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イミテーションリリー  作者: 緒明トキ
運命の学校祭編
19/28

魔法にかかりっぱなしの野獣とクライマックス

「さ、見せ場だよ。がんばろうね」


 それ以降は何のアクシデントも起こらず、物語はクライマックスを迎えようとしていた。いずみ王子は、最後の野獣の台詞の後急いで舞台裏を移動、スモークの中であたしこと野獣くんと入れ替わるという大仕事を控えている。が、相変わらず緊張している様子は見られない。つくづく大物である。その奥では、アンリちゃんが小道具の剣を何度か振って動きを確認していた。


 そういえば、美女ことベルに愛をささやく自信過剰なイケメン王子役はアンリちゃんだった。ぴったりすぎる。

 映画や舞台では俺様ゴリマッチョとして描かれている役どころだが、最高権力者である監督・桃井さんが「もったいない!イケメンはイケメンのまま使うべきよ!」と高らかに宣言し、この物語は野獣と美女ことベル、そして野獣を倒してベルを妻に迎えようとする王子様の三角関係ロマンスと相成った。


 アンリちゃんが出演することは知っていたが、偶然が重なって結局最後のシーンの直前まで同じ袖で控えていることがなかった。あたしの、というかいずみ王子の青系の衣装とは対照的な、しかしシックな赤系の王子様ルックに身を包んだ姿は、社交界で目を引きそうな華やかな雰囲気を醸し出している。身にまとうものが少し地味だからこそ素材の良さが生きるのだと、今日のうちにあたしは何度痛感させられただろうか。

 アンリちゃんもアンリちゃんで演劇に出るなら教えてくれればよかったのに。我らが赤い王子様は派手好きだしちょっとナルシストだから、いわゆる間男役が嫌だったのかもしれないが。 


 いや、それにしても似合っている。あたしが舞台上で会うのは今このタイミングになってしまったが、それを少し後悔するほどかっこいい。自信満々のあくどい笑顔でさえカリスマオーラにあふれている。

 いずみ王子と並んで立つことがないというのが残念だ。ちょっと見たかったな、善悪王子対決、みたいな。


 別のことを考えて緊張を解そうとしていると、ついに出番がやってきた。最後の見せ場、アンリ王子との一騎討ちからのフィナーレだ。


「『野獣よ、この私が討ち取ってくれる!』」

「『――ここは我が城だ!貴様にくれてやる気はない!』」


 竹本さんにアンリちゃん役をやってもらった殺陣のシーン。いずみ王子の台詞の最後で雄叫びの効果音が入って、それを合図にして同時に駆け出す。剣を避け、腕を振る。右、左、よろけて、間合いを取って、左。一度斬られて膝をつき、じりじりと近寄ってくるアンリ王子の足元をはらい、形勢逆転で覆いかぶさって、振り上げられた剣を飛ばす。とどめを刺そうと腕を振り上げたところで、ベルから制止が入る。


「『やめて!殺さないで!』」

「『ベル!?』」

「『……お前、どうして』」


 動きを止めた一人と一匹がベルを見つめると、ベルは決心したように近づいてくる。スポットライトが的確にその儚くも凛々しい姿を映し出していた。


「『陛下、ごめんなさい。私はあなたと共には行けないわ』」


 赤い王子にはっきりと言うと、次はあたしの姿をしっかりと見据える。観客席もステージも暗く、世界には光に照らされた彼女しかいないかのようだ。


「『私は、彼に言わなくてはならないことがあって戻ってきたの。ねえ、陛下をここから帰してあげて。傷つけあう必要なんてないはずよ』」


 私は黙ってアンリ王子から体を起こす。ゆっくりと立ち上がったアンリ王子は呆然とベルを見つめていたが、ベルが一度しっかりと頷くと、初めは後ろ髪を引かれるように、最後は未練を振り払うかのように走って、舞台から去って行った。それを確認して、あたしはゆっくりと体を倒す。ここからがクライマックス。

 美女が野獣に愛を告げて、魔法が解けるシーンだ。


 ベルこと薫さんが、「『いや、死なないで!』」という台詞と共に、倒れた野獣の体を抱いて仰向けにする。見上げた姿は、光を受けて輝くつややかな黒髪に輪郭がぼんやりと浮かび上がっていて、あ、これ死んでもいい、と思わせるほど神々しかった。


「『どうして戻ってきたんだ』」

「『どうして?そんなの決まってるわ、あなたに会いに来たのよ』」

「『私に……?』」


 いずみ王子の野獣には、ベルが会いに来た。だからハッピーエンドだ。


「『そうよ。あなたが教えてくれたのよ、大切な人のための勇気も、この気持ちも、全部』」


 涙交じりの声に、あたしはきりきりと胸が締め付けられるのを感じていた。薫さんはどうしてこんなに必死なのだろう。

 まるで本当にあたしに言い聞かせるかのように悲痛な響きを持って生み出されていた台詞が、ふと途切れた。


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