書いたもの詰め合わせ
一応死んだりみたいな表現がありますので苦手な方はご注意ください。あれこれそういう注意的なものはいるんですかね?初めてなので御容赦下さい。
「つまりこれは恋でして」
どうしようどうしようどうしようどうしよう!やってしまった!やってしまった!人を!轢いてしまった!
その日はいつもどおり母にたたき起こされ眠いながらも食パンを食べてぎりぎりの時間で家を出た。自転車で通わなければならないのも少し辛いな、と思いながらペダルを漕ぐ。もう少しで学校だ、というところで学校手前の坂道と踏切の手前まで行くとカンカン、という踏切の締まる音がした。まだ間に合う!坂を猛スピードで下れば、踏切が締まる前に渡れる!そう思って下り坂をブレーキをかけずにいった。でも、踏切の前にはあいつがいて、おれは、あいつを、自転車で
轢いた。
自転車に轢かれた衝撃で踏切の中へと飛んでいくあいつの顔は、少し驚いたような、よくよく見なければ無表情とも言えるような顔をしていた。
スローモーションのように放映され、融解していく。
思ったより時間は一定じゃない事を知ったその瞬間、あいつはーーー。
あいつは、同じクラスだった。二三回しか話したことはなかったが、意外と面白いやつだった。前々から気になってはいた。背が高く、大人しそうな顔立ち、けれど友人の前ではいたずらっ子のように嫌味を言って笑っているのを見たとき、ああ、俺もこいつと話してみたい、こいつとふざけあってみたい、だなんて思っていたのだ。それからずっと話しかけるチャンスを伺い、話せるときは多く話した。ずっと話していたわけではないが、俺は楽しかった。まだあいつが俺に対して警戒心を解いてなくとも。あいつが少し笑ってくれるだけで嬉しかったし、あいつが他の奴らと話したり、ふざけあってるのを見ると辛かった。多分あいつのことが好きなんだと思う。いや、好きだ。
けれど、あいつは死んだ。
俺が殺した。ほかの誰でもない、俺が。
あの事故のあと、あいつの葬式があった。俺がぶつかったのではなく、あいつが踏切に飛び込んだ、という誤解のまま。何度も何度も、言おうとした。けれど事実を認めるのが怖かった。母には一回だけ言った。母は目に涙をためながら
あなたは事故現場に居合わせただけで何もしていないのよ、あなたは今少し混乱してるの。大丈夫よ。あなたは関係ないからね。
そう言った。俺はもう分からなくなった。葬式ではあいつの家族が泣いていた。あいつの友人も泣いていた。俺は、泣けなかった。葬式が終わり家に帰ると母が心配そうな顔つきでこちらを見ていた。
晩御飯はいらないや
そう言って自分の部屋へと戻った。布団に潜り込み、いろいろなことを考えた。事故、自転車、電車、あの時のあいつの顔、あいつ
涙が止まらなくなっていた。獣のように吠えちらして泣いていた。あいつの顔が頭から離れない、あいつのぎこちなく笑う顔が、あいつの無表情が、あいつの笑顔が
あいつがいた。部屋に、隅に、無表情で、立っている。
恨んでいるのだろうか、あいつは、いや、幻覚だ、思い込みだ、幽霊なんている筈がないんだ、ちがう、あいつは、そんなやつじゃ、ちがう、やめろ、やめろ、やめてくれ
好きだ
「影」
一人で暗くなってから帰るのは久しぶりだが、こんなにも不思議な気持ちなのはなぜなのだろうか。少しだけの嬉しさと不安、あとは寒いとか、疲れたとか、お腹がすいただとか。
いつまでも暗いままではない。道にはぽつぽつとではあるが、電灯が立っている。
ふと電灯を通り過ぎたとき、影が前の方へ、すぅ、っと移動した。なんだか不思議な気持ちでそれを見ていると、影は前へ前へと伸びだした。
あぁ影は私との境目を千切り、そのまま前へ前へと消えていくのではないか、私をおいていってしまうのではないか、そんな不安と焦りを感じながら影を見つめると、次の電灯へたどり着いていた。電灯に近づくと、影は渋々と言った様子で私の後ろへと回った。
「ばかやろう」
「では皆さん、今から算数のお勉強をしましょう」
「国語の授業なのにですか」
「もちろん登場人物の考えや気持ちを読み取ってもらいます」
「よくわかりませんが、はい。」
「では、AさんとBくんがいます」
「お決まりですね」
「AさんはBくんより10分早く学校を出ました。学校帰りにスーパーに寄って買い物をして帰ろうと思ったのです。そうですね、Aさんは女の子なので、少し先のスーパーまで20分かかります。」
「まぁ、Aさん普通ですね。」
「Aさんはその日あまり良くないことが起きました。仲の良いBくんが、なんとDくんといちゃいちゃしていたのです」
「だいぶAさんがおかしいことはわかりました。」
「Aさんは帰り道、ずっともやもやしていました。何だこの胸のもやもやは、ただ男子がふざけていただけじゃないか、なにもどきどきすることはない、と。」
「あー、もうAさんアウトですね。」
「BくんはAさんより10分遅れて学校を出ました。Bくんは足が速いので、スーパーまで15分でつきます」
「これほんとに算数なんですか」
「その日Aさんはもやもやしていたのでいつもより早足で歩いていました」
「シカトですか」
「しかしBくんはそんなAさんをさっさと抜いて歩いていってしまいました。」
「あらあらまあまあ」
「Aさんは、余計にもやもやが多くなり、だんだんイラついてきました。」
「おやおや、最近の若者はすぐきれますね、カルシウムが足りないんでしょうか」
「まぁここでAさんは殺意がわくわけです」
「いやそこまではないでしょう」
「もう後ろから飛びかかってナイフで後ろドタマを突き破ってやりたいくらいには、イラつくわけです。」
「それはやりすぎではないかと。」
「さて、ここでAさんが取るべき行動はなんでしょうか」
「結局算数でもなんでもないんですね」
「はい、考える時間終了です。答えてください」
「あ、シカトなんですね。そうですね、追いかけて一緒に帰ろう、とかそんなんですかね」
「違います。全く違います。きちんと問題文を読んでいましたか?」
「いやいや流石にやってはいけないことかと思い」
「はい、答えは、相手が油断している間に人目につかない所へ連れ込み、喉をかっさばいて殺す、です。」
「先生も大概分にアウトですね」
「それはどうも」
「褒めてはいませんが」
「では褒め言葉として受け取る、ということで」
「もう嫌だなぁこの人」
「おこ」
目を瞑った暗闇の中、機嫌の悪いストーブが、ぐるぐると獣のように音を鳴らしながら灯油を飲んでいく様を、僕は耳で聞いていた。
「おはよう」
ベッドから起き上がるとイヤホンが耳からたれていた。左ははまってなかったようで、右だけまだはまっていた。そのせいか右のイヤホンがぴん、と張っていた。
イヤホンは首を一周していて、右のイヤホンを外しても首に引っかかって取れない。
随分前からだったか、イヤホンをして落ち着く音を聞きながらでないと眠れなくなったのは。
首に絡まっているイヤホンコードをなんとなく眺めながら、いつかこのイヤホンコードがからまって死ぬのもいいと思った。
「ずっと一緒」
「ねぇ、わたし、もう耐えられないの…」彼女はそう切り出した。
髪はボサボサ、着ている服もよれていて、誰かに襲われたのかと見まごう程だ。
「わたし、あの人が好きよ…?あの人の為に、わたし、たくさん努力したわ…」
彼女の言葉は幼く感じた。大人に認めたがられている小さな子供のようだ。
「あの人ね、まだ付き合ってたころは、大好きだ、愛してる、って、たくさん、たくさん言ってくれたの」
彼女は結婚している。結婚したての頃は、幸せそうだった。いつも二人でいたのだから、周りの人々はいつも羨ましそうに微笑んでいた。
「結婚してもね?あの人、ずっと、ずっと一緒に、いてくれるかい?って聞いてくれたわ、わたし、もちろんすぐさま頷いたわ、そうしたらあの人、微笑んで自分もだ、って、」
その時のことを思い出しているのか、青白い顔に、少しだけ生気が戻ったように感じる。
「でもね、でも、」
何かを思い出したのか、また顔を伏せてしまった彼女は少し震えていた。
「あの人、疲れてるの、そうよね?だって、あの人、たくさんお仕事してるもの!そうだわ!たくさんのお仕事しているから、疲れて、ちょっとストレスが溜まっているのよ!そうよね?!」
いきなり顔をあげたかと思えば、いやにギラギラとした目つきでそう叫んできた。
はて、彼女の夫は、仕事をしていただろうか…、もうここ三年はしていない。三年前に会社で暴力をふるって、辞めさせられていたのを思い出す。今は家で朝から晩まで酒を飲んでいるのではなかったか…
そう考えているうちにも、彼女はエスカレートしていたようで
「だってだって、あの人私を殴ったあと必ず泣きながら謝るのよ愛してるっていってくれるの!わたしのことを愛しているのよ!わたしがいたらないから!あの人はきっとわたしのことを殴るのだわ!!でも大丈夫なのよ?だって、愛してくれているもの!彼とずっと一緒にいるの!」
彼女は大きな勘違いをしているようだ、しかしそこを指摘してしまうと、彼女の大事な何かが壊れてしまう気がして、言わない方がいいのだろう、と考える。
「でもね、でもね、あの人、最近知らない女の人と一緒にいるの、その人、すごく嫌な目で私を見るのよ、いくらあの人の仲のいいお友達だからって、ずっと一緒にいるのはずるいのよ?だってずっと一緒にいるのはわたしなんだから、」
だって、だって、と繰り返す彼女は壊れてしまった機械のようだ。青白い顔の眉間に、シワがよるのを見ると、まるで御伽の国の、若い娘に嫉妬する女王のよう、否、それと同じなのだろう
「あの人ね、その知らない女の人と、どこかへ行くことが多くなったの、帰ってこなくなっちゃったの、ずっと一緒なのによ?ひどいわよね、あの女の人があの人を連れ回してるのよね?だめよね、そんなの、だからね、わたし、決めたの、」
そこで言葉を区切って彼女は正面の私の方を向いた、けれど目は決して私の方を見ていない、私を通して、何かを見ているのだ。
「これから、あの人との思い出が消えちゃうのは嫌なの、昔の思い出はとても綺麗よ、とても、とても。だからね、時を止めてしまおうと思うの。すごいでしょう?わたし、すごいことを考えついたのよ?あの人の時を止めてしまうの。だって嫌なんですもの、これからあの人が女の人と思い出を作っていくのも、ずっと一緒にいられなくなってしまうのも。」
微笑む彼女は、魔女より美しかった。
「ふふふ、なんだか、とても素敵な気分よ、これからあの人、帰ってくるわ、だってお金がなくなるもの、そうしたらわたしの元に帰ってきてくれるの、その時に、わたし、彼の時間を止めるわ」
美しく微笑む彼女は、とても幸せそうなので、あぁ、彼女はもう、きっと、不幸になることなんてないのだと感じた。だってこんなにも幸せそうなのだ。彼女はきっと彼との思い出の中に浸り、美しく笑いながら生きていくのだろう。
「花と拳銃」
ぐりっ、と銃口を貴方の胸に当てる銃口から伝わる貴方の心臓はいやにどきどきしているわけでもなくて、
そんなことを考えていたら
貴方がいきなり動き出すからびっくりして撃ってしまった。
倒れ込んで血を吐く貴方を無感動に見つめると、あなたはのろのろとした動きで私に花をくれた。私はこの花を知らないけれど、彼はこの花を知っていて、
「この花を君に、あげたいと思って、君が、すきなんだ、ぼく、きみと、きみが、すき、す、」
ひゅー、ひゅー、と音を鳴らしながら彼が言ったその瞬間、ものすごい衝撃に襲われた。彼が!好きだ!もうすぐ死ぬであろう彼が!私に撃たれて死ぬ彼が!私に花をくれた彼が!私のことを好きだと言ってくれた彼が!
すぐさま彼の元へと駆け寄る。私が駆け寄ると彼は嬉しそうに微笑んだ。
あぁ、すきよ、あなたがすきよ、もうすぐ死んでしまうくせに私に花と好きだという言葉をくれたあなたがすき、あなたがしんだのを見届けたらすぐ私もあなたのもとへ行くわ、あぁ、早くあなたが息絶えるといいのに!
私の言葉を聞いた彼は嬉しそうに微笑んでゆっくりと目を閉じた。彼が目を閉じた後、彼の胸に耳を当ててみた。少しづつ、少しづつよわくなっていく心臓の音と、だんだんよわくなる呼吸がなんだかとても心地よくてそのまま目を瞑った。
目を開けると私は何かに抱きついていたようで、よくよく確認してみると見たこともない男性の亡骸で、なぜ私はこの人の亡骸に抱きついているのだろう、と、疑問を持った。そばには名前のわからない花があったけれど大して綺麗でもないし、好みではなかったのでこの人に供える花としておいておくという名目のもと置いておいた。
そういえば今日は愛するあの人の元へ行く日じゃなかったかしら、と腕にはめた時計を見ると、もう時間は一時間前である。急がなければ!
誰かわからない亡骸はここにほうっておいても別段問題はないだろうし、もしあったとしても私には何ら関係はないだろうと自己完結して、私の最愛の人の元まで急いだ。
「さいご」
ここまで読むとは物好きな方もいらっしゃったものですねぇ…。あぁいえいえ、決して貴方のことを貶したりしているわけではありません。感心していたのです。本当ですとも。
にやにやとわらう老人を、ぼくは薄気味悪く思いながら殴った。




