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異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~  作者: じんむ
ウィンクルム騎士団 入団編
68/139

オリジナル

「それじゃひっきー君おっさきぃ!」


 ノリノリで走って行く害虫野郎や、我先にと必死で走る入団希望者たちをしり目に、ティミーがおどおどと声を震わせる。


「ア、アキ……私たちも走らなくてもいいの、かな?」

「いやまぁ確かに走った方がいいかもしれないけど、あの中に入るのはな……。あんま体力に自信ないからさ」

「私もちょっと厳しいかも……」


 それほどまでに希望者たちの走りは凄まじいものだったのだ。一瞬猛牛かと思ったぞほんと……。

 

「まったく、あの中に風系統使いもいるというのが呆れる」


 ふと傍らを見ると、槍を携え、他の人達とは違い姿勢よく歩く女の子の姿があった。先ほど害虫野郎に色々言われていた女の子だ。


「貴様らは先ほどの……」


 姿を見ていたのに気づかれたらしい、その子はこちらに顔を向けると話しかけてきた。


「ああ、なんか悪かったな、あいつが色々言ってさ」


 なんで俺があんな害虫野郎のしりぬぐいしてんだよ……。


「いや、貴様が謝るべきことでは無い。全て悪いのは奴だ……今思い出しただけでも腹立たしい!」


 メラメラとその子の眼に火が宿るのを感じて少し安心する。

 けっこう酷いこと言われてた気がするけど思ったより重傷でなさそうで良かった。


「そうだ、ここで会ったのも何かの縁。一応自己紹介をしておこう。私の名はスーザン・ウォード。地方貴族の娘だ。呼び捨てにしてくれて構わない」


 その後、俺、ティミーの順番で自己紹介をする。


「ふむ、記憶喪失というのは存在するんだな……」

 

 一応ティミーとの関係を語るにあたって昔即興ででっちあげたこの設定も話しておいた。もうこれ便利だからずっと使い続けてやろう。


「そういえばスーザンちゃん……うーん」


 スーザンに対して何か言いかけたティミーだが、何故か急に言葉を切り浮かない表情をするので、スーザンが訝し気な色を見せる。


「どうしたティミー?」

「なんか、スーザンちゃんって言いにくいなって……」


 それを聞いたスーザンは心なしか身体をこわばらせたように見えた。背景にガーンとか入りそう。


「な、なるほど……それはすまない」


 いやいやスーザンさん、そこは謝るところじゃないと思いますけど……。まぁ確かにスーザンちゃんだと母音とNが一致するから変な感じもするよな。

 しばらくうーんと唸っていたティミーだが、突如何かひらめいたらしく明るく顔を上げる。


「あ、そうだ。スーちゃんって呼んでもいいかな?」


 なるほど、スーか。ネーミングセンスいいんじゃないのティミー。


「す、すーちゃん?」

「可愛いと思う! ……どうかな?」


 頬をを赤らめ渋るスーザン。仕方が無い、後押ししてやろう。


「いいと思うぞ、ティミーの言う通り可愛いって」

「なっ……」


 スーザンの顔が一層赤くなる。

 うんうん、微笑ましいなぁ……などと思っていたその矢先だ。


「なんて破廉恥な! は、恥を知れ!」


 口汚くののしられたかと思うと、顔を真っ赤にさせたスーザンがきつい眼でこちらを睨み、そのままそっぽを向いてしまった。


軽量(リヘラ)!」


 そのまま魔法を唱えたスーザンはものすごい風圧と共に、一瞬で峡谷の上へと身を投じた。

 ふむ、どうやらスーザンは風系統の使い手らしい。……え、何、俺が悪いの?


「どっかいったな……」


 行ってしまったものは仕方が無い、若干ほうけつつもティミーの顔を見ると、何故だろう、どことなく機嫌が悪そうだ。


「あの……ティミーさんどうされましたか」

「別に……そんな事より早くしないと時間無くなっちゃうよ」

「そ、そうだな」


 どことなくトゲがあった感じがするが、とにかくティミーの事を気にしすぎても仕方が無いので、今は試験に専念する事にする。


「えっと、今の状況を把握しよう。まずこのロスト・キャニオンは世界屈指の壮大な渓谷。今はそこから分岐した迷路のように入り組んだ峡谷の一部にいる」

「そうだね」

「となると、今あの後を追いかけてもたぶん魔物は狩り尽されてる。ここは峡谷だからな。しばらく走れば道が分岐して魔物が狩られてない場所に行けるだろうけど、時間のロスがどれほどまでにのぼるかは計り知れない」

「そっか……やっぱり走った方が良かったのかな。このままじゃ落ちちゃうよね……」


 ティミーが不安げに顔を伏せるのでそれを払拭させるために明るめのトーンで続ける。


「心配無用だ。いや試験通るかとかは別にして、一応現状を打破するための腹案はある」

「え?」


 一転、ティミーは期待の籠った目でこちらを見てくる。

 いやそんな期待されても逆に困るんですけど……。別に大したことじゃないし、そもそも実現可能かもまだ確定してないし。

 ともあれ、どんなアイデアにせよ言ってみない事には始まらない。


「要約するとあれだ、下からじゃなく上から攻めようって話だ。スーザンみたくな」


 少しだけ決め気味に言ったつもりだが、ティミーはぽけーっとしており、あまり理解できなかったようだ。なんだよ、アホみたいじゃないか俺が!


「えっと、何も峡谷の道筋通り進まなくても、上から行けば一直線に進むことができて、魔物のいる場所を短時間で発見できるんじゃないかって事だ。ほら、スーザンもさっき崖の上に行ってたろ?」


 頑張って説明したつもりだが、ティミーは相変わらずの様子だ。

 どう説明するかと考えあぐねていると、不意にティミーが「おお」と嬉しそうに声を発した。


「この峡谷の崖の上に登って、他の希望者よりも先回りして魔物を狩っちゃおうって事だね!」


 最初からそう言ったつもりだったんだけど……まぁいいや。


「そう言う事だ。ただ問題はどう登るかだ。俺らは風系統じゃないからな」


 風系統であれば風を操ってスーザンみたいに飛んでいけるものの、こちらは炎属性と、水系統と草系統。どう使えばいいのやら。この高さじゃ軽量(リヘラ)だけじゃ飛距離が足りないだろうし、そもそも谷を通り抜ける風に飛ばされて危険をともなう。


「え? 簡単だよ?」


 どうするか考えていると、ティミーが何を心配してるのかと言いたげに首をかしげる。


「いくよ?」


「えい」と可愛らしい声とは裏腹に、もの凄い量の水がティミーの周りで音を上げて噴出していた。

 刹那、目を開ける事すら困難な一層強い水飛沫が俺の元へと襲い掛かる。

 腕で顔を覆いつつ、なんとか薄目を開けていると、ティミーの両手両足から凄まじい勢いの水が出ており、身体を浮かせているのを確認できた。


「ハハ、なるほどな……」


 思わず乾いた笑みがのどにこみ上げてくる。どこのフライングジェットボードだよ……。


 基本魔術師というのは先人たちによって決められた術を詠唱する形で発動する。例えばクーゲルやら俺のよく使う炎属性のものでいけばフェルドゾイレやらフェルドディステーザとかはそれに当たる。


 ただ、それはあくまで先人たちが勝手に(と言ってもちゃんとした計算の上で効率が精練されたものだが)定義づけたもので、別にその通りに自らの魔力を扱う必要は無い。魔術学は未だに発展途上で、日々新たな定義やら定理やら発掘されている。故に熟練の魔術師となると己の理論に従って魔術を扱うようになる。


 今ティミーが使っているのはどこの文献にも載っていなかったオリジナル。

 つまりこの子はこの歳にして自らの魔術学の理論を構築してそれを実現させたわけで。うん、とにかく凄いわけだ。ああ待てよ、そういえばミアもあの炎のリボン、絶対オリジナルだよな? なに、もしかして俺の友達って案外化け物ばっかなんじゃ……。


「あ、でもこれだと私しか上に行けないね……」


 魔術を中断し、照れたようにはにかむティミーだが、可愛いはずのそれはどことなく俺に畏怖の念を植え付ける。

 こいつ、将来絶対大物になるな……。


「なぁ、それオリジナルだよな?」

「えと、まぁそうなる、かな?」


 やっぱりか……。でもまぁおかげで俺にもなんとか上に飛べる手立てが思いついた。

 あれなんだっけ、日本で一番最初の本格的連続アニメ……鉄腕ロボットだっけ? あとハリウッド映画の鉄人間。あれみたく、そしてティミーのように俺も炎を放出すれば飛べそうな気がする。


「ティミー、先行っといてくれないか? たぶん俺もすぐ行くから」

「え? うん、いいけど……」


 ティミー少し浮かない様子ながらも、先ほどのオリジナル魔術を発動し、あっと言う間に高い峡谷の上へと飛んでいった。


「さて……」


 意識を集中させ、自らの魔力を両手へと凝集させると、だんだんと手に温度が宿る。そして今度は足の方へと魔力を流し込み、十分に高まった上で一気に火を具現化する。


「おお……! いけるぞ!」


 両手両足からは炎をが噴出して、身体が宙に浮いている。


「ファイアージェット!」


 なんでネーミングだと己を嘲笑しつつも炎の出力を上げると、これまた面白い具合に谷の上へとどんどん近づいてくれた。

 一人はしゃいで気持ち悪いと思うかもしれないが、実際本当にSFの中の事象を体験すれば少なくとも男なら誰だってこうなる!

 



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