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二人の冒険者

 カルロスは卒業後、カーターの元に行き、謝罪し、共に冒険者となる事にした。

 最初こそまた何か色々されるのかとびくびくしていたカーターだったものの、長い月日が経つにつれて次第に打ち解け、最近では普通の友達として過ごしている。


「なるほど、まぁそれはよかったですけどカーター先輩、花壇の件、思い出したら今でも腹が立ちます」

「そ、それは……ほんとにごめん」

「でもまぁ、肝心のティミーが許してたみたいなんで、これ以上は何も言いませんけど」

「そうしてくれると助かる」


 まぁ過ぎた過去をぐちぐち言っても仕方ないのは分かっている。一応忘れないよう念のために言っておいた。

 カルロスとカーターに遭遇し、あちらから誘ってきたので晩飯を共にしている最中。

 とりあえず二人が何故一緒にいるのか聞いてみたところ、そういう事だったらしい。ついでに花壇の件はカーターの独断という事だったが、再度聞いてみてもカーターの独断という事に偽りは無かったようだ。

 まぁとにもかくにも丸く収まっていたようで少しホッとしている。


「にしてもさっきから気になってたんがテンデルよぉ、なんでそんなボロっちい布きれなんか纏ってんだ?」


 カルロスがいぶかし気にこちらを見やる。

 カルロス・マルテル。今こそ敵意は無いものの、元はマルテル家の人間であり、昔の事もある。

 ここはとりあえず騎士団については伏せておいた方がいいだろう。


「悪かったですね旅着のセンスが悪くて。でも案外砂避けとかになりますよ」

「そうかい。つーかテメェ、なんで今更敬語なんてつけてんだ? 気色悪ぃ」

「一応年上なんで……」

「いらねぇよんなもん。なぁカーター?」

「まぁ、別に僕は外してもらっても構わないけど」

「だったら遠慮なく外すけど」


 にしても本当に仲がいいって感じだよなこいつら。昔のカーターなら肩をびくつかせてひっ、そ、そうですねボス……とか言いそうなもんなのに。

 まぁとは言ってももう何年だ、二、三年経つよな。それだけあれば溝も完全に埋まるんだろう。同い年っぽいし。

 感慨深げに二人を見ていると、少しの間沈黙が訪れた。

 やがてカルロスが酒を少々煽った。


「学院の件、災難だったな」


 不意打ちだった。

 突如カルロスからその言葉が発せられる。

 途端、心臓が大きく波打ち、吐き気と頭痛に見舞われるも、なんとか言葉を絞り出す。


「まぁ、な……」

「一応あそこは母校だ。隣国にいなけりゃ助けにいけたかもしれねぇのに。悪かった」


 カルロスにも、そんな心があったのか。


「襲ってきた奴らはなんだったか、目が光るんだったな、い………ど――――し…み――だ……」


 あれ、聞き取れない。

 カルロスが何人だ……。いや違う、景色が歪んでるのか? なんで。


 キィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイン。


 耳鳴り、暗転。



 *       *        *



 またここか……。

 周りに吹き荒れる紫色の嵐。飛び交う黒の物体。

 今は立っているのか、浮いているのか、はたまた、堕ちているのか。


「これは……か、―――のか?

「み…いだ。でも――い……肌で感じる―――て」

「……。でも俺を―――時のこい………力は――じゃ………た。一体――――――なんだ」

 

 何かが聞こえる。男と男が話している声だ。でも途切れ途切れで何を言ってるのか理解できない。

――――刹那の閃光。視界が真っ白に染まる。


「ッ……!」


 咄嗟に身を起こす。


「うお」

「……消えた」


 声の方を見ればカルロスとカーターこちらを見ながら立っていた。どこか恐れ、いや驚愕だろうか? 何とも言えない表情をしている。

 とりあえず周りを見てみる。どうやらここはもう酒場じゃないらしい。


「ここは?」

「あ、ああ。俺らが泊まる宿だ」

「そうだったか……」


 何を思うでもなく視線を下に落とすと、ベッドの上らしいという事と、もう一つ、大変な事が判明した。


「しまっ……」


 思わず声を漏らすと、カルロスがそばのソファーにどっさりと腰を下ろした。


「騎士団だったんだなテメェ」


 やっぱりばれていたか。最悪こいつらとの交戦も考えておいた方がいいか。剣の位置は……ベッドに立てかけられてる。まだ間に合う。


「ああ、お尋ね者の騎士団さ。で、お前らは俺を王国に引き渡すのか?」

「ひっ」


 咄嗟に剣をとりカルロスののど元へと突きつける。仮にそうだとすればこいつの命は無いと。


「ま、待てよ、んなつもりはねぇよ馬鹿!」


 カルロスが軽く身を乗り出す。

 どうやら本気で焦っているらしい。まぁ剣があればなんとでもなるか。てかここまで警戒する必要ないよな俺。

 とりあえず拘束を解いてやると、ふうとカーターが息を零す。

 それを確認し、ったくよぉとカルロスはソファーへ深く腰掛けた。


「そういえば俺はなんでここにいるんだ?」

「急に倒れたんだろうがテメェが。わざわざ連れてきてやったのにあぶねぇ事しやがって」

「悪い……」


 さっきはなんというか、殺られなければ殺られるみたいな強迫観念に襲われてしまして……。低血圧なのかな俺。レバーとか食べた方がいいのかもしれない。


「にしてもお前、魔力どんだけ持ってんだ」

「は?」


 カルロスが唐突に聞いてくるので思わず聞き返す。


「さっきテメェが寝てる時、目視どころか肌で感じさせられるくらい魔力があふれ出てたぞ」

「魔力が?」


 横でカーターも深く頷き肯定の意を示しているらしい。

 寝てる間にそんな魔力が漏れ出してたのか……。何があったのかはしらないけど、まぁ今は元気だし問題ないか。にしても俺ってけっこう魔力量多いんだな。なんかテンション上がる。


「ま、俺を(くだ)すくらいだ、当たり前かもしれねぇが」


 カルロスは呟くとさてと言って、傍にかけてあった正体を隠すためのぼろきれをこちらに投げてよこしてくる。


「その調子なら元気そうだしとっとと出てけ。別に俺らは慈善事業屋じゃねぇんだ。今ならまだどっか別の宿にでも入れてくれるだろうからそっち行け。三人分の宿代なんざまっぴらごめんだ」

「ああ悪い。でもなんでお前らは俺を王国に突き出そうとしないんだ? たぶん賞金とかも貰えるんだろ?」


 別に捕まえてほしいわけじゃないが気になったので聞いてみると、しばらくカルロスは黙り込んだ後、口を開いた。


「臭うんだよ。今回の件は」


 今回の件、恐らく王都の事だろう。


「まぁ確定は無いからまだ言わねぇがな。……ただ、たぶん俺自身で片づけるべき事がある」

「ほう」


 カルロスも何か今回の王都騒乱の件については思うところがあるらしい。

 俺も気を引き締めていかないと。


「それじゃそろそろ行く。今回は助かったよ、案外いい奴だなお前ら」

「うっせぇよガキ。思う所が何もねぇならテメェみたいな野郎とっとと王国に突き出してんだよ。金は欲しいからな。せいぜいその悪運を大事にしておくんだな」

「そうさせてもらうよ」


 ドアまで歩き取っ手を握った時、後ろから声がかかった。


「言っとくがまだ俺は最強を諦めちゃいねぇ、現段階ではテメェが俺の中の最強だ。それを打ちのめして最強を名乗ってやるよ。まぁお互い片づける事片づけた時にまたやりあおうや」

「それは随分と買いかぶられたもんですね。先輩方、またどこかで会いましょう」


 かしこまって言っておくと、カルロス達の部屋を後にした。

 

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