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2013年2月3日。午後11時。一人の中肉中背の坊主頭の男がある豪邸を訪れた。59歳の男の名前は岡野友則。
彼の訪問から15分後、豪邸に悲鳴が鳴り響く。悲鳴の主は水色のメイド服を着た30代前半の女。日向沙織。日向の隣には若手二世議員の松本叶がいる。悲鳴を聞き、赤色のニット帽を被った男、口髭の男、白ひげが特徴的な50代前半の男の3人がその場に駆けつける。
「何事ですか」
白ひげが特徴的な50代前半の男、相川龍が日向沙織に聞く。
「お嬢様がお客様を殺しました」
日向は階段を指さす。そこには大量の血を流して倒れている岡野の遺体があった。
「お嬢様。なぜ殺したのですか」
口髭の男、櫟井連は松本叶に質問する。
「殺すつもりはなかった。あいつが妙なことを言ったから、突発的に階段から突き落とした」
「どうしましょう。警察を呼びますか」
日向沙織が携帯電話を取り出すと、赤色のニット帽を被った男、長谷川真が彼女の腕を掴んだ。
「ダメだ。警察を呼んだら、お嬢様が逮捕されてしまう。それだけは避けなければならない」
「どうするのですか」
「捨てればいいだろう。あの遺体をどこかに埋める。それもお嬢様と一切関係ない場所に。そうすればこの館から遺体が発見されない。遺体が発見されなければ、殺人を隠蔽することも可能だ。兎に角俺は長谷川とこの遺体を捨てに行く」
その櫟井の発想は突発的なものだった。計画性はないが、相方として長谷川を指名したのは、彼がこの豪邸で庭師をしているからである。何かを埋めるのには最適な相方だ。
櫟井の仕事は運転手。櫟井はこの街の地理に詳しい。遺体を捨てるのに最適な場所を知っている。この2人が遺体を捨てにいくことに残りの3人は反論しなかった。
櫟井が岡野の遺体を寝袋に詰め、出ていくと松本叶は携帯電話を取り出し、ある人物を呼び出す。
「頼みがある。今すぐ豪邸に来て」
『分かりました。僕もあなたに用があった所です』
日付が変わり、2月4日午前0時45分。長谷川は気を落ち着かせるため、コンビニヘブンマートに来店する。
「いらっしゃいませ」
レジの店員があいさつすると、長谷川は一目散にレジに向かう。
「エックス・マイルド。一箱くれ」
長谷川は挙動不審な態度で財布から小銭を取り出す。その映像は防犯カメラに映っていた。そして長谷川はいつものクセでレシートをコンビニのゴミ箱に捨てた。