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決着


 雄叫びを上げるカルロスの手から多量の魔力弾が襲い来る。

 気付いた時には足が動いていた。右へ、右へ、ひたすら足を動かしその度に後ろからは灰煙が迫りくる、否、魔力弾がとどまることなく押し寄せてくる。

 

「止まってられねぇんだよォ! こんな学院ごときに留まってられるかァ!!」


 反撃するすべが見当たらない。しかもどんどん身体が動かしにくくなってきている。恐らく今までのダメージのせいでスタミナが削られてるせいもあるだろう。


「ちょこまかと逃げてんじゃねェ!!」


 カルロスは少し冷静さを取り戻したのか、俺の到達地点に先回って魔力弾がぶち込まれた。

 すぐさま走る足を抑制し、直撃は免れる。

 しかし動きが止まってしまった。隙有りとばかりに大ぶりの剣を携えたカルロスが猛進。


軽量(リヘラ)!」


 効果が切れていたので再度唱えると、思い切り地面を蹴り上げ、迫りくるカルロスの頭上を通って放置したままの剣を拾いに行く。

 剣を回収し、すぐさまカルロスのいる方に目を向けると、既にその姿がすぐ目の前に迫ってきていた。

 なんていう速さだ!


 見る間もなく繰り出された重い斬撃。間一髪剣で受けるも、手に電流が通ったのかと錯覚する。さらに同時、耳には騒がしい風の音。

 見れば景色が高速で過ぎ去っていた。

 軽量(リヘラ)の効果が相まって勢いよく飛ばされたらしい。


――――このままだと壁にぶつかって終わる。


 咄嗟に宙で身体を起こす。風圧に抗いつつ剣を地面に突き立てた。

 手には激しい振動。でもこれを離すわけにはいかない。

 執念だった。次第に伝う振動が少しずつ弱くなり、慣性になんとか抗いきる事に成功したようだ。観客を遮る壁まで紙一重。

 目の前には長い(わだち)(ほとばし)っていた。

 その線上をゆっくり歩いてくるカルロスが、激しく咆哮する。

 

「まぁだ生きてるとは上等だァ! いい加減くたばりやがれよォ?! テメェは十分強い、だがそれに勝つ俺はさらに強いのさァ!」


 目を真っ赤にさせながらも口角を大きく吊り上げ野蛮な笑い声が耳に届いた。

 どうすりゃいい……完全に奴の流れだ。あいつは許せない絶対に、だから潰さないと……。


「決めてやるよそろそろッ!」


 カルロスが言い放ち、その周りにはこれでもかという量の稲妻が顕現すると、引き千切ぎるような激しい断末魔が会場内に響き渡る。


 まずい、あれは何か仕掛けてくる、恐らく最上級どころの魔術。避ける事はたぶん、できない。だとすれば防ぐ以外に手立ては無い。でも唯一知っている炎属性の防御系魔術、フェルドクリフじゃまず防ぐことはできないだろう。


「そういえばもう一人七年が勝ちあがっててなァ?」


 キアラの事か。


「もしセミファイナルにそいつが勝ちあがってきたら俺がまたさっきと今回同様、打ち負かして俺が最強って事を知らしめさせてやるよォッ!」


 そうか、ここで負ければキアラも痛みを負う事になるのか……ミア同様に。

 させない、ふざけるな。そんな事があっていいわけがない。だったら勝たないと、奴を潰して……俺が。

 途端、激しい熱が身体を駆け巡る。これは魔力の循環だろうか?


「防御系魔術……」


 まだあったはずだ、炎属性のものが。それを再現しろ。


 深層魔術。創造(クレアーレ)。二年前、隊長にみせつけるため、ハイリが俺に魔術をぶっ放した時、ダウジェスが創造(クレアーレ)の説明のために魔術をぶっ放してきた時でもいい。思い出せ、無意識の中にも記憶は存在するはずだ。


 ダウジェスの時は周りを火が包み込んだ、ハイリの時は目の前に大きな壁ができた、それはさながら城壁のようで――――もしや、ハイリの時に発動した『炎の砦(イグニスフォート)』はフェルドクリフの上位互換みたいなものなんじゃないのか? だったら発動できない事は無いんじゃ?

 今、深層魔術はない、でも所詮それは同じ魔術の一括りでしかない。


 さぁ、フェルドクリフを大きく、もっと厚く、頭で限界までイメージ、ありたっけの魔力を流し込め。


「バラク=タドミール!!」


 カルロスの咆哮と共に、今まで音を立てていた稲妻が一気に収束。かと思えば刹那、一気に拡散し数百本はありそうな稲妻の群れとなる。宙に停滞するそれは俺を射止めんと標準を定めているようだ。

 しかしそれは一瞬だった。数百本の雷線がこちらへと、飛来。


炎の砦(イグニスフォート)!」


 ほぼ同時、咄嗟の詠唱。

 視界を遮るのは、紺色の絶壁。


 ついに稲妻は俺の元へ到達してくることは無かった。

 間もなく炎の壁は消え、目の前の視界が開けると、カルロスが呆然と立ち尽くす姿を捉えることができた。


 一歩、また一歩とカルロスの元へ歩み寄る。


「まさか、アレを防ぐだと……?」


 信じられないかカルロス、でもそれが事実だ。


「ハハ……ふざけんなよオイ……最強の俺が最強の魔術を放ったんだぜ?」

「おいカルロス」


 声を掛けるが、聞こえてないのかカルロスは無様に座り込む。


「嘘だ……嘘だろ?」


 なおもこちらを見ようとせず俯きながら呟く。


「うぬぼれるなよ? 自称最強野郎」

「なんだと?」


 ようやく反応したか。

 苛立たし気な声と共にカルロスがこちらを睨み付ける。


「お前さ、見ててホントにイラつくんだよな……」


 カルロス、その姿は昔の俺にどこか似ている。だからイラつく。


「お前さ、自分が神だとでも勘違いしてるんじゃないのか?」

「神、だと?」

「ああ、それにさっきから自分が最強だ最強だとかほざきやがって…… 挫折を経験したからそんな事言ってごまかしてるんだろ?」


 するとカルロスは地面に横たわる大ぶりの剣に手を伸ばすがやがて力無く元の場所へ手を戻す。

 体力の限界なんだろう。


「ごまかすだと? 挫折だと? そんな……」

「だったら!」


 言葉を遮るとカルロスが口を閉じる。

 そしておそらくコイツがこうなった根源であろうワードを提示する。


「どうして卒業してないんだ?」


 戦ってみても分かるがカルロスは他の九年に比べても群を抜いて強い。一応実力主義のこの学院にも関わらず、それでもなお卒業できてないのはおかしな話だ。何故卒業できないのか、たぶんそれは……


「失敗したんだよな? それから怖くて試験も受けてないんだろ? 失敗した時自分が傷つくのが怖くて逃げてるんだよな?」


 息をのむ音が聞こえた気がした。


「黙れ!! 俺は”神”だ、失敗? ハハ、笑わせんな! そんなわけないだろ!?」

「身の程を知れ!!」


 すると、そいつは急に興奮気味に声を荒げた。

 何を言いだすかと思えば……醜い。ヘドが出る。こりゃ俺より重傷かもな……いや、あるいは俺もこんな感じだったのか。

 剣の刃を自分の手首に当ててみた。まだ痛覚は生きてるらしい。

 改めて剣を握りなおすと、こいつの腿めがけて思い切りそれを振り下ろす。


「ぐっ……」


 苦しげな呻き声が耳に届く。

 

「痛いんだろ?」


 って、そうは聞いたけど別に興味なかったな……。

 そしてまた剣を振り上げ突き刺す。それを繰り返す。何度も、何度も。


「ほら、神様なんだろ? 痛くないよなぁ? そもそも痛覚ってお前が呼び覚ましたんだっけかぁ? ほら、痛いんだろ? その力で加護の力を復活させろよ、なぁ!?」


 もっと、もっと刺せ、ミアと同じ苦しみを……いやそれ以上の苦痛をッ!!


「ああそうだ、同じ場所だけじゃ面白くないなぁ? 今度は手でもいっとくかぁ! いやそのふざけた脳みそをぶち抜いてやるよッ! 潰してやるよ! 潰す!」


 破滅すればいい! 目の前の奴ら全員――――


「チッ、確かにその通りか……返す言葉もねぇよ」


 ふと目をあけると、座り込んだカルロスはどこか虚しそうに空を見上げていた。

 あれ? 今俺は何をしてたんだ?


「自分で言うのもなんだが、俺はなんでもそつなくこなせていた。ちょうどテメェらくらいの頃には既に八年になってたな」


 どこか投げやりに、もしくは何か重荷を下ろすかのようにカルロスが口を開きだす。


「それから大して時間もかけず九年になった俺は天才と人からもてはやされ有頂天になっていた。そんな中、俺は余裕かまして卒業試験を受けたわけだが……失敗した」


 あるよなそう言う事。俺もそれは元の世界で経験済だ。


「人は皆その歳だから仕方が無いだろう、九年になってるだけでもすごい、そう言って励ましてきたがそれは俺にとっちゃそれは自尊心を傷つけるだけの言葉だった」


 俺もそれは思い当たる節があった。うちの親も大学受験に失敗した時、高校はすごくいいところなんだからみたいな事を言って励ましてくれたが、当時の俺は屈辱を感じていた。我ながら馬鹿馬鹿しい。


「それでも次の年にリベンジしようと鍛錬したんだがまた失敗ときた。それで例のごとく人々は俺を励ましやがったんだ。そっから試験は受けてねぇ。お前の言う通り逃げてたのさ」


 やっぱり俺と似てる。俺もこいつのように逃げていた事があるから。

 まぁ、逃避の先にあったのは異世界転移、とかいう突拍子も無い事だったわけだけど。


 この世界では最強とも思われる深層魔術を手に入れて、やり直せると意気込み、その力と元の世界で培った能力で完璧に生きようと自惚れて、ハイリに怒られて。


「そうか、なぁカルロス。俺らはただの”人間”だよな?」


 訊ねると、カルロスはフッと弱々しく笑みを漏らす。


「ああ、悔しいがただの”人間”だ」


 人間だ、その言葉にちょっとホッとしたのは何故だろう。


「やれやれ、俺もこんなガキに説教されるとはまだまだだな」


 力無く言うとカルロスは空から視線をはずし、俺をしっかりと見据える。


「最強なんて称号があっても現状は変わらねぇ。さぁやれ、お前の勝ちだ。グレンジャーの件、悪かったな」

「ミアにそれは言え。俺に言うのはお門違いだ。もっとも俺は許す気なんか毛頭ない」

「そうかい、あぁ、それと花壇の件だが……」

「まだあんのかよ……」


 あのまま俺がとどめをさしたらなんか格好よかっただろうに……。てかやっぱり花壇の事心当たりあったんじゃないのかコイツ。


「聞いたのはテメェだろ? あれについては本当に俺は関与してねぇ。カーターの野郎が独断でやりやがったんだ。落とし前つけるために加護の効果を無効化させてボコってそれを伝えにいかせたんだが……学院をやめちまうとはな。やりすぎたかもしれねぇ」


 なるほど、小太り野郎、もといカーターは自分で言っていた通り本当に独断で花壇を荒らしたってのか。怯えた様子は痛みに対してだった、という訳か。

 まぁ今更嘘をつく必要も無いだろうから、たぶん本当の事なんだろう。


「ほら」


 カルロスが促すのでその胸に剣を突き立てた。


『なにやら話していたようですが……とにかく、ファイナル進出者が決定です! 次のステージに駒を進めたのはなんとあの可愛らしい七年生のアキヒサ・テンデル選手でーっす!』


 会場内を歓声が包み込む。そういえばあの情景は一体なんだったんだろう……。

 ってあれ、身体が重い。けっこうガタガタだったんだな。よし、寝よ。

 暗転。





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