序章 薄い人生(2)
憂鬱な気分を抱きながらも車を走らせ、謝罪先の会社前にあるコインパーキングへ到着。
「さて、鬼が出るか、蛇が出るか…。」
そう、最後の悪態を車内で済ませて、足早に目的のビルへと歩き出し、
ガラスウィンドウを通りすぎる。
何度も繰り返し行ってきただろう業務的な挨拶を受付嬢がしてくる。
「いらっしゃいませ。本日はどう言ったご用件でしょうか??」
実に非の打ち所を感じさせない笑顔と言葉、歴戦の戦士のようだ。
勿論、こちらも直帰が懸かっているので同じく業務的に返す。
「おはようございます。本日は経理部の野間瀬様に先日の契約に関しましてお伺いさせて頂きました。」
と、こちらもまた笑顔を沿えて伝えた。
「左様でごいますか、失礼ですがアポイントは??」
これはまた、業務的な返しだが、生憎約束ちゃんと取り付けているので臆せず答える。
「はい、本日10時にご約束させて頂いています。」
失礼しました。と一言入れて奥のエレベーターホールを指されお辞儀される。
こちらも、失礼します。とお辞儀を返し奥へ進みエレベーターのボタンを軽く押す。
さて、エレベーターが下りてくる前に軽く今回の事案と接待内容を反復する。
うちの会社は車の保険会社、相手は古くからうちを契約してくれている古株。
更新年の保険内容に関してのプランニングは全てこっちに丸投げにも関わらず、
新人が粗相を犯したのは誰もが驚いた。
しかし、事は非常に単純な話だ。
この毎度の更新時に野間瀬に接待をして、書類に判子をもらうだけ簡単な仕事をミスったのは、
新人の正義感からくるであろう接待無しでの更新対応だ。
そりゃ、誰でも怒るわ。
毎月20万の給料が振り込まれていたのに、翌月から突然辞令もなしに給料が10万しか入ってなかったら俺でも怒る。
ただ、新人の言わんとしている事も判る。
野間瀬の接待は正義感や会社に遣り甲斐を持っている新人からすれば耐え難いだろう。
女癖がかなり悪く、非常にが、何の相談も報告もなしに勝手にされてしまっては洒落にならない。
会社は、個人で出来ちゃいない。