体育祭と体調不良
「どうしたの、ナツ。なんかテンションおかしいよ」
「ええー?そんなことないって絵里子ちゃん!あたしいつも通り元気じゃない?」
「……いや、そうかもしんないけど……うーん」
「あああ今日は美園さんも応援合戦出るんだよね!たっまんねえよもう楽しみ過ぎて実家からカメラ送ってもらったんだぜ、どうよ!?」
「あっごめん気のせいだったかもしれないわ。いつも通りヤンキーが顔のぞかせてるわ」
「やべー楽しみ過ぎて操作方法ちゃんと聞いてねえ……まあシャッター押せば撮れんだろカメラだし……」
「聞いてないね元ヤン」
「あ?なんだ?」
「別に?」
実は生理痛重い方です、蒲原です。
まさか体育祭当日にこんな状態になるなんて。ちなみに、現在進行形で頭痛と腹痛に苛まれている。おとといまで天気の心配をしていた自分にラリアットでもかましてやりたい気分だ。汗ばむ陽気に一人だけ冷や汗をかきながら、あたしは朝から校内を駆けずり回っている。
薬は飲んだし血の量が多いわけじゃない。ただちょっと体育祭前に不備やら問題点やらが上がったところを数日前からほとんど寝ずに手配していたから、寝不足でちょっといつもより痛いだけだと思っている。相変わらず鋭い絵里子ちゃんをかわしつつ、普段の言葉づかいが思い出せなくなりながらもカメラをいじくっていると、急に現れたジャージ姿のアンリちゃんに勢いよく肩を組まれた。
「やっほ、なっちゃん!いいもん持ってるね!ちょっとアンリにかしてごらん?」
「うわあおはようアンリちゃん!しかし今日ばかりは渡すわけにはいかねえぜ、電池が限られてっからよ」
「えっ、なにどうしたの?極悪非道に拍車がかかってるけど」
「ごめんね菊野さん、ナツったら美園さんの応援合戦が楽しみ過ぎておかしくなっちゃったの」
呆れたように言う絵里子ちゃんは、いつもは首の後ろあたりで結んでいる髪を青のシュシュでお団子にしている。シルエットが鏡餅みたいで愛らしい。にしても、そんなに吐き捨てるように言わなくてもいいじゃないか。
「あ、そうなの?そりゃあバグっちゃうね、なっちゃんは美園さんが大好きだからね」
「うん、実家からカメラ取り寄せちゃうくらいにはね。さっきからずっとあの調子なの」
「そうなんだ、佐倉さんも大変だね。ちなみにわれら百合組の応援合戦は美園さんをセンターに据えてるから、多分どこにいても見えると思うよ。もちろんその脇にはあたしもいるけどね!」
ぐっと親指を立てるアンリちゃんをまじまじと見て、相変わらず綺麗だなあとため息をついた。少しだぼつかせて着ているジャージまでブランド物のように見える。このモデルのような美少女が、あたしの携帯の中で何人も微笑んでいるなんて思っただけで恐れ多い。今までよくお金をとられなかったものだ。
「アンリちゃん、そう自分を安売りすんなよ」
「なっちゃん向けに売ってんだからいいんだよ」
「あたし貧乏だから払えるもんなんてねーぞ。力仕事とか、そういうのなら大丈夫かもしんねーけど」
「え、なんかしてくれるの?プライスレスって言うつもりだったんだけど、そういうことなら後で何か頼んじゃおっかな」
「おう、任せとけ」
ニヒルに笑ってみせると、絵里子ちゃんがドン引きしていた。「東京湾に沈めるとか……」じゃねーよ。簀巻きとかしないからね。あたしが怖いのは顔だけだからね。