桃井さんと演劇
委員会棟の教室は、それぞれ資料置き場のようなもので、とても狭い。迫りくるような本棚といかめしい机、それに申し訳程度のパイプ椅子が壁に立てかけられているだけの、言ってしまえば箱である。
きりっとした容姿にすらりと高い身長の弓道部元部長と、お姫様のような金髪に青空色の目をした生徒会副会長が目の前に立っていると、なんとなく和洋折衷という言葉が思い起こされる。いや、本当になんとなく。
「生徒会で毎年演劇をしているのは知ってる?」
「あ、はい。あの、キングとクイーンが出るやつですよね」
「そう。ステージのトリとして毎年、生徒からの投票で決められた学園のキングとクイーンを主役に据えて、生徒会のサポートのもと何か一つ演劇をしているの。それでね、明日公表されるんだけど、今年のキングは三年四組の榊いずみ、クイーンは我らが生徒会長、美園薫なの」
「ええ!?薫さん出るんですか!?」
思わず身を乗り出すと、桃井さんはどこか自慢げに微笑んだ。なんとも華やかだ。
「ええ。ちなみに演目は、美女と野獣」
「美女!その通りですよね!」
「私が演出を手掛けるの。今年で最後だし、最高の舞台にしたいと思ってるの!」
「ええ、わかりますとも!」
「そのためには、あなたにも出演してもらわなくちゃいけないのよ!」
「はい、ほんとに!……は?え、どういうことですか?」
流されそうになって慌てて踏みとどまると、よくぞ聞いてくれましたとばかりに一度大きく頷いて、桃井さんはばっと両腕を広げた。
「これ、美女と野獣なの!美男風女子と美女じゃないのね、これはいい?」
「は、はあ……」
「イケメンいずみちゃんには、最後の最後に華やかで優雅な王子ルック!で登場してもらう予定だから、野獣の着ぐるみに身を包んでいる暇がないのよ」
「ああ……それはそうですよね」
「そこで登場するのがあなた!」
「は、はいっ!」
びしっと指を差されて背筋を正すと、ふわふわの金髪をかき上げながら、桃井さんは熱に浮かされたような口調で語り始めた。
「前半は着ぐるみの演者さんの動きに合わせていずみちゃんにセリフを吹き替えてもらうの。で、最後の最後で美女の口づけによって魔法が解けるんだけど、その時にスモークがもくもくっと出て、音と光でごまかしている隙にいずみちゃんと着ぐるみさんが入れ替わって、きみが呪いを解いてくれたんだね!でハッピーエンド!喝采のうちに幕が下りるわ!その立役者になってほしいの!着ぐるみに入って!!」
ええと、つまり。
あたしは頬をバラ色に染めて鼻息荒くあたしを見てくる桃井さんを見ながら考える。この子、めっちゃ自慢げじゃないですか。がんばって考えたんだろうな。いや、そうじゃなくて。
「つまり、あたしが着ぐるみ着て野獣役やるってことですか……?」
「そう!!一緒に頑張りましょう!」
いや、なぜあたしが。薫さんと同じ舞台に立てるなんて夢のようだけど。生徒会とかに適役はいなかったのだろうか。
あたしが頷きかねているのを見て、竹本さんが苦笑する。
「一応ダンスシーンや殺陣があるから、そこそこ運動神経がよくて、榊に背丈が似ている知人を探したんだ。あまり内容を漏らされても困るからさ。蒲原なら適任だと思って私が推薦したんだが、クラスの出し物が忙しいとかあったら、遠慮なく言ってくれ」
「え、い、いやいやめっそうもない!あ、あたしでよかったら、頑張らせてください」
慌て頷くと、桃井さんは満足げに、竹本さんはほっとしたように笑った。
「あ、そうそう、悪いけどあなたの練習は主に個人練習になるから」
「ええ!?どうしてですか!?」
「実はその役、私がやるはずだったんだ。でもその日はちょっと……祖母を案内しなくてはならなくて。家族に学校祭を見せるのは今年で最後のチャンスだろ?だからといってあまり大事にしたくもないし、ちょっとした悪事に協力してくれ」
「つまり、私たちといずみちゃん以外には秘密ってことよ、いい?」
その程度だったら素直に言えばいいんじゃないんですか、なんてことを口に出せるわけもなく、あたしはがくがくと頷いた。役得、そう、役得だと思うことにしよう。




