お悩み
ああ、これはきっと、小さいころ美羽が話していた恋というやつなのかもしれない。
なんとなく、親友との思い出を思い出していた。
「で、どうなの?」
「はっ!…え?」
いきなりの事にすぐに対応できず、慌ててしまった。…そうだった。さっき、小1のころ仲良し(だと思っている)だった悠磨に私、如月奈津は告られたんだった。でもここは木葉中学校。何故ここに?…何故急に?小1の頃、そんな感じなんて全く見せなかったくせに。
「え、と。あの…」
俯いていた私の上からため息が聞こえた。
「いいよ、べつに。急に来て驚いただろうし…」
「え?」
顔をあげて悠磨を見れば、少し上向いた感じになり、小1の頃とは立ち位置が逆になっていることに気付く。そしてその時、話をしているのが男子なのだという事にも気付く。
少し上向いた私の顎に手がかかった。それが悠磨の手だとわかって、少し顔が赤くなった気がする。
「そのかわり…奈津がその気になるか、俺がファーストキス奪えたら付き合って」
つ、と唇を親指で撫でられる。
「は!?」
そんなの、いますぐできちゃうじゃん!
…!なんだか、頭が熱くなりすぎて目が回ってきた…。悠磨は「くすっ」と笑って手を放した。
「大丈夫。今はしない」
何が大丈夫!?私にとっては何も大丈夫じゃない。
悠磨は私から離れた。
「1日、待つよ。それからあとは…」
悠磨は、むこうに行きかけて振り返った。
「奪いに行くから☆」
悠磨は、悪戯っ子の笑みを残してどこかへ行った。
私はいきなり始まって、いきなり終わった出来事についていけず、その場に座り込んだ。
「…なんだったの?」
私は、悠磨がいなくなった方を見てただ一言、つぶやいた。
結局、先生は保健室に来なくて、私は戸締りをして教室へ戻った。ただひとつ、ただひとつだけ聞きたいことは、悠磨は他の中学のはずで何故ここに来られたのか?今日このために学校休んだとか、無しにしてほしいのだけど…。
次の日
昨日、待って待って待たした先生は何の反省もせずに保健室にいた。
つい忘れていたが、私は保健專(保健専門委員)だから、嫌でも先生と会うことになるのだ。
「…先生…」
私は頑張って怒りを顔に出さないようにした。まずは理由を聞いてあげねば。
「昨日、何してたんですか?」
「え?あー昨日?なっちゃん、楽しかった?」
「…は?」
何か嫌な予感がする。このアホっぽい先生にばかにされるような…。
「あれ、まだわからない?なっちゃんの事詳しそうな白石美羽ちゃん(?)に、なっちゃんの事好きって言ってる人呼んでもらったの!」
…!聞き終わった瞬間、頭の中から「ぶちっ」という音が聞こえた気がした。
「先生のばか!」
いつもと様子が違う私に、先生は手を止めた。
「そんなに私の恋バナ聞きたいの?べつに違う人でもいいじゃん。何で私なの?それに、もしかしたら美羽は悠磨の事好きなのかもしれないし…」
「え?ああ、その事。それなら大丈夫!先生確認しといたし!」
「…え?」
「何か、悠磨君(?)がなっちゃんの事好きって言ったときから好きじゃなくなったみたいよ?「好きな人いるか?って聞く女子の気持ちを全く理解していない!」とか…」
あ、そう…。先生は親指を立ててウィンクしている。…何かまとめてばかにされたような…。それはただの思い込みだけど。
「で、どうだった?」
「1日だけ時間をもらいました。それだけです」
本当は他にもあったけど、それは恥ずかしくて言いたくなかった。私は少し顔が赤くなるのを感じて、さっさと仕事を片付けた。
「じゃ、終わったから帰るね、先生」
「はいよ~、ありがとさん!」
先生はやさしく手を振った。
リュックを背負って外に出ると、校門には昨日見たばかりの人物が。
「げっ!」
悠磨だった。実はあれからいろいろ考えていて、あの事について考えていなかった。私は回れ右をして裏側の校門に向かおうとした。…が。
「…奈津!」
悠磨の声がしたかと思うと、続いて姿も見えた。しかもすぐ近く、あと数歩の距離。走ればなんとか逃げられたかもしれないが、その間、私は固まったままで動けなかった。
「な、なななな、何で…」
「え?なにが?」
私は校門を振り返った。間違いない。あそこからここまで、距離はそこそこある。それをほとんど一瞬で…。
「ああ。俺、学年でも足、トップだから」
…てことは…きっと走っても逃げられない。ああ、無駄な抵抗しなくてよかった。だが、抵抗したってその分地獄が増えるだけで、この後の地獄に比べればたいした事なかった。
「ねえ、ちゃんと返事聞きたい。ダメ?」
「う…」
そんな可愛い顔で訊かれたら、だめだなんて言えないではないか…。
「え…と」
だが、私は悠磨の事好きではないし、嘘ついて無理矢理付き合ったって自分がつらいだけだ。けど、美羽が知っている「私の事が好きな人」が悠磨しかいないとしたら、今「YES」と答えておいたほうがいいのかも知れない。
「あの、その…」
私は今、初めて知った。断るほうもつらい!悠磨は目を伏せた。
「わかった。ひとつ、訊かせて。俺の事は、好き?」
「き、嫌いじゃないけど…」
「…そ。嫌いならあきらめるつもりだったけど、そうじゃないなら…」
悠磨はにっと笑った。
「せめるよ?」
「え…」
あれ、本気だったの?アニメにでてくるようなセリフだったから、冗談かと思った。
「あは…は、は…」
悠磨はニコニコ笑っていたけど、私にはそれが悪魔の微笑みかと思えるほどきっと私は頭がぐちゃぐちゃになっていた。
「へぇ、面白そうじゃん」
「!?」
こんな恥ずかしい場面を見ていた人がいるなんて!と思い、振り返ると…。
「誰?」
「あ、先輩!こんにちは」
そこに立っていたのは部活の先輩だった。先輩はにっこり笑って私に返事を返してくれた。
「それで、先輩はどうしたんですか?」
「ああ、たまたまそこにいる彼の話を聞いてしまってね。面白そうだから、俺もまぜてくれる?」
気のせいか、悠磨に少し黒い視線をなげている気がする…。
「あ、どうぞどうぞ」
…て、あれ?悠磨も「え?」という顔をしている。
「あの…先輩。いったい何を…」
わかっていて、訊いてしまった。
「ん?もちろん、せ・め♪ていうか、本当にいいの。俺もまぜてもらっていいの?」
「…」
どうしよう。先輩、眼がすごくキラキラしてるよ。今更断るのは…。
「は?御断りだね。あんたにはかんけ―ねーだろ?」
「!?ちょっ、悠磨。先輩だよ?」
「いや、俺んとこの先輩じゃないから」
あんたのとこじゃないのは当たり前でしょ?私のよ、私の!あんたのせいで先輩との関係おかしくなったらどうしてくれるのよ!
先輩の表情をうかがうが、先輩はニコニコしていた。
「ねえ、そこの君。あっちでちょっといいかな?」
「え、よくな…」
悠磨は無理矢理つれていかれた。
「や、やばいよ悠磨ぁ」
私は涙目になりながらここに残った。
しばらくして、悠磨は微妙な顔して先輩と戻って来た。
「で、どうかな?」
「べつに…」
悠磨がOKした!それが意外だった。さっきの感じだと、先輩に何か言われたのはわかっていて…。…て、それじゃあ私が困るじゃん。お悩み倍増よ!
「て事でよろしくね?奈津さん」
マジで!?
どうも、桜騎です!今回3話め、終わりました。私これ書いてて思ったんですけど、それが、奈津のため息やお悩みから始まってるなと…。やっぱ美樹先生とか、大変なんでしょうね。私は結構楽しそうだと思ったりしてるんですけど。
今回奈津は先生のおかげで大変な事になりました。私は今、この後奈津はどうするのかなと考え続けています。お出かけの時も考えています。そういえば恋って、相手の事を考えっぱなしになった時からそうですよね?私のこれは恋というものなのでしょうか(ガールズラブ!?)。てことで保健專!は次もあります。よろしくお願いします!