アリの私とキリギリスな彼
ちょっと適当かもしれない。
アリとキリギリスという童話はみんな知っているだろう。
後先考えない刹那的に生きるキリギリスは酷い目に遭い、計画性を持ち真っ当に生きるアリは平穏に過ごすという話しで、目先のことに囚われずに日頃から備えて努力すべしって教訓の篭った童話である。
そして現在、だらけ過ぎてトコロテンのようになっている目の前の男はまさにキリギリスである。
「桐谷先輩、レポート教授に催促されているんじゃなかったですか?」
「まだ3日あるよ」
「3日、しか、ないん、です、よ!!」
「毎日毎日だらけてばかりで、ほんと何してんですか?」
この男は大学先輩で同じサークルに所属している。見た目は物凄く真面目そうで、最初に出会った時は素敵な先輩だなぁって惹かれたものだが、しばらく接するうちに幻滅することになった。それで冷静になって振り返れば、サークルに入った動機が彼なのは軽い黒歴であった。実に私らしくない短慮だったと思う。
「先輩、時は金なりって言葉知ってますか?」
「さすがに馬鹿にし過ぎだよ。酷いなぁ」
「その割りには先輩、大学にいる間のほとんどはだらけるか、くだらないことをして無駄に過ごしていると思うんですが」
「はぁ……。有村ちゃんは分かってないなぁ。僕はお金以上に価値のある時間をボーっと無為に過ごしたり、アホなことに使うというこの上ない贅沢をしているんだよ」
こんな人なのである。
何故自分はいつもこんな人の為に時間を使っているのだろうかと不思議になる。
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桐谷先輩はいつも笑っている。馬鹿なことしたり、ボーっとしている時間は幸せそうだ。
だけどそんなの馬鹿のすることだ。
目先の欲に囚われて無為に過ごせば、後で辛い目に遭うのだ。
そんな生き方は賢くない。
私のように、先のことを見据えて頑張ることこそ正しいのだ。
「あの子っていつもいつも勉強しているよね〜」
私はオシャレだの男だのとキャッキャウフフしている馬鹿女とは違うのだ。
「有村さんでしょ。将来見据えて頑張っているんだってさ。偉いよねぇ〜」
全然眩しくなんてない。だって私の未来の方がずっと眩しいのだから。
頑張ってさえいれば未来は約束される。
今は辛くても、いつかは、いつかはきっと……
「でもさ、つまらなくない?だって今楽しまなきゃいつ楽しむのって感じじゃん」
いつかっていつだろう?
私はいつまで頑張ればいいんだろう。
私は逆に時間を馬鹿みたいに無駄にしているの?
私は、私は………
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「先輩……将来の為に楽しいこと我慢してずっとずっと頑張っているのは馬鹿なんでしょうか?」
私、何で先輩にこんなこと聞いているんだろう。
「ん……?馬鹿じゃないだろ」
「じゃあ、後先考えず目先のことだけに釣られて過ごす方が馬鹿ですよね!」
私、何馬鹿みたいなこと言ってんだろう。
「いや、別に馬鹿じゃないだろ」
「じゃあ結局、馬鹿みたいに頑張っている方が馬鹿じゃないですか!!!」
私、何を怒っているんだろう。
「……何でそうなるんだ」
「だって、だってそんなの決まっているじゃないですか!!頑張ってない方が頑張っている方よりも馬鹿じゃなかったら、不公平じゃないですか!!」
「馬鹿みたいな理由だな」
「どうせ、私は馬鹿ですよ」
「有村ちゃんはアリとキリギリスって知っているか?」
「馬鹿にしているんですか!?目先に釣られて後悔した馬鹿と、頑張り続けて勝ち組になった賢いやつのお話ですよね」
「有村は馬鹿だなぁ」
「なっ!!」
「キリギリスは後悔したなんて言ってないだろう」
「キリギリスは餓死するか改心しちゃってるじゃないですか」
「反省はしているかもしれないがやったことは後悔していないかもしれないじゃないか」
「詭弁ですね」
「詭弁だよ。でもさ、刹那的に生きようが、計画的に生きようがその人が自分で選んだことだしその人の人生なんだよ?馬鹿かどうかなんて外野が決めることじゃないさ。
有村は自分のしてきたことを馬鹿だと思うのか?」
「馬鹿だとは………思い、ません」
「そういうこった。僕もこれまでしてきたことはアホだったけど馬鹿だとは思ってない」
「そうですか………」
あーもうっ、先輩と話していると自分が馬鹿みたいだ。くだらないことで揺らいじゃってさ。
「何言われたのか知らないけど、僕は馬鹿みたいに頑張っている有村が好きだよ」
「いきなり何言ってんですか!?先輩っ!!」
私はいつも自由で、揺らがない、アホな、そんな桐谷先輩が大好きです。
元は高校生で受験勉強がぁ〜って男の友情ものの話しだったのを、大学生で男女に改変しました。




