表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/139

マルテル家

 立ちこめる料理の匂いは食欲を増幅させる。

 食事、それは人間が大きな幸福感を感じるための儀式のようなものだ。宿舎の食堂は色々な人の声でにぎわっている。

 だがしかし、そんな食事を前にしてもこのお嬢様のご機嫌はうるわしくないらしい。


「何よ! 私がろくな教育も受けずぬくぬくと育ったじゃじゃ馬? どっちがよ!」


 ミアが苛立たし気にフォークを指で振り回し、机に突き刺す。

 それ見させられると慰めにくいだろ……。


「なんとも無礼な輩なのだ! 恥を知れ!」


 スーザンが机を叩き立ち上がる。


「やはり私めが今すぐ成敗をして参りましょう!」

「やめなさいスーザン。相手が悪すぎるわ。というか、マルテルじゃなかったらとっくに私自身で灰にしてるわ」


 んな物騒な……。いやまぁ確かにそんな事言われたんなら腹は立つだろうけどさ。


「ねぇ、アキもなんとか言ったらどうなの?」

「いや確かに腹立つねとしか……」


 そんないきなり振られても困る。


「ほんと、いつか絶対ぎゃふんと言わせてやるんだから……」


 俺の横ではティミーがまぁまぁと言ってミアをなだめている。


 俺が帰って来てからというものの、ミアはずっとこんな調子だ。どうにも、今日は騎士団にマルテル家の当主カルテリオ・マルテルとその息子ライアン・マルテルが訪問し、その接待等を騎士団隊長数名共に接待したと。そしてその時、ライアンに先ほどの事を言われたらしい。ちなみに、俺が出会ったあの二人がそのマルテルだったようだ。


「ああ、そうだミア」

「何よ?」


 いつにも増してきつい目で睨まれたので思わず委縮しそうになる。


「ラ、ライアン? ってさ、俺らと一つ二つしか変わら無さそうだったよな?」

「そうよ、確か十七だったわ。それが何?」


 だからそんな睨むなって、話しにくくなるだろ……。


「い、いやさ、カルロスって今頃とっくに二十越えてるよな? 確かあいつもマルテルだったはずだけど、普通今回の訪問みたいなのって長男が同行するもんじゃないの?」

「あんた知らなかったの? カルロスはとっくの昔にマルテルから破門されてるわよ」

「え、まじで?」

「何? 私が嘘をついたとでも言いたいの?」

「いえ滅相もございません……」


 もう、ほんと怖いんだから。女の子はスマイル一番! でもここではい笑ってーなんて言った時には俺が灰にされかねないので当然言えない。

 しかしカルロスが破門か……。まぁ自主退学とは言え、問題起こしたわけだから名門家の子供ならあり得る話か。でもあれだな、って事はライアンは恐らく次男坊で、次期マルテル家当主になるのか。道理であんな傲慢な態度だったわけだ。


「ああもう、いらいらするわね! アキ、一回私に灰にされなさい!」

「嫌に決まってるだろ……」


 こりゃ明日もまたこの調子が続くんじゃないのか……。

 いつまで当たり散らされるのだろうと少し憂鬱になっていると、バリクさんこちらの机に歩いてきて、ミアに一礼した後に話しかけてきた。


「ちょっといいかい? アキヒサ君とティミーちゃん」

「大丈夫ですよ、隊長室に向かえばいいですか?」

「ああいや、簡単な要件だからここでいいよ」


 あわよくばミアからの飛び火を避けようと思ったが残念だ。


「分かりました」

「じゃあ早速要件を伝えるよ。明日、僕らの隊は街の警備に当たってるんだけど、二人だけは魔術研究所の方に行ってもらいたいんだ」

「……ええ、まぁいいですけど」

「ティミーちゃんは?」

「は、はい。だ、大丈夫です」

「良かった」


 でもなんでまた魔術研究所に行くんだろうか?


「魔術研究所の方で団員の胸を借りたいとの事でね、二人の指名が入ったんだ」


 俺の疑問を察したのか、バリクさんが説明をしてくれる。

 なに、騎士団って指名制あるの? 今度客としてティミーとか指名してみようかな。ミアなんかも面白いかもしれない。いや待て、ミアとか指名した日には灰にされそうだ。やっぱやめよ。そもそも騎士団員ってわけじゃないしなミア。


「そうでしたか、そういえばあの、怪術師の件ってどうなりました?」


 一応帰った時にバリクさんに報告したところ、団長に言ってみるとの事だった。


「ああ、そういえばそうだね。早速弥国に尋ねてみるという事だよ」

「そうですか」


 とりあえず、怪術師については返答待ちか。

 その後、バリクさんが去ると、ミアにはまた散々当たり散らされた。



********



 魔術研究所、相変わらず混沌とした建物だ。

 昨日散々八つ当たりしてきたミアだが、今朝まで俺に八つ当たりをしてきて大変だった。いい加減機嫌を直してもらいたい。確かに腹立つのは分からるんだけどさ……。まぁいいや。仕事しよ仕事。


「で、なんでお前が仕事先で出迎えてくれるんだアルド」

「それは僕が指名したからさ」

「え、なに、今回お前が俺らに依頼したの?」

「友の方が気が楽だからな」


 まぁそれに関して異論は無いけど……。


「まぁいいや、で、俺らは何をすればいいんだ?」

「まぁ待て。その前にだ、アキは光魔力と闇魔力を知ってるかい?」

「だいたい知ってるけど」


 確か講義でバリクさんが話していたはずだ。あの時は若干殺伐としたよな……おもにファルクのせいで。


「なら話は早い。それに関して少し被検体になってもらいたくてな」

「え、俺らが実験道具にされるって事?」


 おいおい、いくら友達のお願いだからってそんな危ない事したくないんだけどな……。ティミーなんかもう被検体って聞いただけで固まって震えてるぞ。そのまま肩に置いたら良いマッサージ機になりそう。


「なに、少し魔物と戦ってもらうだけさ。安全面は保証する」


 お前に保証されても安心できないんですけど。どれくらい安心できないって何故か大学自らアットホームな雰囲気とか言って学校紹介してるくらい安心できない。あれはマジでやめた方がいい、すごい受験生不安になるから。まぁ結局受けてないし実際の所は知らないんだけどね。


「ほんとに安全なんだろうな?」

「アリシアが言っているから間違いない」


 まぁアリシアなら大丈夫か。


「あれ、でもそのアリシアはどこにいるんだ?」

「中で待機している」

「そういう事か」

「まぁとにかく付いて来てくれ」


 ここまで来てしまっては仕方が無い。とにかくアルドに付いて行くとする。

 あの礼拝堂のような廊下を抜け、例の光源が浮く巨大な資料部屋へと出る。相変わらず何か書き物をしてる人が見らられた。


 そのままアルドが向かったのは以前ファルクが衛兵と揉めていた地下へ続く階段だった。

 アルドが何やら提示し、衛兵に話をすると、こちらに手招きをするので行くことにする。かなり長い階段だった。


「なぁアルド、俺らが入って大丈夫なのここ」

「今は大した研究も無いから問題ない。いやそもそもいつでも入ってくれても大丈夫なんだが、念には念をという事で見張りは置いているんだ。さぁ、ここが研究所の核さ」


 アルドが重々しい扉を開けると、岩盤に囲まれた通路に出た。一歩その中に踏み入れると、若干ヒンヤリとした空気が身を包む。


「この岩壁は色々な鉱石が含有しててね、かなり丈夫にできてるんだ」

「へぇ……」


 雄弁に語ってくれるのは言いがあまり興味は無いので適当に返しておく。

 中はいくらか入り組んでいるようで、時々曲がったりしながらアルドの後に付いて行く。途中、いくつか木の扉があり、恐らくその向こう側で何かしら研究がされているのだろう。


「ここだ」


 他とは違い、頑丈そうな扉を開けると、広い空間に出て、そこにはアリシア含む数名の研究員らしき人が待っていた。別に白衣を着てるとかじゃなくてもっと文官的な格好だ。


「すみませんお二人とも。アルドさんが聞かないものでして」

「なっ、僕はあくまで適応性を重視してだな、それにちょうど二人が当てはまってどうせなら知り合いの方が気が楽だと……」

「分かりましたからとりあえず黙ってください。面倒くさいので」

「グハッ……」


 ずびしっと放たれたその言葉にアルドは地面に倒れ伏す。

 相変わらずぞんざいに扱われてるなぁ……いいぞもっと苦しめ。こちとらグレンジャーのお嬢様に理不尽に八つ当たりされてきたばっかだからな! 


 いつからこんなに荒んだのかなと清々しい思いをしていると、間もなくアリシアが実験内容の説明を始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ