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本戦

 光駕祭五日目にして最終日。本戦の火ぶたが切って落とされようとしていた。

 ミアとキアラが本戦出場を決定した後、二日間光駕祭をエンジョイし、とうとうクライマックスという感じだ。

 会場である編入生試験の時にも使ったこの闘技場は予選の時よりも随分と熱気が強くなった気がする。寮の皆といえばはりきって一番最前列の席に陣取っている。


『皆さん元気ですかー? 燃えてますかー?』


 きゃぴぴんとした声が会場に響き渡ると、観客たちもそれに呼応して歓声を上げる。


『さてさて、今年の本戦は今までとは一味違いますよー!? なんと今回本戦出場を決めた選手のうち三人が七年生という! しかもみーんなかわいらしい少年少女たちです!」


 可愛らしいかー……なんか複雑な気分だな。まぁミアとキアラは分かるけどね?


『とは言えあの方を忘れてはいけません、本大会二連覇チャンピオンにして優勝候補筆頭、カルロス・マルテル選手です! 今年はどのような戦いを見せてくれるのでしょーか!?」


 しかしカルロスは二連覇もしてるとは……。あの強さにも納得がいくってもんだ。

 その後、きゃぴるん司会者から簡単な選手紹介が行われると、会場のボルテージもかなり上がってきているようだ。


『さて、それではそろそろ、一回戦を始めたいと思います!』


 本戦は八人で行うトーナメント戦だ。トーナメント方式も普通のもので元いた世界となんら変わったものはない。俺とミアとキアラのうち誰かと初戦で当たるという事は無く、各自一回戦は別の人と対戦だ。

 ただ一つ気になるのがミアの対戦相手、カルロス・マルテルだ。何事もなければいいが……。

 

『それでは第一ブロックの両者入場でーっす!』


 おっともう入場らしい。第一ブロックは俺だ。とりあえずこれに勝たない事には始まらない。

 気を引き締めるため勢いよく立ち上がった。

 

 



 フィールドに出るとすぐに観客たちからの声に包み込まれた。これ学園祭のレベル超えてるだろ絶対。ルーメリア学院の凄さが見て取れる。


 さて対戦相手といえば……まぁやっぱり年上だよな。確かあいつはCブロックの……氷系統の魔術師か。ラッキーかもな。炎属性は氷系統には強い。

 

「がんばってねアキ!」


 ふとどこからか聞き覚えのある声が耳に届いた。……この声はティミーだ! 確か最前列のあそこらへん。


「おーう!」


 すぐにその姿を発見すると、ティミーがこちらに手を振ってくれていたので俺もそれに応じる。よし、やる気出てきたぞ! 

 その他にもアルドやアリシア、あとキアラの弟のコリンの姿も確認できた。コリンも何やら叫んでるようだがよく聞こえない。じゃあ何故ティミーの声が分かったかって? 愚問だ! 娘の声を見分けられない父親なんかいるわけないだろ!?


『それでは、両者出そろいましたので、これより一回戦第一ブロックを始めたいと思いまーっす!」


 おっとそろそろ始まるらしい。

 対戦相手の男をしかと見据える。


『それでは、はっじめ~!』


 相変わらず気の引き締まらない合図があると、相手は杖を構える。早速来るか?


「紺色だかなんだか知らないけど私の氷は溶けないよ。グラス・ヒュメ」


 そいつがそれを唱えると、おびただしい氷のつぶが俺の方へと襲い掛かってくる。

 中級どころの魔術か。僕の氷は溶けない、ねぇ。


「だったら、俺の炎はなんでも消しますよ? フェルドクリフ!」


 とりあえず目の前に簡単な炎の壁を作る。この人の言うことが本当なら貫通してくるとは思うけどまぁ致命傷は負わないだろう。どちらにせよ避けれるもんじゃないしこれくらいしかできないからな……口ではああ言ってみたけどちょっと不安になってきたぞ?

 だが心配とは裏腹に、その魔術は俺の元に到達することはなく全てフェルドクリフで防ぎきれた。


「ふーん、なるほど、これが紺色か……。やはり青のようにとはいかないようだね」


 なんだこいつ、ちょっと鬱陶しいな。


「だったらこれならどうだろう? グラシムプルスス」


 すると今度は大きな氷の塊がそいつ杖から発射された。流石にクリフじゃ厳しそうか?


「ケオ・テンペスタ!」


 今は剣があるおかげかすぐに上級どころの魔術を放つことに成功すると、炎が旋回しながら氷の塊に向かって唸り声を上げる。


「ほうほうなるほど、流石に本戦にきただけの事はあるというわけか。だったら……」

「いちいちモノローグ多いんですよ!」


 言いながら一気に間合いを詰め、一太刀にその鬱陶しい男を斬りつけようとする。ま、たぶん無理だけど……。


 しかし、予想とは裏腹に、なんと見事にその刃はヒットしそのままそいつは倒れて動かなくなった。

 え? これで終わりなの?


『え、えっと? し、試合終了でーっす! 勝者アキヒサ・テンデル選手!!』


 少し間を置いて。

 ようやく歓声が起こる。ただ少し控えめに。

そういや俺、苗字テンデルで通ってるんだな。まぁどうでもいいけど。


 無感動に素朴な事を考えつつ、二回戦までは時間があるので観客席で次のミアの試合を見ることにした。


「お疲れアキ、すごかったね~」

「お、おう」

 

 席に戻るとティミーは特に感動したという様子でもなくかといいどうでもよかったというような様子でもなくそんな事を言ってくれる。

 もしかしてすごいって色々な意味でですかねティミーさん。


「アキ先輩ぱねかったっす! あんなでっかい氷を一瞬で消し去るなんてありえないっす! というか自分初めて紺色みたんで超テンションあがりましたよぉ!」

「そ、そりゃよかった」


 最初は可愛い奴めとか思ってたりしてたけどずっとこのノリでいかれると割と疲れるんだよな……いやいいんだよ? 元気な事はいい事なんだけどね?

 ちなみにこれに勝った方が次の俺の対戦相手になる。ミアvsカルロス、案外ミアが勝ったりしてな。そうなると奴と話す機会を失う事になるがまぁ、その時は危険覚悟で接触するか……。


「あれ、そういえばアリシアは?」


 ふと周りを見るとその姿が見当たらなかったのでティミーにたずねてみる。


「アルド君がお手洗いにいったきり帰ってこないから、アリシアちゃんが探しに行ってくれたんだよ」


 ほんとだ、アルドの姿も無いな。え、別に忘れてたわけじゃないよ? ただ気に留めなかっただけだから!

 心の中でまったく言い訳になってない言い訳をしていると、少し妙な違和感が頭をかすめた。そういえばティミー今何て言ったっけ?


「アリシアが探しに行ったって?」

「うん、そうだよ? どうせ迷子でしょう、って言って行ってくれたよ」


 やっぱりそうなのか、ちょっと意外だったな。ほら、アリシアならあんなのはほっとけばどっかから勝手に湧きますとか言いそうなもんだが……なんだかんだで面倒見のいい子なのかもしれない。キアラの時もそうだったし。


「始まるみたいっすよ」


 コリンが俺の肩をトントンしてくるのでフィールドの方に目を向けると、ミアとカルロスがお互い目をそらさずに対峙していた。


『それでは、はっじめ~!』


 例の合図を司会者がすると、ミアが先だって攻撃を仕掛ける。あの炎の帯だ。


 炎の帯は素早くカルロスの脇を通過。急激な放物線を描いてリータンし、カルロスの背中へと猛進。

 しかしカルロスはそれを見越していたらしい、左方へ身体をどけ悠々と回避。


 ミアの元へ戻ろうとする紅い帯へ、あの大きな剣を叩きこむ。

 帯は宙に消え去った。

 

「あんなのよくかわせたっすねぇ……」

「流石二連覇しただけあるな」


 これには俺も感心せざるを得ない。実際戦ってみれば分かるけど、あのミアの攻撃はかなりのスピードが有る上、不意を突いてくる攻撃なので避けずらい。

 しかも、帯を一太刀で消し去るなんてできるものなのだろうか? 


 なおもミアは果敢に攻撃を仕掛けるが、不意に隙を見せてしまうと、剣の側面で殴られたか、こちらの方に身体を勢いよく飛ばされる。


「大丈夫か!?」


 思わず声をかけると、よろよろミアは立ち上がる。

 どうやら火で自分を包んで攻撃が当たるのを免れたらしい。身体に火をまとっている。ほんと自在に操るんだな炎を……。


「やっぱり強いわね……さっきからもて遊ばれてる気しかしないわ」


 ミアは背中越しで言葉に応じると、カルロスの方にしっかりと顔を向ける。

 すると、カルロスは一気にミアとの間合いを詰めると、それに対応しようとする何やら電撃を放ち、ミアの脇腹を思い切り蹴とばす。


 勢いよく地面に倒されるミア。何故かそのまま動かない。

 

 うずくまっている? 確かにヒットはしたけどあれくらいの攻撃ならまだまだスタミナには余裕があるはずだ。戦闘不能になる事はないはず……。


「ミア!」


 試しに叫んでみるがなんの反応も無い。もしかしてマヒか?

 それでも声は聞こえたのか、なんとか起き上がろうとするミアだが、いやらしく笑うカルロスは大ぶりの剣をミアの足に突き立てる。


「うぁぁっ」


 苦しそうにうめき声をあげるミア。


「ああ、満たされねぇ……確かに火の扱いは群を抜いてるようだがそれまでだなぁ? ああ弱い、弱い、当然俺には及ばねぇ!」


 カルロスはどこか興奮気味に言うと、ミアの足やらふくらはぎやらに何度も何度もその剣を突く。その度にミアは辛そうにうめき声をあげる。

 

「どういうことだよ……」


 これじゃあまるで、その剣がほんとに刺さってるみたいじゃないか。


「や、やめて……痛い、痛い……」


 小さく、懇願するようにミアがそんな事を呟きだす。

 痛いだって? どういうことだ? 加護に守られてるはずだよなここは?


「おい! なんかおかしい! 試合を止めろ!」


 何が何だかわからない俺は、とにかくこの状況がまずいと思い誰に言うとでもなく叫ぶと、周囲が少しだけざわつく。羞恥とか気にしてられるかよ!


「あのガキか……」


 カルロスはつぶやくと、ミアの胸に剣を一突きする。

 先ほどまで苦しそうにしていたミアだったが、刺された時を最後にふっと力が抜けたように動かなくなった。

 気を、失っただけだよな?


『決まりましたー! 一回戦第二ブロックの勝者はカルロス・マルテル選手!』


 周りが大きな歓声で包まれる中、俺の周りだけはしんと静まり返っていたような錯覚に陥る。



 

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