体育委員長と体育祭準備
翔子ちゃんを見ながら思わずにやけていたが、委員長が入ってきたためすぐに背筋を正す。ちなみにあたしの身長は四捨五入して百七十という少々大きめなもので、それに加えて顔が怖いため、家では威圧系女子と散々茶化されていた。ここに来てからはやはり自分はでかいのだと自覚し、今も教室の後ろの方に座っている。間近に威圧系なんてものがいたら、委員長もさぞかしやりづらいだろう。
委員長はベリーショートの弓道部部長だ。本日も大変凛々しい。本人の性格を表すかのようにぴんと伸びた背筋と、しわ一つないワイシャツが眩しく見える。彼女は教卓に置いたファイルを開いてから、よく通るハスキーボイスで話し出した。
「今日の議題は、今月末に行われる体育祭についてです」
それを聞いてすぐに身を起こしたのは、隣で机に伸びていた翔子ちゃんだ。心なしか目が輝いている。
あたしたちは体育委員だ。主な仕事は体育祭の準備運営くらいのもので、あとは時々体育の授業時に先生にパシられる。あたしの場合、本当は美園さんのいる生徒会執行部に入りたかったのだが、役員は選挙で選ばれるうえ、成績優秀者でなくてはならないと聞いて断念した。難関とされる試験に合格した身ではあるが、それを維持できるかと言われたら難しい。つまり、生徒会執行部はエリートの塊なのだ。
しかし何か委員会には入っておこうと思い、楽そうだと思って体育委員に入った。体の丈夫さには自信がある。肉体労働は得意だ。
「ここが私たちの唯一にして最大の正念場です。一人もけが人を出すなとは言いません。ただ、私たちは体育委員会の名に懸けて、誰もが楽しめる体育祭にしなくてはなりません。そのために、皆で全力を尽くしましょう。いいですね」
凛とした委員長の声に、あたしを含めて委員たちは思わず返事をする。教室内にも張りつめた空気が漂う。やはり気合いが違うな、と一人感動していると、早速種目の確認が始まった。
短距離走に長距離走、リレー、障害物競走、借り物競争などの他に、高跳びや幅跳びという陸上競技系が少し加わる。また、実は一番楽しみにしているのだが、応援合戦という、チームごとに衣装やダンスを準備して自チームの応援をするという競技がある。これは毎年クオリティが高いらしく、去年のものも素晴らしかった。ちなみにチーム分けはクラスによって薔薇、百合、菖蒲といわゆる赤白青で分けられる。 あたしのクラスは菖蒲で翔子ちゃんのチームは薔薇。憧れの美園さんは百合だ。
体育委員は運営がメインになる。そのため出られる種目が限られてくるが、応援合戦など本部近くで行われる種目は間近で見ることができるのだ。かわいい女の子たちの応援合戦を、できればカメラに収めたい。
なんて下心を持っていたせいか、それとも見た目の屈強さのせいか、あたしの当日の仕事は力仕事のオンパレードとなってしまった。まあ、帰宅部には丁度いい運動だろう。それに、女の子たちに辛い仕事を任せるくらいなら、全部あたしがやってしまいたい。応援合戦の時間は空くようだし、安心だ。
美園さん、見られるかな。今からもう楽しみになってきた体育祭を思いながら、あたしは配られたプリントに目を通した。