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異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~  作者: じんむ
ウィンクルム騎士団 入団編
72/139

霧消と結果

 晴れない。この霧はどこから漂ってくるのか。

 力を行使すれば、敵を全て排除すればどこかへ消え去るかと思っていたが、そうもいかないらしい。むしろどんどん濃く、多くなってきた気がする。

 どうしようもなく身体が重い。だからと言ってこんな場所で寝るわけにもいかないだろう。騎士団になるためだ、もっと魔物は倒さないと……。


「アキ!?」


 声がしたので振り返ると、ティミーが心配そうにこちらを見ていた。


「ケガいっぱい……すぐに治すね」

「いやいいよ。擦り傷だろ?」

「ダメ」


 そう言って少しむくれるティミーは俺に向けて手をかざすと、緑色のオーラに俺の身体が包まれ、見る見るうちに傷が消えていく。

 ……そういえば昔もこんなやり取りをした気がするな。


「よぉアキ。やっぱ流石だな」


 ふとティミーの後ろを見るとニッとたくましく笑うハイリの姿があった。


「ったく、連絡があって駆け付けたらあの大群の中一人で飛び込んでいくところだったからびっくりしてたんだぜ?」


 なるほど、あの後すぐに来てくれてたのか。待てよ、だとしたら俺があそこまでする必要なかったんじゃないのか?


「そうだったんなら助けてくれよ……」


 若干呆れを交えながら抗議すると、意外な答えが返ってきた。


「いや、それはちょっとできなかったな」

「は? なんで」

「お前が凄すぎるんだよ。あの中に俺が援護しに行っても逆に足手まといになってただろうからな」


 ハイリが俺の足手まとい? まさか


「まぁなんだ、お前もかなり成長したって事だよ。元々お前は凄かったしな」

「いや、流石に無いだろ」

「いやある、お前は強い!」


 力強く断言しやがった。もうそれでいいや。


「そこまで手放しに褒められるとかすごいむずがゆいんだけど……」


 正直に今の気持ちを述べると、ハイリはどこか悪だくみを思いついたような笑みを浮かべ、俺の首を抱えて頭を乱暴に撫でだした。


「ったくよぉ! あんなチンチクリンがこんな立派になりやがって! 俺は感動したぞぉ?」

「ちょ、やめっ……」


 ほんと恥ずかしいから! もうハイリも立派な女性だし、胸以外は! てか言う事がベルナルドさんっぽいぞ!

 ふむ、でもまぁそうだよな、確かに俺もハイリと出会った頃よりは背も伸びたし、昔はそれなりの差があった背丈も今では大きく変わらなくなった。もうずっとこの世界で生活してきてるんだなぁ……。

 束の間の感慨を覚えていたところ、ふとスーザンの姿が無いことに気付く。


「そ、そういえばスーザンは?」


 割ときつめに首を抱えられていたので声も自然と苦しげになる。てかいつまでこうしてるんですかねハイリさん!


「スーちゃんは『助太刀は無用か……私もがんばらねばな』って言ってどっか行っちゃったよ」

「そう、だったのか」


 改めてお礼を言おうと思ったんだがいないなら仕方がない。後にでも言おう。


「ねぇアキ……」


 ふと何かを問いたげな眼差しでティミーが口を開く。


「なん、だ?」

「別に……なんでもない」


 なんでもないって何だよ……。もしかしてまたちょっと怒ってらっしゃる?


「おっ、悪い悪い。俺はそろそろ仕事に戻るぜ! 隊長にも報告しなきゃだしな」


 ハイリがようやく拘束から解いてくれると、ニヤリとした笑みをこちらに向け、いつもの力強い飛躍を見せ崖の上へと降り立つ。こいつめ……。


「達者でな! 試験はまだ終わってねぇぞ!」


 それだけ叫ぶと、ハイリは崖の向こう側へと姿を消してしまった。


「はぁ……さて、俺はもういけるだろうけど、あとはティミーだな。がんばっていくぞ」

「うん、そうだよね」


 ティミーが力強く頷く。


「あ、ちょっと待ってくれ。収斂(アスト)


 引き寄せられる魔鉱石達と袋の中に入れながら、いつの間にかあの感覚が消えてることに気が付く。

 ちょっと戦いすぎて疲れてただけかもな。





 陽も傾き、ぞくぞくと集まる入団希望者達。

 こうべを垂れる者、余裕そうな笑みを浮かべる者、様々な人が混在する中、俺とティミーもロスト・キャニオンの入口に戻っていた。

 収穫は俺が六百九十二、ティミーが二百七十五。試験はもちろんの事、ファルクにも勝ったな。ティミーもたぶん高水準の数値だと思うし、いけそうだろう。


「これより魔力照合と集計を行う! あそこの団員達に渡すように!」


 そう言うのは例の鬼軍曹だ。それを聞き、希望者達が続々と自らの袋を鬼軍曹が指した団員に渡しに行く。俺とティミーも同様だ。


「重い……ふむ、確かに魔鉱石とあなたの魔力は一致しているようですね。向こうでお待ちください」


 騎士団レベルとなると、この大量にある魔鉱石の中の魔力を一つ一つ、感じ取ることができるのかねぇ。

 などとどうでもいい事を思いつつ、ティミーの魔力照合を待った後、緊張な面持ちをした希望者集団の仲間入りをする。悪いな、一枠は俺が貰った。


「やっほーアキちん!」


 少し心の中で余裕びてみたりしていると、不意に後ろから声がかかった。


「失せろファルク」

「うっわーひっどー。まぁいいや、ねぇねぇ、どれくらい集めた?」

「教える義理は無い」

「うわー冷たー! もしかして秘密主義の俺かっこいいとか思ってるのー? きっもちわりぃ!」

「んなわけあるか」


 まぁ、どうせ俺が勝ってるに決まってるけど。発表の時に絶望するこいつの姿を早く拝ませてもらいたい。


「ねぇねぇ、ティミーちゃんはー?」

「え、えっと、二百七十五……です」

「ふーん、なーるほど……」


 意味ありげな様子だ。あまりの多さに驚いたか、それとも余裕からか。


「アキちんはもっと多いんだよね?」


 ニヤリと口を吊り上げ言い放つファルク。どうやら後者の方らしい。


「一応な」

「だったら安心」


 しばらく沈黙の時間が訪れた後、それを破ったのは鬼軍曹の声だった。


「集計が完了した!」


 少しざわついていたこの場所は静粛な空気に包まれる。


「今回は例年に比べて特に優秀な結果となった、発表は団長に行っていただく!」


 鬼軍曹の声に続く仰々しい笛と共に、近くに作ってあった簡易性のテントから威厳に満ちたウィンクルム騎士団団長、セス・オニールが現れた。


「諸君、とりあえず此度の試験、ご苦労だった。己の力を存分に発揮できたことであろう」


 朝と同じ野太い声も健在だ。


「此度は合格者は規定通り四名、一位が並び、三位、四位という結果になった。名を呼ばれたものは前に出るように!」


 一位が同着だと? 俺か、あるいは俺より上に誰かがいたか。


「まず一位、六百九十二、一人目はアキヒサ・テンデル!」


 辺りがどよめく。時々聞こえる六百九十二だと……という声に少しだけ満足感を覚える。まぁ、あのルフバードが来なきゃここまで行かなかったわけで、運が良かったからだといわれればその通りなわけだけど……。

 などと考えつつ前の方に出させてもらう。


「そして二人目はファルク・ボゼー!」


 団長の言葉に自然とファルクの方へ顔が向く。

 それに気付いたか、俺に対してウインクしてきやがった。こいつ、口だけじゃなかったのか……。


「そして三位、二百九十三、スーザン・ウォード! 四位、二百七十五、ティミー・テンデル!」


 名前を呼ばれ、姿勢よくスーザンが歩いてくると、後からガチガチに身体を強張らせたティミーも来た。

 スーザンが食い込んできたか……。何はともあれティミーも合格して良かった……いや良かったのか? まぁいいや。


「以上、四名を合格者とする!」


 辺りに拍手の音がこだまする。ふう、まぁなんとか合格出来てよかっ……。


「ふざけるな!」


 ほっと息をつこうとした途端、どこからか誰かの怒号が飛んできた。

 一人の男が希望者達をかき分けこちらに向かってくる。恐らくその人が声を発したのだろう。

 ちょ、待って、もしかして俺? 確かにちょっと余裕ぶってた節はあるけどそういうつもりじゃ……。

 

「てめぇ!」


 しかしその人は俺ではなく、隣にいるファルクの胸倉を掴んでいた。


「えーなにぃ? 負け犬の遠吠えー? マジウケるんですけどー?」

「どの口が言いやがる! 俺の獲物を全部かっさらいやがって!」


 獲物をかっさらう? どういう事だ。


「かっさらうって何勝手に魔物を自分の所有物にしてるのー? 魔物愛者ー? きっもちわりぃ!」

「この……!」


 その男は今にもファルクに殴り掛かりそうだ。


「てめぇ、俺が魔物を弱らせる度に横やり入れやがっただろうが!」

「はぁー? どんな状態の魔物を倒したって僕の勝手でしょー? ていうか横やり入れられるだけの隙があるあんたが雑魚なだけだよね?!」

「なッ……!」

「おい、それ俺もやられたぞ!」

「俺もだ!」

「ふざけるな!」

「辞退しろ!」


 先ほどのやりとりが水に投げ込まれた石となったか、他の人たちも口を開きだした。

 しかしファルク、まさかそんな事をしてたとは……。いやでも、別にそこまで悪い事でも無い気がするのは俺がおかしいのだろうか。ただこの世界に騎士道精神なるものがあるのならやはり良くない事なんだろう。


「ボゼー、貴様ッ……!」


 この状況の中、鬼軍曹もまた怒鳴ろうとするのを団長が手で制す。


「静まれ!!」


 鶴の一声。暴動にまで発展しそうな勢いだった希望者達は一瞬で静まり返った。


「君も下がるんだ」


 言葉はきつく無いものの、その声はとても低く、言われていない俺でも畏怖の念を抱く程だ。


「す、すみません……」


 ファルクの胸倉を掴んだ男は大人しく引き下がる。


「聞くところによるとボゼー君のやり方は確かに褒められたものではないかもしれない。だがしかし、知恵を使ったまでだと言われれば確かにその通りでもあるだろう。先ほども彼が言った通り、出し抜かれたのは己の力が劣っていたからだ。ただ誤解はしないでほしい。私はこれを最後に諦めろと言っているわけではない。次回の試験まで精進してもらいたい、と心から思っている。さて、耳を汚して失敬、これにて以上とする。合格者は本部に戻った後説明があるから私の部屋まで来るように」


 それだけ言うと、団長はテントの中へと戻っていくので、慌てたように鬼軍曹も付き従う。

 団長の発言、ちょっと意外だったな。


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