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流れ星

作者: いろは

流れ星が消える前に願い事を3回唱えることが出来たなら、その願い事は叶う___。


誰が言い始めたのかは知らないし、いつ何処で知ったのかさえ覚えてはいないけれど、誰もが知っている定番のジンクス。幼い頃は星空を見上げて流れ星を待ったこともあるけれど、成長するにつれて、無情な現実を理解するにつれて、そんな無駄なことはしなくなった。


___流れ星に願うような願い事は叶わない。


これが現在の私の持論。流れ星が消えるまでの時間はだいたい1秒前後。その間に3回も願い事を言うなんて不可能に決まっている。「あ。」と言うだけで精一杯だろう。不可能の中にあるか如何かも解らない可能性を求めて夜空を眺めるよりも、願い事を叶える為に尽力した方がよほど現実的と言える。



「あんたって、本当に可愛げがないよねぇ。」

待ち望んだ放課後に加え、明日が休日なこともあり、皆の浮かれた声で随分と騒がしい教室内。それでも、その呆れたような声音はよく通った。

「余計なお世話。」

窓側の後ろから2番目が私の席。窓の隙間から入ってくる冷気に身を震わせながら冷たい一言を返した。前の席に陣取り、私に失礼な言葉を投げかけてきた彼女とはこの高校で出会った。歯に衣着せぬ性格で、出会った当初は彼女のずけずけとした物言いに本気で頭にキたこともあった。今となっては良い思い出、だと思いたい。

「努力だけじゃあ叶わないことを星に願うんじゃない??」

後ろの席から答えを返してくれた彼女も、この高校で出会い、仲良くなった友人の1人。人見知りで、最初こそ無口だった彼女だけれど、一緒に過ごす中で徐々に心を開いてくれた。

「『努力だけじゃあ叶わないこと』って??」

「例えば・・・・・大切な人とずっと一緒にいられますように、とか。」

「さすが!!可愛げがある。」

「ちょっと黙ってて。

 でも、その願い事も自分が如何に相手を繋ぎ止めていられるか、っていう努力の問題だと思うけれど。」

「誰かとの関係を努力で繋ぐっていうのは、少し違う気がするな。人との関係は自然に繋がるもので、無理と繋げておくものじゃないと思う。時間が経つにつれて、消えてしまうものもあれば、逆に強くなるものもある。それは、本人たちが無意識の内にその関係を大切にしているからだと思うよ。」

「そうそう。難しく考えなくても、繋がるべきところは自然に繋がってるってこと。」

「・・・・・。」

「あ。そろそろ、部活に行かないと。」

「もう、そんな時間か。じゃあ、またねぇ。」

「・・・・・うん、バイバイ。」



部活を終えてから、自宅への帰路につく。2人とは部活が違うので、帰り道はいつも1人。既に陽は沈み、街灯がなければ真っ暗であろう道を、私はいつも下を向きながら歩く。道路に引かれた白線を眺めながら歩くのが、いつの間にか出来た癖だった。

小さい頃から冷めた人間だと言われてきた。事実、間違ってはいない。流れ星のジンクスに対する考えと同じように、多くのことに対して『可愛げがない』考えを持っているから。そんな私は当然のように周囲に馴染めなかった。イジメを受けた訳ではないけれど、友人と言えるような存在はいなかった。いつも独りだった。

しかし、高校に入学して彼女たちと出会った。人生で初めての友達という存在。私の冷めた言葉や態度を非難することなく、受け入れてくれた。学校に行けば彼女たちとくだらない話をして、休日には何処かへ遊びに行って。世間一般的には普通のことだろうけれど、それだけのことが私には嬉しかった。

あと数ヶ月で、私たちは高校を卒業する。それぞれの道を進まなければならない。もう、会えないかも知れない。独りのときは寂しさなど感じなかったのに、彼女たちと会ってからは寂しいばかり。

「『努力だけじゃあ叶わないこと』か・・・・・。」


「お~い!!」

突然、誰かに呼ばれた。辿っていた白線から目を離して振り返ると、そこには彼女たちがいた。

「ど、如何したの??」

「今夜、流星群が見られるんだって。」

「だから、見に行くよ!!」

突然のことに驚いている私の腕を掴んで、どんどん歩き始める彼女たち。私の都合などお構いなし、と言った感じ。あと少しで自宅に着くところだったにも関わらず、また学校まで引き返すはめになった。生徒は皆帰宅したようで、1階の職員室の電気が点いているだけだった。

「・・・・・まさか、屋上で見るつもり??」

「特等席でしょ??」

「他にいい所が思い付かなくて。」

「でも、この時間は立ち入り禁止じゃ」

「気にしない、気にしない!!」

再び腕を掴まれ、引きずられるようにして校舎内に侵入した。階段を上っているとき、廊下の奥に懐中電灯の明かりが揺れているのに気が付いて、心臓が止まるかと思った。結局、誰にも見付かることなく、屋上の扉の前まで辿り着くことが出来たが、未だに心臓は大きな音を立てていた。屋上の扉の鍵は普段からかかっていない。「立ち入り禁止」という張り紙が貼ってあるだけで、本当に禁止する気があるのかさえ怪しい。

ギィっと音を立てながら扉を開いた。冷たい空気と一緒に広がったのは、コンクリートの地面と柵と空。自然と空を見上げた。両隣で彼女たちも空を見上げている。綺麗な星空だった。見上げればいつもそこにあるはずの星空が、酷く懐かしいものに感じた。下ばかり向いている私は、空を見上げることをしていなかったから。


3人でコンクリートの上に寝そべりながら、星空を眺めた。準備の良い彼女たちは、私の分のシートとブランケットを持参してくれていたが、寒いものは寒い。この調子だと、明日は寝込むはめになるかも知れない。

「流れ星のジンクスの話なんだけどさぁ。」

唐突に、今日の放課後にした話題をふられた。何気なく話した内容だったけれど、私が納得していなかったことに気が付いていたのかも知れない。

「・・・・・私にも『努力じゃあ叶わないこと』の意味がよく解ったから、もういいよ。1人じゃあ如何にもなりそうもないことは、星に願ってみるのも悪くないかも知れない。」

『悪くない』とは思うけれど、不可能だと解っているジンクスに頼るしかないような願い事は叶わない。そういうことだろうとも思う。自分でも酷く冷めた考えだと思ったので、話題を変えようとしたのだけれど___。

「そうじゃなくて!!流れ星が消えるまでの間でも“1回”だったら、言えそうじゃない??」

「1回じゃあ意味がないと思うけれど。」

「3人で1回ずつだったら??」

「・・・・・??」

「だから!!私たち3人が同じ願い事をするの。それだったら、“1回”で済むでしょ??」

___彼女たちは、いつでも私には想像も出来ないような答えをくれる。

「『同じ願い事』??・・・・・何を願うの??」


「「ずっと友達でいられますように。」」


泣きたくなった。嘘。泣いてしまった。嬉しくて、ただ嬉しくて。夜で良かったと思う。暗闇が涙を隠してくれたおかげで、彼女たちには気付かれずに済んだ。

ジンクスの内容を勝手に変えて、効果があるのかは解らないけれど、きっと叶うと信じて流れ星を待つ。つい先程まで「無駄」だと思っていた私は何処かへ行ってしまった。彼女たちと一緒にいることで、私は変わっていく。彼女たちの一言で私の持論など脆く崩れる。私が本当に望んでいる答えを与えてくれるから。卒業してそれぞれの道を進む時、それでも私は彼女たちと___。


「「「あ!!」」」


流れ星。



___私たちは今日も一緒に笑っている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 冒頭の語りに引き込まれました。 うら若い女子高生三人が恋愛ではなく同性間の友情を流れ星に願う設定が新鮮です。 「可愛げのなさ」にアイデンティティを見出している語り手の自意識に、この年代…
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