???
周りを見れば一面灰色の景色だった。
ここはどこだろうか。
俺は一体ここで何を?
記憶を脳の奥から掘り返してみる。
確かトラックにひかれて、それから異世界に来て色ん人に出会って人生をやり直していたところ……。
やり直し、か。
ああそうだ思い出した。俺は全てをやり直したんだ。堕天使に敷かれたレールをあたかも自分の人生のように歩んでその果てに大切な人を失い、そして世界を滅ぼす道具へとなったのだ。
だからこそ俺はその元凶を絶ち、俺と言う存在を抹消した。世界をあるべき姿へと戻すために。
あいつは確かにこの手で葬り去った。だからきっと今頃みんなはそれぞれの人生を歩んでいる事だろう。願わくばその姿を見届けたかったが、まぁ仕方ない。俺はそこに存在しえない人間となったのだから。
でもよく考えれば妙だな。だとすれば何故俺はかつての記憶を持ったまま今ここにいるんだ?
俺が成した事は時空改変だ。世界を滅ぼそうと目論み、何より俺を転移させた張本人を過去に戻って滅ぼしたのだ。
つまり俺がもし生きていたとしても異世界での記憶なんてあるはずがない。タイムパラドックスというやつだ。もしそこに俺が居たとしてもそれは現実世界でどうしようもない人生を送ってどうしようもない死に方をしてそれで終わる俺でしかないはずだ。
分からない、一体何が起こっているんだ?
「こんなところにいたのか君は」
不意に、女性の声が聞こえる。
「誰だ?」
尋ねると、目の前に光の球が出現する。
「私はね、とある世界を作った神だよ。その世界ではロサ、と呼ばれているね」
「ロサ……」
ああ確かこの世界を創ったって言う神か。ダウジェス……ジュダスが忌み嫌ったその名前は俺の記憶にも確かにある。
「その神が一体何の用だ? 今頃出て来て」
ほんと、今更だ。あの世界とは俺が転移した世界だろう。その世界が滅びるという時もこの神は何もしてくれなかった。
「君がそう言うのも仕方ないだろう。しかしすまないね。神は自ら創り上げた世界も他の神が創り上げた世界にも直接干渉することはできない。できてもせいぜい預言者を選んで言葉を託す程度の事だけだ。故に守りたくても守れないのだよ私の力では」
随分と言い訳を並べられたような気もするが、流石にそう思うのは俺の心がやさぐれてるだけか。
「そうかい。神ってのも不自由なもんなんだな」
「ああその通りだ。神は残念ながら君たちが思っているように万能ではない」
まぁ今更どうでもいい。世界を滅ぼす元凶は俺が絶った。図らずもこの神の手伝いをしたことになったわけだ。有り難く思ってもらいたいね。
「そうだな。私の世界が存続されたのは君のおかげだ。その事については感謝している」
心の声はどうやら丸聞こえだったらしい。まったくプライバシーもへったくれもないな……。
「それで、わざわざ感謝を伝えにあんたはここまで来たっていうのか? まぁここがどこかは知らんが」
「そうだね。否定はしないよ」
そりゃ随分と律儀な神様だな。
「だがそれだけではない。簡単に言うと、お礼をしようと思ってね」
「お礼ね。五千兆円でもくれたりするのか? 世界を救ったんだからそれくらい貰ったって罰は当たらないだろう」
投げやりに言うと、ロサはつつましやかに笑い声を上げる。
「ふふっ、円とは君のいた世界にある日本の通貨単位だね。本当にそれを君が望むのならそれも吝かではないが、それだけの大金消費する事は出来ないだろう。それも一円ですら」
「ごもっともだな」
こんな灰色の世界じゃ全てが意味を成さない。
「それで、大金が無価値と来たら何でお礼してくれるんだ? 期待はしてないけど聞いておく」
「ああ。それはね……」
もったいぶるように言葉を区切られる。目の前にいるのはただの光の球だが、何故かそいつはその間を楽しんでいるような気がした。
「君を天使として私の所へ迎え入れようと思っているのさ」