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依頼

 次の日、俺とキアラとティミーの三人は教頭に呼び出されていた。

 校長の部屋で対峙する少年少女三名とスキンヘッドサングラス。客観的に見たらどう映るのだろうか。というかティミーさん大丈夫ですかね? さっきからとても顔を青くされて……。まぁ確かに分かるけどさ、この教頭、日本で言うやくざっぽい感じがするからな、俺もどちらかといえば怖い。


「チッ、まぁなんだ? おめぇらを呼んだのは今校長が出張中で代わりにその業務をまかされたからなんだけどな?」

「は、はぁ……」


 開口一番いきなり舌打ちときた。さらに高圧的な物言いだったのでついはっきりしない返事をしてしまう。

 てかなんなのこの人、雰囲気わっる……。進級試験の時もお立ち台に居る時こんな感じだからな。


「まぁあれだ、おめぇらあてに依頼がきてそれを伝えるために呼んだわけだ」

「あの、依頼ってなんですかー?」


 キアラが物怖じをした様子も無く陽気な声で質問を投げかける。ちょっとやめて! そんな態度取って内臓とか売り飛ばされたらどうするの!


「たまに来やがんだ。九年っていうのは並の人間より優れてやがるから一般人が頼み事とか持ちかけてくるんだよ。まぁ俺はめんどくせぇからいらねぇとは思うんだけどな? 校長が社会勉強がどうだとかで公にそれを推進してんだ。そのせいで書類とかほんと面倒くせぇったらありゃしねぇ……」


 怒りの琴線に触れはしなかったらしく、愚痴もまじってたような気がするが割と詳しく教頭は教えてくれた。


「んな事はどうでもいい、本来ならわざわざ説明するまでもねぇ別の九年に頼むんだけどな? 名指しで指定してくるもんだからほんとかったりぃったらありゃしねぇ」

「と言いますと?」


 キアラは相変わらずの様子だ。たぶん大丈夫だろうけど怒らせる事だけはやめてほしい。


「まぁなんだぁ? 依頼主はわざわざてめぇら、まぁ厳密に言えばもう一人いたが流石にグレンジャーを一般人のしょうもねぇ依頼に使うのは気がひけて断ったが……要はてめぇらにご指名の依頼が入ったんだよ。ああだりぃ、分かったらとっとと依頼主の所に行け? 校門の前で待ってるってよ」


 なんだその投げやりな言い方……。要はこの学院の九年生は部外者から依頼を受けることがあって、それを校長が社会勉強になると言って推奨。

 そして今回、何故か名指しで依頼をされ、教頭はそれを俺らの意思に問わず引き受けたらしい。


 いやまぁキアラとか、ミア、あと自惚れというわけではないが俺とかに来たのは分かる。何といっても闘技大会でけっこう目立った過去があるからな。でもティミーまで指名されるとは。確かにティミーは複属性の上に才能に溢れてはいるけどそれを部外者が知ることがあるのだろうか? これまでに三回あった光駕祭でティミーが複属性をひけらかせた事はないはずだし……。いやでも複属性ってかなり珍しいからけっこう噂になってたりするのか?


「わかりました! あの、最後にちょっと聞いてもよろしいでしょうか?」


 恐らく就活の面接など受けたら好印象を与えるであろう元気な返事だ。キアラさんはなんでこんなにも仕事に前向きなんでしょうね?


「チッ、最後だ。言え」

「仕事内容はついでとして、肝心の報酬とか……」


 なるほどそれが目当てだったのか……。てか仕事内容の方が大事だよね? なんでついでなの?


「あ? 何言ってんだテメェ、ガキの身分でそんなもんもらえるとか思ってんのか? ちっとは身の程を知れ。ちなみに仕事内容は知らねぇな」


 言い方がいちいちカチーンと来るな。しかも最後の発言とか何? 教頭の仕事内容すっかすかだな! なんでこんなのが教頭になれたのか不思議で仕方が無い……。


「あーそうですかー……ありがとうござまシター」


 先ほどまでの生き生きとした感じとは裏腹に、今ではすっかりキアラの目に生気が宿っていない。こいつもこいつでそこまで報酬大事だったのかよ……。いやまぁあった方がそりゃよかったけどさ。

 





 依頼主の居るらしい校門に向かう途中、キアラが先ほどからブツブツと文句を垂れ流している。


「学生だって人権あるんだと思うんだよねー」


 報酬がもらえる事=人権なのかお前は……。こうして教育させてもらってるのも人権と思う。


「だいたいあの人おかしいよね、スキンヘッドサングラスって今時流行らないよ!?」


 そもそも過去に流行ってないと思う。いや俺がこの世界に来る前の事は知らないけどさ? もし流行ってたら衝撃的だ。……流行ってないよね?


「ねぇアキどう思う?」

「別にどうも」


 いきなり話を振ってくるからつい正直に答えてしまった。ほら、俺って純粋な心の持ち主だからさ……。

 その反応が気に食わなかったのだろう、むっとキアラは頬を膨らませると、今度はティミーに話を振る。


「ねぇティミー、ひどいよねー」

「う、うん、そうだね」


 それに対しティミーは困ったような笑みを浮かべながら応答する。大変だなーティミーも。


「おおティミーは分かってくれるかぁ、どこかの誰かとは大違いで」


 キアラは非難がましい眼でジトーっとこちらを見てくる。はいはい悪うございました。

 そんなこんなで歩いていると間もなく校門が見えてきた。

 校門に到着すると、門の前で警備している衛兵の他に、そのそばで腕を組みながら門にもたれかかっている黒髪の男がいた。弥国人か? 顔はあまり見えないが、なんとなく雰囲気は十八、九だな。服装は極めて普通の下町の青年と言う感じだし……。


「お、到着のようだな」


 その弥国人と思われる男はそう言うと、俯き加減だった顔を上げてこちらに顔を向ける。若そうで、当初予想した通りの年齢の印象だ。

 するとその男の顔を確認しているうちに、何故か既視感の様な感覚が頭をなでる。

 この人どこかで会ったことあったっけな……。


「えっと、一応確認しとくけど、ティミーとキアラ、アキヒサでいいよな?」


 こいつ、俺はともかくティミーとかキアラを初っ端から呼び捨てなど馴れ馴れしい奴だ!


「その様子だと依頼主さんみたいですけど、少々俺らを子供だと思って侮ってるんじゃないですか? いきなり呼び捨てってのはどうなんですかね? 礼儀的な意味で」


 つい頭に来て喧嘩ごしな物言いになってしまった……。身体的には相手の方が年上なわけだし、ちょっとまずかったかな。


「他人の礼儀について言いたいならとりあえず剣から手を離そうぜ?」


 そう指摘されたので剣を見てみると、なるほど確かに手が剣を引き抜こうとしていた。ちょっと無意識なんだけどこれ……待って、サイコパスとかじゃないよね俺?


「それはまぁ、すみませんね」


 とりあえず剣から手を離し謝罪はしておく。


「これでお互い様」


 とここで、いつの日かの記憶が頭に映し出される。そしてさっきの既視感の正体に合点がいく。前にもこれに似たやり取りをしていたはずだ。二年前、初めての休日の時に。路地裏で薄暗かったけど確かにこんな感じの顔だったし……。


「待て、おま、もしかして食い逃……」


 言い終わる前に、素早くその男はこちらの懐に滑り込んでき、首に手を回してきて勢いよくしゃがまさせてくると、顔を近づけ(ささや)きかけてくる。


「やっぱ覚えてやがったか……とりあえずさ、衛兵近いんだからそういう事口にしないでくれる?」

「じゃあやっぱりあの時の食……」

「シッ、だから言うなって。礼儀とか全部こっちが悪かったって事にしてやるからさ、なんならタメでもいい」

「足りない、とりあえずティミーとキアラを呼び捨てにするな。なんか腹立つ」

「わーったって、そうするから言うなよ? な?」


 そんなやり取りをした後、俺達はさも何事も無かったかのように立ち上がる。


「え、えっと、アキ大丈夫?」

「ああ、問題無いぞ」


 ティミーが心配そうに問いかけてくるので極力あっけらかんと答えてみる。


「そう? ならいいんだけど……依頼主さんも大丈夫ですか?」

「ああ、全然問題無いぜ。そんな事よりあれだ、お前らたぶん依頼内容とか知らないよな?」


 上手い具合に話をそらしてくれた。と言っても別にそこまでやましい事はしてないけどね? いやでもこいつの食い逃げを隠蔽するって事は俺も共犯って事になるのか……。前言撤回、十分やましいな。


「そうなんです、うちの教頭と来たらひどくて!」


 キアラよ、まだ根に持ってるのか報酬の事……。まぁ教頭の態度も神経を刺激するものだったし、そうぷりぷりするのも無理は無いか?


「あー、あのおっさんいかにもやる気無さそうだったしなー、じゃまぁとりあえず仕事内容だけど……」


 キアラの言葉に同調すると、何故か無駄に言葉を溜める依頼主もとい食い逃げ犯。少し時間がたつと、おもむろに口を開く。


「ズバリ俺が頼みたいのは落し物探しだ!」


 ……何それ?


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