自立
春、この世界に来て何回体験しただろう。ここは日本とは違い、少し肌寒いのは肌寒いが、それでも太陽は心地よいし、雪解けの小川などを観察するのもまた一興だ。
学院が無くなって二、三ヶ月、特にする事も無くまったりとこの村で暮らしている。
……ただ、やっぱり思う。俺は今年十六歳、それはティミーも同様。流石にこれで一つ屋根の下はどうなのかな、と。この村は好きだしあまり離れたくない。でもだからと言ってずっとティミーの家でお世話になるのは良くないだろう。精神衛生的な意味でも。今ではティミーもすっかり女の子で、その上ずっと寮で別々だったからいざ同じ部屋で寝るとなると割とガチ目に緊張してしまう。
そこでだ、俺は近いうちにある事を決行しようと考えている。
「冒険者か……」
暖かな日差しの下、何かあればここに行くと定番になりつつある滝の場所に、丁度村に帰ってきていたハイリを呼び出し冒険者の事についてたずねてみた。今まで偏見の目でしかそれについて考えなかったので、ちゃんとした事実を聞こうと思ったのだ。
「確かに割と簡単に免許は取れるけど……」
「やっぱなんか大変なのか?」
「ああ、大変と言えば大変だ。上下関係とかもあるし、仕事だってけっこう土木工事とかの肉体労働が多い。ひと昔前だったら普通にやりがいがあったらしいけどな」
うわ、俺が想像してたのとかなり同じなんだけど? やる気失せるな。ただ最後に言った事はちょっと気になる。
「ひと昔前と言うと?」
「まぁなんだ、この大陸ってもうかなり開拓されてるのは知ってるよな。昔は秘境とか新たな資源とか見つけたら王から褒美とかもらえたらしいし、大陸には割と古代の宝物なんかも埋まってたりしてたらしくてよ。それで冒険者は生計立ててたって。俺が産まれた頃にはもうそう言った類の冒険者はほとんどいなくなってたけど、俺も昔に生まれてりゃあ冒険者やってただろうなぁ……ちょっと憧れるぜ」
ハイリがどこか遠くを見ながら目を輝かせる。
なるほど、確かに昔の冒険者は楽しそうだな。くっそ、誰が俺をここに呼んだのか知らないけどもうちょっと昔に……ああでもそれだとティミーとかと会えなかったのか……うん、やっぱ今が一番。
「なるほど……それで収入の方は?」
内容よりそちらの方が大事だ。まぁ肉体労働とは言え一応ある程度の魔術も魔法も使えるから元の世界のようなブラック企業程辛い仕事ではないに違いない。もちろん、ブラック企業どころか就活も経験してないから偏見だけどね? ただ俺がバイトで務めた事のある某ファミレスはお盆三が日は当然出勤、夏休みも八時間労働のフル出勤で、しかも自給700円の低賃金、そのくせしてたまにテストとかあって休みをとろうとすると店長は悪態をつき、先輩の前では常に笑顔を張り付けて置かなきゃ大変な事になるなど……とにかく酷かったからああいうのをブラック企業と言うのだと俺は思っている。
「んまぁ、依頼によるけど、だいたい報酬高い依頼ってランク高い奴しか受けられないし、あとたまたま良い依頼を見つけても先輩に仕事とかけっこう譲るらしいぞ?」
「マジか……」
うわぁ、こりゃブラック確定ですわー……。丁度昔務めたブラックファミレスの事を思い出してたらそれとほとんどどんぴしゃじゃないの……。
しかしまぁ致し方あるまいか。目的のためには。
「しっかしこの村に家を建てたいから金を稼ぎたいってなぁ……。なんなら作ったらどうだ? 親父にも手伝わせるぜ」
「いや、さすがのベルナルドさんでもそりゃ悪い」
「まぁそう言うんならいいけどさ……」
そう、俺は金を貯めてこの村に家を建てたい。そうすれば村から離れないでティミーとか村の人達とも交流を保てる。
「あ、そうだ、ちょっと待っとけ」
唐突にハイリが何か思い出したように立ち上がると、そそくさと腰のポーチから例の疎通石を取り出した。
「隊長応答しろ! 至急だ!」
隊長に対してその口調はなんですかねハイリさん。
『ど、どうした!』
数秒間を置くと、光を帯びた疎通石が慌てた様子のバリクさんの声が聞こえてくる。
「今団員って募集してたか!?」
『は? なんだ急に……』
「いいから答えろ!」
『まぁそうだけど……。あのな、この際だから……』
「サンキュー隊長!」
バリクさんの言葉を遮り一方的に話すだけ話すと、ハイリは通信を切ったのか疎通石の光が失われる。
ハイリみたいな部下を持ってさぞかし苦労なさってるんだろうな……。
「聞いてたよな? お前騎士団に入ったらどうだ?
「は?」
急にそんな事を言ってくるので我ながらまぬけな声を出してしまった。
「たぶんアキの実力なら余裕で入れるし、けっこうアットホームな場所だぜ」
アットホームってなんとなく嫌なイメージがあるんですけどこれも偏見?
「いやでもそんな事言ってもなぁ……」
仕事内容とかハードそうだし、組織だったらなおさら先輩後輩関係大変なんじゃないの?
「ふっふっふ……それは安心しても大丈夫だぞアキ」
俺の心中を察したか、ハイリはどこか含みのある笑みを浮かべた。
「先輩はだいたい優しいからな。そして何よりも……」
何故か次の言葉をもったいぶるので自然とゴクリとのどが鳴る。
「定期同額給与! つまり少々サボったり休暇を取ったりしてもちゃんと真面目な奴らと同じくらい貰えるんだ!」
「おお、マジか! 最高だな!」
……いや待てよ? ノリでああ言っちゃったけど、ハイリの言ってる事けっこう最低じゃないの? 要するに真面目な奴は勝手に働いとけって言ってるんだよね?
ただ、やはりその事実は魅力的ではある。ただ定額とはいえ、給料が安いんじゃマイペースに仕事ができる冒険者の方がよさそうな気もする。
「ちなみに給与の方はいくらくらい……」
「おう、最初のうち冒険者が一回の依頼でもらえる報酬を800エル前後として、それを毎日三回こなすとしよう。すると冒険者の月給はだいたい72000エル。対して騎士団に所属すれば下位騎士でだいたい200000エルだな。ちなみに功績によっては賞与金も得られる」
二十万……だと? そんなにも貰えるのか! しかも若干サボったり休暇取ったりしても! さらに頑張れば賞与金、つまりボーナスも貰えるだなんてどんなホワイト企業だよ!
これはもうやるしかないな……。
まぁそれだけじゃない、騎士団は犯罪者を取り締まったりしているわけで、もしかしてそういう調査など駆り出されればあかりに出会える可能性も広がるだろうとの考えの元だ。
「というわけでしてヘレナさん、俺もそろそろ自立したいと考えてます」
「なるほどね……」
善は急げという事で、早速この事をヘレナさんに報告する。念のためハイリも同席だ。
「別に私は全然かまわないのよ? このままずっといてくれても」
「いや流石に悪いですから」
「そう……」
「まぁヘレナさん、こいつも一端の男だ、ちーっとくらい格好つけさせてやったらどうだい?」
ハイリがどこぞの人情ドラマのセリフらしき言葉を吐く。劇とかこの世界にもあるし、たまたま人情物の舞台があってそういうのに影響されてたりしたのかなこの子? それとも素なのか……。
しかし軽く承諾してくれるかなと思っていたので、今の考える素振りは少し予想外だ。ヘレナさんという人は意外と楽観的な人で、ルーメリア学院に俺らを入れたのも、とりあえず丁度その歳で入れるしけっこう有名だからと軽い理由だったらしいからな。
「あ、アキ、ハイリ、探してたんだよ」
扉が開けられたと思うと、ティミーが何やら色々な草が入ったざるを持って突っ立っていた。たぶんティミーは薬学も専攻してたから薬草かなんかだろう。
「あれ? みんなどうしたの、何か話してたのかな?」
きょとんとするティミーをハイリが向かいにあるヘレナさんの隣の席に着席を促す。
「どうしたの?」
「まぁなんだ、ティミー。アキも男の決心をしてるところだ、よく話を聞いてやれ」
「う、うん……?」
とりあえずティミーにも俺が騎士団に入ろうと思う旨を伝える。
「アキ……」
まぁそうか、いきなりそんな事言われても……。
「だったら私も騎士団に入るよ!」
「は?」
本日二回目のまぬけ声を出してしまった。
新章開幕ですm(__)m




