序章 薄い人生
清々しい朝、なんと言うものここ近年では感じた事なんてない。
耳障りな典型的なアラームを止めるために、枕元のiPhoneへと左手で探す。
なかなかお目当てのものが感触で見つからず、少しづつ苛立ちが増す。
「…ぁああ、もうめんどくせぇ!!」
感情に任せ勢い良く起き上がり、目当てのiPhoneを素早く掴みスヌーズの表記をタップして枕へ放り投げる。
「…疲れた。」
毎朝の日常、通過儀礼そんな憂鬱な始まりの鐘。
高校を卒業後、進学を選択せず就職。
18から勤め、今年で25。
丸7年を同じ会社、同じ部署で勤め今じゃ中間管理職。
新卒も顎で使う部長様、人聞きや外野から見ればそうだろう。
俺もそう思えたなら幸せだろう。
現実はそんな生易しいものじゃない。
部下の失敗は、上司の責任。
ただ、仕事が出来ないだけなら良いが故意に失敗された日には目も当てられない。
その失敗の尻拭いは、当然俺がする訳で。
そして今日はその失敗を謝罪しに行く訳で。
「はぁ…。」
この会社に就職してから何度目になるか判らない溜息を吐きながら、
手早くスーツに着換え身支度を済ませ菓子折り手に玄関を出る。
「…はぁ、行きますか。」
後ろ向きな気持ちを隠しもせず嫌々車に乗り込む。
唯一の救いは謝罪と接待、再契約が出来れば直帰していいと言う事。
言い換えれば、再契約が出来なかった場合、契約できるまで帰るなって事。
何でこの会社に入ったのかなんて事は、もう思い出せそうにもない。
やる気も遣り甲斐も見失ったまま目的地まで車を走らせた。