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イクリプス

「いやぁ、にしても助かったぜあの時は!」


 酒の入ったジョッキをカウンターに叩きつけながら、ハイリはダウジェスの背中をバシバシ叩く。


「いえいえ、多少その手の心得があったので」


 ダウジェスはそれにまったく動じた様子もなく、相変わらず柔和な笑みをたたえたままハイリに応答していた。例のごとく放浪していたダウジェスがたまたまこの集落に来たらクーパーさんにあんたもどうだと誘われてここにいるらしい。

 ちなみにハイリの言うあの時、というのはハイリが一年前に記憶を失くしていたのをダウジェスに取り戻してもらった時の事だ。正直それについては完全には信じ切ってなかったが、どうやら本当の事だったらしい。


「それで言えばダウジェス、お前なんで俺の居場所分かったんだよ……」


 結果的にはシノビをハイリが一掃してくれたから助かったわけだけど、やっぱり俺の居場所が常に知られてるのだとすれば気持ち悪い。相手がダウジェスならなおさらだ。


「それはアキヒサ君が私の監視下に常に置かれているからですよ」

「は?」


 思わず間抜けな声がでてしまった。

 ハイリやティミーもまたきょとんとしている。


「冗談です。魔力とは常に世界を流動しているもので、それは風と共に運ばれてくるものなのですよ」

「だよなぁ! ったく、あんたおもしれぇ奴だなぁ!」


 またしてもバシバシと背中を叩くハイリをティミーが軽く呆れた様子で眺めている。

 表情変えずに冗談言うとこあるからなこいつ……。寒いとかそういうツッコミすらできないんだよな。

 それはそうとこれ完全に答え濁された気がするんだけど本当に大丈夫なのか?


「そういやあんた吟遊詩人なんだよな? なんかひいてくれたりしねぇか? 金ならちゃんと渡すぜ! 適当にごまかして必要経費で報告すれば騎士団が出してくれるからな!」

「だ、駄目だよハイリ」

「もうほっとけティミー」


 またなんかせこい事考えてやがるなハイリの奴……。こんなことばっかしてたらいつか絶対クビになるぞ。とりあえず俺の世界ではまずやってはいけない。でもまぁどうせ責任を背負うのはこいつなわけだし、もう知らん。

 まぁそれに? 大目玉食らう時のハイリの姿を拝むのもまた一興だろうしな。


「それもそうですね。この場ですし、歴史についてでもいいですが、今日は趣向を変えて神話でもお聴かせしましょう」

「おお! やってくれるのか! おいお前ら! 吟遊詩人様が詩を聴かせてくれるってよ!」


 ハイリが叫ぶと、他の男は既に酒が回っているのだろう、どっと沸きあがりスタンディングオベーションだ。


「それでは『天獄戦争-堕天-』をお聴きください」


 どうやら天獄戦争を詠んでいくらしい。まだ全部は読めてないけど、確か次が堕天の章だった気がする。

 ダウジェスは天獄戦争の大まかなあらすじを語り終わるとリュートを構え、耳に心地の良い音で演奏し始める。


「その天使シュダフェル、ついに女神ロサが前に破れたり。咎につき名を失いてジュダスと改めん」


 透き通った声で語られるのは天獄戦争の丁度女神ロサにジュダスが敗北したところからで、丁度俺が読み終えたあたりからだった。


 内容は、罰として名前を失いジュダスとなった元熾天使シュダフェルは天界からつまはじきにされ堕天使となり、天界とは対となる存在、罪を犯した人間の魂を浄化するために存在するという冥界へ落とされるが、そこで天界に復讐しようと地力を蓄えようと試みたものの、結局また敗北して永遠に封じられるという哀れな末路を描いたものだった。俺が読む天獄戦争では堕天後のジュダスという名前しか出ていなかったのでシュダフェルというのは初耳だ。


 やがて物語が終わると、拍手喝采の中ダウジェスへ貨幣が投げられる。

 ダウジェスの物語りの余興もあったことからか、まずます酒場内は盛り上がると、いつの間にか陽がかなり落ち込む時間となっていた。


 流石にうるさい中にずっといるのは疲れたので、息抜きに外に出て散歩でもすることにすると、広がる荒野の先、誰かがこちらにゆらゆらと歩いてきているのを見つけた。


 何を思うでもなくその先を見続けていると、どうやらその人は白いローブに身を纏っているという事が分かると同時に、俺の脳裏にはあいつの姿が反映された。

 そしてよく見ればその背中には紅い槍。


「まさか……」


 思わず声が漏れると、俺はその人影の方向へ近づく。

 顔が伏せられてたので遠目からでは分からなかったが、近づくにつれてその顔も確認する事が出来た。


「キアラ……!」

 

 傍まで駆け寄り肩に手をのせると、虚ろな目がこちらへ向く。

 今思えば浅はかだった。再会できた嬉しさに我を忘れて飛び出してしまった事は。


「人……」


 キアラが呟いた刹那、紅い閃光が縦にきらめいた。

 咄嗟に身体を反らすが、左肩に凄まじい熱が(ほとばし)る。

 俺はすぐさま後方に跳躍、間合いを取る。前に目を向けると、キアラが夕焼けの中、血の滴る槍を構え佇んでいた。

 


ここからちょっと急展開になるかもしれませんのであらかじめ謝罪しておきます。

できるだけ気をつけますが、申し訳ありません<m(__)m>

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