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その頃豪邸内ではダイニングルームに集まった6人で相談が行われていた。
「怖いよ。あの合田という刑事」
日向沙織が呟くと長谷川は女の右肩に触れた。
「大丈夫だ。刑事さんが言っていただろう。証拠は防犯カメラの映像しかない。あの車を今から破壊すれば、唯一の証拠がなくなる」
「本当にそうでしょうか。証拠はもう一つありますよね。そのミスを長谷川さんが起こしたとしたらどうでしょう」
「俺が何をした」
「根拠はありません。ただ車の所有者だけで櫟井さんを犯人だと疑うとは思えません。合田警部は防犯カメラの映像って言っていましたよね。そのカメラには2人組の男が映っていた。一応確認してみましょうか」
野々原はテレビのスイッチを付ける。テレビのニュース番組が都合よく始まる。そのニュースはトップニュースだった。
『東都西公園死体遺棄事件に関して、警視庁は現場となった公園の防犯カメラの映像を公開しました。不審人物の目撃証言がありましたら、警視庁に連絡してください』
その防犯カメラの映像はニュース番組でも流れた。野々原がテレビのスイッチを切ると、彼は解説を始める。
「あの映像には2人組が映っていました。あの防犯カメラの映像から車両ナンバーを特定したのなら、2人組の不審者の顔も解析できるはずです。そして長谷川さんは先ほど合田警部に出会ってしまった。長谷川さんの顔を彼が覚えていて、鑑識で解析した2人組の顔写真と酷似していると証言したら、あなたも疑われますよ」
容疑が迫っていると知り長谷川は脅える。
「そういえばあの夜、気を落ち着かせるためにコンビニでタバコを買った。そのコンビニの防犯カメラの映像と照合すれば、確実に俺は容疑者になる」
「その時のレシートはどうしましたか」
「捨てたよ。タバコを購入したコンビニのゴミ箱に」
「それは困りましたね。そのレシートにはあなたの指紋が付着しているでしょう。それも証拠になりますよ。あの夜現場の近くにいたという証明にね。でも大丈夫。ここは僕に任せてください。こちらには切り札がありますから」
野々原は5人に言い聞かせると、ダイニングルームから出ていく。彼はダイニングルームのドアの前で携帯電話を取り出した。
(捜査一課3係が真実を解き明かす前に何とかしなければ)
「あの」
野々原の背後には日向沙織が立っている。
「何でしょう。日向さん」
「私とどこかで会いませんでしたか」
その質問を聞き野々原は頬を緩ませた。
「僕は今日初めてあなたに会いましたが。そういえばあなたの顔は衆議院議員の田中ナズナさんに似ていますよね。もしかして姉妹ではありませんか」
「他人の空似かもしれませんよね」
日向沙織はメイド服のポケットから一つの鍵を取り出す。
「本当は私、自分が誰なのかが分からないんですよ。この鍵は砂浜で倒れていた時に持っていたそうです。お嬢様に保護されていなかったら、今頃私は死んでいた。だから今度は私が……」
日向沙織は涙を流しながら、額を右手で触る。
「素晴らしい覚悟ですね。その覚悟があるのならお嬢様を守ることもできるでしょう」
野々原は日向の右肩を触り、彼女を元気づけた。そして野々原はその足で男子トイレに向かう。