨日までの暗い、闇の底に心を落とそうとしていた。


 


















「何を諦めておるか愚か者ッ!!」


「ッ!?」


 諦めかけていた彼を叱責するが如く、ユダの力強い声が聞こえる。


「言ったであろう! 地ではなく吾を見よと! どんな絶望の淵に立とうと吾だけを見ろ! 吾こそが汝の勝利の輝きぞッ!!」


 なんて、なんて力強い声なんだ。相手がいかな強敵だろうと、一切背を向けず対峙しているユダの背中が、あんなに華奢で小さかった筈のユダの背中が、


 デカイ、目の前に居るのは小さな女の子ではない。本物の英雄が持つ巨大な背中だ。


「相手がいかな猛将だろうが、いかな無敵の英雄だろうが気にも止めるな! 言ったであろう、吾こそは『勝利王』! 吾は背中を預けた仲間に、友に、必ずや勝利を約束し、それを実現して来たスルターン(国王)である!!」


 何故、この英雄は、何故諦めない? ダヴーは強敵だ。その上、ダヴーに匹敵するか、それ以上かもしれない怪物が後11体も待ち受けていると言うのに、


「主よ、頼む! 吾に背中を預けてくれ! 吾を信じてくれ!!」


「口上は聞き飽きたわ!! 偽りの王よ!!」


「ユダッ!!?」


 ダヴーが再び間合いを詰めて斬り掛かってくる。


 ダメだ。間に合わ――――――


「!?」


 


 信じられない、ダヴーの一撃を、剣をへし折ったあの一撃を、素手で、しかも片手で止めた!? 更には負傷してる左手でダヴーのハルバードの刃の根元部分を掴んで止めたのだ。


「すまない。さっきは情けない姿を見せたな主よ」


「き、貴様はいったい――――!!」


 素手で、今度は素手でダヴーの顔面を殴った。左手で、


「ぬぐぉ!?」


 しかも、あのダヴーを殴り飛ばした!?


 ばかな、どこにそんな力が……しかも、どうして負傷している腕ばかり使っているんだ?


「そ、その拳!? 弓兵にあるまじきこの威力はっ!?」


 ユダの一撃に驚きを隠せないダヴーを前にしても、臆することなくユダは前へと出た。


「吾は屈せぬ! この背中に仲間と我が主の命運が懸かってる限り! 吾は敗北せん! そこに関しては祖国を生涯護り抜いた貴様と同じだマタイ!!」


「……く、ははは、ハハハハハハハハハ!!」


 殴り飛ばされて尚、体勢を崩さないダヴーは感極まったかのような笑い声を上げた。


「く、ははは、先程の非礼を詫びよう勝利の王よ。貴女は偉大なる英雄のようだ………故に、故に敬意を評して、全力で貴様を叩き潰す!!」


 ダヴーが、不敗のダヴーが本気になった。


 ユダの声はいつだって力をくれる。そうだ、相手があの不敗の英雄でも、負けてられない!

 

 こんな小さな英雄が戦ってるのに、主の俺が諦めてるどうする!


「……こっちこそすまないユダ。情けない姿を見せた……命令だ、『マトフェイのマタイ』、ルイ=ニコラ・ダヴーを倒して俺に勝利をッ!!」


「……かか、嬉しいぞ主よ! 吾は、吾の背中を信じてくれる者が多ければ多いほど強くなれるのだ!」


 彼女が戦うなら、自分も戦う、ダヴーの主の居場所は分からない。ルール上、ダヴーから半径500mの範囲内に居ることは分かっている。


 だが声はすれど、姿が見えない、それでも彼は気付いた。


 ダヴーがさっきから『あるもの』を護っているように戦っていることを、


 それが本当に彼の予想通りだとしたら、そこにこの不滅の肉体を使って、ダヴーの主を引きずり出す!!


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