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異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~  作者: じんむ
ウィンクルム騎士団 入団編
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ロスト・キャニオン

  これは光か。

 いつの間にか真っ暗だった視界は、白く光を帯びている。

 微かに暖かいその光は、どうにも心地が良くて――――


「なッ!?」


 穏やかなひと時を過ごしていると、突如身体に何かの重みが加わる。

 驚きのあまり、反射的閉じていた眼を開くと、すぐ目の前にはティミーの寝顔があった。恐らくベッドから落ちてきたのだろう。小さな寝息を立てるそのくちびるは妙に(なま)めかしく、なんというかもう色々反則である。


 そこから逃げるように目線を移すと、今度は何故かはだけて素肌が露わになった肩が目に飛び込んできた。寝る用の服などは持って来ていなかったので、お互い外出用の服のままだ。そういう服は寝た時の事など考慮せずに作られているだろうからこういう事が起きているのかもしれない。

 状況を把握しているうちに、布越しとは言えティミーの体温が自らの身体に伝導していき、そのせいもあってか身体中から汗が噴き出したような妙な感覚に苛まれる。


 さていよいよ困った、今この状況で起こせばティミーはこの状況を遭遇してどう感じるだろうか。恐らく羞恥の嵐に襲われることになるだろう。別にティミーは暴力女では無いし、物をびしびし言い放つタイプでは無い。故に恐らく一人で抱え込み、心に大きな傷を……。


 いやそれは考えすぎか、だとしても、恐らく気まずい朝を迎える事になりそうなので迂闊に動くことができない。


 ただこの状況、考えによっては男にとってかなりうまうまな状況なんじゃないだろうか?

 何せ美少女と密着して寝るなんてそうそう何度も出くわす場面でもないだろう。だったら、このまま本能のままじっと寝たふりをしながら横たわるのも一興というもじゃないのか?


 って何考えてんだよ俺……流石にそれはダメだろ。殿じゃないんだからあんまりバカをすると取り返しのつかない事になる。顔面真っ白どころか顔面蒼白だ。


「ん……」


 不意に耳元に吐息がかかる。

 恐る恐る目線をティミーの顔へ戻すと、まだ眠そうなながらも、その眼はしっかり俺の方へと向きこちらに焦点を合わせていた。ああ遅かった。


「ッ……!?」


 しばらく時間が止まったような感覚を覚えていると、ようやく状況を把握したか。ティミーは声にならないらしい悲鳴を上げると、顔を真っ赤にさせて俺から飛び退いた。別に俺悪くないから……。






 騎士団本部前、あの庭園には昨日とは違い、大勢の人でごった返していた。正装してる人やらそうでない人やら服装は様々で、恐らく今日の入団試験を受ける人たちなのだろう。募集条件とかは無かったからな。


「よっ、二人とも、よく眠れたか?」


 ハイリが邪気の無い笑みでこちらに寄ってきた。

 それを聞いたからか、若干恥ずかし気にティミーは顔を伏せる。


「まぁ、そうだな」


 一応眠れたことには眠れたからな。無視するわけにはいかないな。まぁ朝の出来事はわざわざいうような事じゃないけども。


「そうか、そりゃよかった。ダウジェスに感謝だな」

「お、おう」


 まぁご褒美タイムといえばご褒美タイムでしたけどね? だから一応感謝はしてるよ?


「そいじゃ、俺は仕事の方があるから」


 よもやハイリの口からそんな言葉が出るとは……。

 ハイリが颯爽とこの場から離れていく。


「入団希望者諸君!」


 感銘にも似た気持ちを抱きつつ、ハイリの後ろ姿を見ていると、不意に野太い声が辺りに響き渡った。

 声の方を向くと、騎士団の建物の二階のベランダのようなところに、遠目から見ても厳格な雰囲気を醸しだすおじさんが騎士団の服に身をまとった部下らしき人を二人傍らに携えて立っていた。

 その迫に誰もが押し黙り、先ほどまで騒がしかった空間は水を打ったように静かになる。


「私はこの騎士団の指揮をまかされているセス・オニールだ」


 辺りに拍手の音がこだまする。


「早速ではあるが、これから試験概要を説明したいと思う」


 試験の概要か……ちゃんと聞かないとな。


「今日、総勢百八名の希望者がこの場に集合しているが、今回、その中でも最大四名のみが我々、ウィンクルム騎士団への入団を許可される」


 その数字に会場がざわめく。

 百八だって? つまり競争率は二十七倍って事になるのか……流石少数精鋭を謳うだけある。


「ちなみに分かっているとは思うが、あくまで最大合格可能者数であり、場合によってはゼロという事もある。肝に銘じて置くように」


 なるほど、徹底してるな。

 その後、しばらく試験について説明があった後、俺ら含む入団希望者は試験会場となるというロスト・キャニオンへ向かうことになった。

 ちなみにロスト・キャニオンというのは古代から長い年月をかけて川の侵食等により形成された渓谷で、ウィンクルム王都から北西に位置する。書物でしかその存在を知らず、いつかは行ってみたいと思っていた場所なので少しだけ楽しみだ。。






 三時間ほど歩いただろうか、緑色だった景色もいつの間にか荒野へと変わりつつあった。

 しかし試験会場まで歩かせるとはな……まぁ百八人+騎士団の数十名を馬車で運ぶわけにもいかなかったんだろう。でも流石に足が疲れてきた……。


「ちょっと疲れてきたね」


 少しだけ困ったような表情を見せたティミーがそんな事を言う。

 まぁ疲れるのも当然だな。ティミーは学院だと魔術専攻みたいなもんだったし、体力をつけたりはしてないからな。むしろここまでへばらずに歩いてきてるだけで今すぐ褒めてあげたいと思うのは親バカかしら……。


「まぁ、長い事歩いてるからな」

「でもなんか不思議な感じだね、同じような服の人がいっぱいいると」

「確かに」


 ティミーがそう言うのも、騎士団側が試験の公平を図るという目的で、全員同じ格好の装備をしているからだ。一応武器に関しては個々の適正に合わせているものの、バンダナ、革の胸当て、革のタセットは全て共通で、しかも着る服まで簡素なものに指定されている。


 あれだな、なんというか初心者冒険者になった気分。でも装備一つ一つが割とボロいせいかな、こうもぞろぞろ歩いているのを見ると、なんというか囚人になったような気もするんですが……。


「あ、見てアキ!」


 突如、嬉々とした声でティミーが前方を指さすのでその方を見てみると、向こう側にごつごつと赤茶色の岩をいくつも確認することができた。

 なるほど、あれがロスト・キャニオン入口らしい。という事はもうすぐだな。

 ロスト・キャニオンの姿を糧とし、しばらく歩いていると、だんだんそれは壮大さを増し、遂に目の前には大きな渓谷がそびえ立っていた。周りもごつごつと岩が突出していたりし、厳かな雰囲気だ。


「では、これより昼食を配給する。各自待て」


 騎士団の一人がそう言う。顔はいかつく鬼軍曹的な印象だ。


「どうぞ」


 間もなくして、下っ端騎士団のような人が手のひらサイズの包みを手渡してきた。重量感はあるし、それなりに美味いかも?


「……」


 期待して包みを開けた瞬間声が奪われる。

 なぜなら包みの中からは奇妙な緑色の物体が顔をのぞかせていたからだ。


「なんだよこれ……」


 地味に柔らかいんですけど。あと触ったら若干ぬるぬるする。気持ち悪いな……。

 食欲メーターをグイグイ下げていると、ティミーが怪訝な様子でこちらを見ていた。


「食べないのアキ?」

「これほんとに食えんの?」

「食べれるよ。これは魔力でヒャクネンを凝縮させたもので、今回はリョクカツ草とシンセイ草も練り込んであるから栄養価も高いし、魔力補給にもつながるし、味のベースはヒャクネンだから美味しいよ」


 お、おう? よく分からないワードもあって全然頭に入ってこなかったんですけど? ああでも確かヒャクネンは食べたことがあるな。サトイモっぽかった覚えがある。

 まぁ何、ようはちゃんと食べれるって事なのね? 流石はティミー、薬草学を勉強していただけはある。

 恐らくなんとか草は全部薬草だろう。色もそれから来てるに違いない。

 意を決して食べてみると、うーん。美味しくは無いけど不味くもない。サラダ味のこんにゃくっぽい感じだな。


「だーからぁ、こんなの食べたくないんだって! もっと他の無いのー?」

「文句があるなら食うな!」

「はぁー? それってひどくなーい? お腹減るってー……」

「チッ、あまり騒がしいなら不合格にしてもいんだぞ?」

「ちょっとまってよ~? それって職権乱用? 無いわぁ」


 サラダコンニャク(俺命名)を食べていたところ、もめるような声が聞こえてきたのでそちらの方を見やると、バンダナを外し、茶髪の髪に金色のメッシュがあらわになったなんともチャラいというかうざそうな奴と、先ほどの鬼軍曹とが面と向かって対峙していた。


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