第一話「学生の勉強会は90%が口実に過ぎない」
三戸一葉は、夢と希望を持った健全な男子高校生である。
故に肌色多めの写真集やコンビニの一角に気を取られてしまうのは当然のことであり必然なのだ。紙媒体を通して将来に夢と希望を抱くのは男の性。一葉に限らず全世界に存在する男性に当てはまることだろう。
それを知ってか知らずか、時に神は超重量級の精神的なボディブローを世の男たちに仕掛けてくる。
のどの渇きに耐え切れずコンビニに立ち寄った俺は、ある一角で気になる物件を見つけてしまった。値段も安価な優良物件だ。俺は迷わずそれを手に取りレジに向かおうとしたその時………‼‼‼
クラスの女子と鉢合わせしてしまった。
俺の手には夢と希望がたくさん詰まった聖書(エロ本)、それを見たときの女子たちの汚物でも見るかのような軽蔑の目。
俺は神にこんな試練を所望した覚えはないし、軽蔑されて喜ぶ変わったスキルはあいにく持ち合わせていない。それを見越したうえで神がこの試練を与えたとするならば神は鬼畜か変態だ。
俺がチャラくてそこそこモテるような奴だったら神のボディブローを華麗にかわすことができたのかもしれない……が、世の中そんなに甘くない。
神のボディーブローをまともに食らった俺は立ち向かうこともできず、その場に立ち尽くした。
「ブッ……ぎゃはははははははははッ…だっせー…くくっ…」
「笑ってんじゃねーよ!!くそ明人!!てめぇぶっ殺すぞ!!」
コンビニでの出来事を幼馴染である北条明人に話した俺がバカだった。今もなお、腹を抱えて笑っているソイツに蹴りをかます。
「わーるかった、悪かったって。で、その成果はあったのか?」
「絶対悪いと思ってねぇだろ!!!」
北条明人とは幼稚園からの付き合いだ。下に弟と妹がいて面倒見もよく頼りがいのあるお兄ちゃんといったところ。俺に言わせればくそ野郎だがな。
そんなに勉強しなくてもテストではそこそこいい点を取り、顔だって普通よりもいい方でそこそこ女子に人気があり、今までに付き合った子もいて家事全般だって得意で……………。
「なんで俺ばっかりこんな目に合わないといけねぇんだぁあああああ‼」
あまりにも理不尽すぎる事実に泣き叫んでいたところ、ガチャリとドアが開いて壱和と隆一が部屋に入ってきた。
「おーっす、遅かったな。」
「この馬鹿の補習が長引いたせいです。」
まったく…と隆一がため息をつきながら壱和を指さして言う。
「誰がバカだと変態野郎が!!お前が巨乳特集の雑誌を持ってきてたのが悪いんだろうが!!」
負けじと壱和も言い返す、相変わらずこの二人も口論が多い。
桐宮壱和と滝原隆一は高校に入ってからの友達で、俺、明人、壱和、隆一の4人で放課後は毎日集まっている。
「巨乳のなにがわるいんですか!」
真顔で言い切るあたり男である。
隆一は頭はいいんだがむっつりスケベというか……顔に表情が出ない分ギャップが激しい。ギャップ萌が最近流行っているというが真面目で口調は敬語なのに巨乳が大好きというギャップの需要はあるのだろうか。
「論点そこじゃねーから!!!学校にそんなもん持ってくる方が悪いってんだよ!」
対して壱和。
俺と同じで目つきが悪く童貞。俺は黒髪だがアイツは金髪。自分で染めたのかと聞けば姉に無理やり染められたとのこと。気の強い女子が極端に苦手でふわふわした感じのやさしい子がタイプだとか。俺の勝手な推測だが姉のせいだと思う。
「はーーい、注目ー!」
明人が手を叩き、立ち上がる。
「なんだよ、明人。」
さきほど買ってきた聖書(エロ本)を開封しながら訪ねると、ニッヒーと音が付きそうな笑顔でカバンから何かを取り出した。
「じゃーん!これなーんだ。」
女子か…と小さな呟きが隣から聞こえたが気にしないでおこう。俺も思ったけど。
「…飴?じゃねーの。」
「よく読んでみろって!」
俺たちに向かってズイ、と袋差し出してきた。
透明なナイロンの包装にポップな字体で書かれた商品名。
「「「……童話の…飴…?」」」
「そうそう!食ったら童話の世界に行けるッつう…」
「一葉~、何買ったんだよ。」
壱和が俺の手元をのぞき込む。
「MAIYURI。」
可愛いタイトルの優良物件。今、人気急上昇中のモデルの写真集。まいちゃんとゆりちゃんという二人組のモデルだ。
「聞けよ!俺の話!!!」
明人がすねたように声を上げた。
「聞いてやるから先に病院に行ってこい」
「病気じゃねーよ!!!」
病気だろ、と壱和が一言。
「この飴、原材料の表記も何もないじゃないですか。どこから持ってきたんですか。」
「なんかおっさんがくれた。」
「「…………」」
「思いっきり怪しいじゃねーかよ。初めて聞いたわおっさんに飴貰ったとか。」
言葉を失う二人をよそに俺は冷静に切り込んでいく。
「大丈夫だって!一回食おうぜ!!」
「どの辺が大丈夫なんですか、安全性のかけらもないんですけど」
「ほら、言うだろ?赤信号みんなで渡れば怖くないって。」
人差し指を立て名案を思い付いたかのように話す明人に壱和が口を開く。
「それ集団自殺やってること変わんねーだろ」
「やるなら一人でやってろって、俺はパス、」
俺たちが呆れたように手を振るが明人はなかなかあきらめない。
そんな時、携帯の着信音が鳴り響いた。
「一葉~お前の携帯鳴ってるぞ。」
「俺……?誰だよ…ったく……」
カバンの中からスマートフォンを取り出し、ディスプレイに表示された名前を確認する。
「うげぇ……最悪。」
誰から?と聞く壱和に生徒会長、と答えると皆一同に顔をしかめた。
生徒会長からということは昨日の件がもう耳に入ったのか。相変わらず情報が早いな、生徒会長様は。
拒否したいのはやまやまだが、生徒会長が相手となると後々面倒くさいことになるのは目に見えている。
「はぁーーー……。」
俺は長いため息をついてロックを解除し通話ボタンを押した。