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初めての休日

「おお、いっぱいお店あるね!」


 キアラがはしゃぎながら飛び跳ねる。

 王都にある商業区。今いる大きなメインストリートの両脇には喫茶店や飲食店、たまに露店も出ていたりする。 酒場やら武具屋なども何軒か窺え、人も多く歩いており、非常に活気に満ち溢れた場所だ。勿論その他にもいろいろな店がある。ここならなんでも揃いそうだ。


「や、やっぱりすごいね……」


 制服の袖をちょこんと掴んでくるティミーはどうやら人の多さにまだ慣れ切ってないらしい。

 まぁティミーの気持ちも分かる。二年しか村で過ごしていない俺ですら最初この人の多さには驚いたもんだ。まぁ部屋に引きこもってた年数と合わせるとどれくらいになるのか知らないけどな! とはいえティミーのように十年以上も人の少ない場所で過ごしていたわけではないのでやはりティミーの方が慣れるのに時間がかかるのだろう。


 ちなみに学院内でもないのに何故制服なのかというと寮母のワードさんにその方がいいと言われたからだ。まぁ名門校だし、何かあるのかもしれない。


「おおおっ!? この匂いは!」


 キアラは目をキラリとさせ急に走り出す。


「ちょ、待てって!」


 慌てて追いかけると、キアラはとある露店で立ち止まった。


「おじさん一個くださいっ」

「あいよ~!」


 ティミーとアリシアで息を切らしていると、あっけらかんと手を振りながら戻ってくるキアラの手には串刺しされた魚が握られていた。


「いやぁ、どこにいってもこれだけは変わらんなぁ」


 などとおっさんみたいな事を言いながら美味しそうに魚にかじりつくキアラ。 鮎の塩焼き的なやつなのかな? こっちはいきなり走らされて疲れてるっていうのにあなたときたらとっても幸せそうですね……。というか朝飯食べてからそんな時間経ってないよな?


「太るぞ」


 少し抗議の意を込めてそう言ってやると、キアラは軽く頬を膨らませてしかめっ面になる。


「むむ、そんな事ないよ! 私は生まれつき太らない体質だからねっ」

「そうかい……」


 呆れ混じりに返事したつもりだが、そんな事は気にしないという様子でキアラは辺りを見回す。すると、何やら見つけたようでまた走り出す。……向かう先はまた露店らしい。


「待てよ」


 いくらなんでもはしゃぎすぎだ……。

 辟易(へきえき)しながらも追いかけようとすると、アリシアがそれを引き留めた。


「ここは私にまかせてください、とりあえず昼ご飯どきの一時頃にこの場所に集まりましょう。その時にはなんとかキアラさんも連れてきますので」

「いや、そりゃ悪いって」


 だってキアラのおもりだよ? あの様子じゃかなり苦労する事になるだろうに。


「大丈夫です、元々あまりしたい事もなかったのでティミーさんと回ってきてください。キアラさんがいると何かと動きずらいでしょうから」

「まぁそれはそうかもしれないけど……」

「私の事は気にしないでください、落ち合った後何をするかはその時に決めましょう。それでは」


 それだけ言うとアリシアは行ってしまった。ふむ、本当にまかせてよかったのか(はなは)だ疑問符だ。まぁしっかりしてる子だし大丈夫か。


「せっかくアリシアがくれた機会だし、とりあえずどっか行こうぜ。入りたいとこあるか?」

「え、えっと……」


 何故か少しあたふたした様子で周りをきょろきょろしていたティミーだが、やがてある建物で目線が止まった。目線の先を追ってみると、どうやらアクセサリー店のようだ。


「行くか」

「うん!」


 ティミーは目を輝かせて頷くと、俺の手を引っ張りアクセサリー店へ意気揚々と歩いていった。




 店は小さいものの、中に入ると落ち着いたオレンジ色の光に照らされておりなかなか雰囲気の良い場所だった。店には十字架の形、宝石のような形、様々な種類のアクセサリーがかけられたり置かれたりしている。


「すごい」


 ティミーが感動したように声を漏らす。ディーベス村にこんな店はもちろんないのでさぞかし珍しいのだろう。かという俺もこういう店は初めてなので若干感銘しつつもある。

 でもなぁ、こういうのっていくらくらいするんだろ? 万単位だったらどうしようかね……。値札とかあるのかな?


「あ、割とお手頃」


 アクセサリーのうち一つを見てみると紙がついており、そこには900と数字が書かれていた。この世界の通貨単位はエルだけのはずだから恐らく900エルでいいのだろう。

 他の物も手に取ってみたが高くても2000エルだったのであまり心配は無さそうだ。


「ねぇアキ、これ可愛いよ!」

「ん?」


 どれどれと見てみるとティミーの手には大きさのまばらなピンクに輝く石が連ねられたブレスレットがあった。それだけでも綺麗だが、よく見てみると凝ったことにその内の一つがハート形になっている。ちなみにお値段は800エルとなかなかお買い得な感じ。


「確かにいい感じだな」

「でしょ? アキも一緒の買おうよ!」

「え、これ?」


 まぁ確かに綺麗だが……ピンク色だとなんだかな。ハート型があるのもちょっと気になる。


「大丈夫だよ、ほら!」


 俺の心情をを察してか、ティミーはもう一方の手で色違いのブレスレットを見せてきた。

 青色か……まぁそれならいいか。


「わかった、買うか」

「やった~」


 会計を済ませると、早速それをつけたティミーは俺にも早くつけろと促してくる。


「わかったって」

「えへへ、アキといっしょだ」


 言われるがままにブレスレットをつけると、とても嬉しそうな笑顔を見せ上機嫌な様子のティミー。

 ちょっと気恥ずかしいけどもまぁかなり嬉しそうだし、良しとしますかね。あとこれをつけた時に魔力が少し上がった気がするのはRPGゲームのやりすぎかな……。




 集合まではまだ時間があったので、適当に店を覗いたり歩いていたりすると、ふと俺の目を引き付ける露店を発見した。


「悪い、ちょっと待ってくれティミー」


 ティミーには少し留まってもらう事にし、露店に目を向ける。

 その露店はどうやら中古品を扱ってるようで、がたいの良い店主と思しき男の後ろには少々汚れているものもあるが剣や槍など色々な武器が立ち並んでいた。


 あれなんだよ、剣術応用を受けてる奴らってみんな自分の剣持ってるからけっこう羨ましかったんだよな。まぁ筋力が無いからいつも借りてるのは軽い素材で作られた竹刀のようなものだし、持ってても仕方ないんだろうけどやっぱりほしいだろマイソード。扱えなくても(たずさ)えるくらいならできるからさ。


「お、ルーメリア学院の生徒ですかい?」

「はい、まぁそうですね」


 制服を着ていってるのでそれで分かったのだろう、店主の男が話しかけてくる。


「ちょうど良かった、おすすめの品があるから少々お待ちください」


 そう言いその店主はごそごそとカウンターの下から少し装飾も施されている立派な剣身の片手剣を取り出してきた。おお、これはかなりかっこいい。


「宙に舞う髪の毛ですらも斬れてしまう切れ味が申し分ない品で、極めつけは十二、三の子供でも片手で扱える軽さ。なかなかの業物(わざもの)でして丁度坊ちゃんにぴったりかと」


 うわなにそれすげぇ、これは買いだな! でも気になるのは値段だ。某竜のクエストとかなら数万あれば最上級武器とか買えちゃったりするけどもしやこれもそれくらいすごい装備なのでは!


「ちなみにいくらですか?」

「そうですなぁ、本来ならそこそこの値段がつくところですがねぇ」


 焦らしプレイはよくないぞおっさん! さぁ早く!


「三割引きの350000エルでどうですかい?」

「え?」

「ですから、三割引きの350000エル」


 顔に笑みを浮かべながらもみ手をする店主。


 ふざけんなよこいつ……割り引いて三十五万とかどういう神経してんの? いや待て、そういやルーメリア学院ってミアみたいな貴族の子供がけっこういると聞いたな。なるほど、そういう事か。つまりルーメリア学院に在籍してるだけでこっちは良いところのボンボン扱いされるからワードさんが制服を推奨したのか。ハハ、でも残念ながらまったく意味を成してないですよ……。


「あの、すみません、親からお小遣い止められてるんでもっと安い物を……」


 流石にその値段は無茶すぎるので、もう少し安い物が無いのかとそう聞いてみる。

 あとちゃっかりお坊ちゃんのフリをしてみたけど気にしちゃ負けだからな。嘘も方便という奴だ。


「ふむ、ではこの軽めの剣はいかがですかい?」

「お値段は」

「30000エルでございますぜ」


 さっきよりは幾分かマシになったがまだ高い。くそ、予算はなんとしてでも5000エル以内には収めたい。


「もっと安い物を……できれば5000エル以内で」

「5000エル以内……まぁそうだな、これとかどうだい?」


 そう言ってその店主が示してきたのはかなり古そうなサビてる剣だった。土っぽい汚れもついている。

 うわぁ、これすぐ折れそうなんだけど。あとなんか態度が変わった気がするけど気のせいだよね?

 

「流石にそれはすぐ折れるのでは……」

「まぁ何回かこれで畑耕したことはあったが一応今の今まで折れてないから大丈夫なんじゃねぇか?」


 剣で畑耕したのか! だから若干土がついてるんだね! ……なんでそんな発想に至ったのかが驚きだわ。というかコイツあからさまに態度変えて来てやがったな。


「で、買うの? 買わないの? まぁこれなら200エルで売ってやるから。ほら」


 ぶっきらぼうな表情でその古びた剣をカウンター上に投げる店主。

 やべぇ今すぐ殴り飛ばしたい。だが我慢だ我慢。まぁそうだな、うん。200エルならかなりお買い得だよね。なんか洗って磨けばいけそうな感じもするし! ……どうせすぐ壊れるだけだろうけどまぁいい記念に買っといてやる。


「毎度ー」


 気の無い挨拶を背に受けながらもまたティミーと適当にぶらぶら歩いた。








十万文字突破

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