七月二十八日(火)前篇
ある夏の暑い日、とあるマンションの一室に一組の男女がいた。
ここだけ聞けば、多少なりとも色々と期待してしまうのが人の性だと思う。それを本能と呼ぶか悪癖と呼ぶかは個々の判断によるとして。
しかし、正にその一文通りの状況に陥っているものの、俺と彼女の状況はある意味で期待外れ、またある意味では健全そのものだった。
彼女が頑なにカーテンを開く事を拒んだので熱がこもり、室内はむっとした熱気に包まれている。元々カーテンさえ開け放てば海が近く、比較的涼しい立地なのだが、クーラーの利用も電気代という非常に分かりやすい理由によって制限されており、熱気は籠るばかりであった。
「いい加減飽きねえ?」
「全然全くちっとも。暇ならあなたは寝ていてくれて構わないのよ」
呆れ半分にそう問えば、冷ややかな返答をいただいた。彼女は相変わらず、窓の外を凝視したままである。………双眼鏡越しに。
彼女の名前は安芸陽頼。クラスメイトにして、秋山直人という名前の俺とは日直仲間でもある。そして、少し前から『共犯者』。ちなみに主犯は彼女の方。
一見不可思議なこの状況………否、何度見ても不思議な光景だろう。
ベッドの上で胡坐を掻いて漫画を読む俺に、何時間も窓の外を双眼鏡で覗き、微動だにしない彼女。もうこんな日々が、高校生になって三度目の夏休みが始まったあの日、つい一週間前から毎日続いている。
こんな日常が作られるきっかけであり原因の日は、夏休みの始まる、更に一週間程前まで遡る。
読んでいただいてありがとうございます。